第2話 いきなり推理ですってよ

「ごめんごめん話が飛びすぎた☆」

「お前さあ、まだ渡米二日目だろ!?」

「それは関係なくない?」

「厄病神かよ……」

「どっちかというと墓荒らしかな」

「もっとたちが悪い」


 この話絶対面倒である。しかしこうなった以上この探偵は止まらない。彼を御すことなど当の昔に諦めた。


「もういいよ……最後まで話してくれ。なるべく巻いてくれると助かるけど」

「承知!

 まずはことの発端から。

 今朝、ホテルで朝食を終えて散歩してたんだ。そしたら、公園の方から少年たちがこんな話をしてるのが聞こえてきてね。『ワシントンD.C.の住宅街に、マジでゴーストがいるお化け屋敷がある』だとか」

「なんだそれ。朝からそんな話をしてたのか? 子供たちが?」

「そうだ、妙だろう? だから少年たちに詳しく話を聞いてみたのさ」

「……展開が早すぎるとか、それじゃただの不審者だとか、色々ツッコミたいことはあるが今は置いといてやる。で、続きは」

「そうねぇ。つい先日、摩訶不思議まかふしぎなことが起こったらしいんだ」

「摩訶不思議なこと、ねえ……」


 匡佐きょうすけは目の前の、なんかモンスターハウスみたいな廃屋を指さし、話を続ける。


「地元の子供たちからお化け屋敷と呼ばれているのが、この目の前の廃屋。この庭にある木の背丈が、たった一日で大人の掌一つ分近く縮んだ……らしい」

「なんだそれ?」

「まず順を追って話をしていこうか。この事件の始まりは……」


 ……無駄に長いクソみたいな説明になってしまうが、まとめると以下になる。



 6人ほどの少年たちによる話である。

 二週間前、この廃屋に突然カラスが集まるようになった。そこから少し遅れて微かに異臭も漂い始めた。カラスの中には、何か口にくわえた個体もあった。

 カラスが群がり始めてから3日目、カラスが忽然と消え、異臭も感じられなくなった。そして同じ時期から、深夜と早朝にバイクの音を聞くようになった。


 何か違和感を感じた彼らは、子供ながらに調査を開始。まず廃屋周辺を調べた。庭の木に梯子で登り、見える窓から偵察もしたという。建物周りには散った白い花弁がいくつか落ちていたり、裏庭は雑草がすごいが正面は草があまりなく、そこそこ荒れてるなど、当たり障りのないことしかわからなかった。一つ気になったこととして、微かに物音が聞こえる気がした。この時には日中の物音もあり確信はない。

 ここまでで7日目、つまり今から一週間前である。


 次は中に入って探検することを決め、偵察と準備に3日掛けた。

 カラスが群がり始めて11日目、ついに廃屋内に進入。正面玄関はちゃんと機能していたらしく玄関から入った。玄関を開けてすぐ右手奥に見える階段は、二階と下の両方に続いていた。中は荒れており、窓ガラスが一部割れたり床や天井は軋みがあるが、探索に支障はなし。一階部分の左奥にある部屋には、比較的新しい赤い染みが見られた。また、廊下や他の部屋などと違いホコリが少なかった。

 一階の探索を一通り終えて階段に向かうと、下の方から以前聞いた変な音がはっきり聞こえてきた。二階に行くか下に行くか相談を始めたところ、地下から足音のようなものが聞こえると一人が言い出し、怖くなって逃げ帰った。


 その翌日、つまりカラスが群がり始めた日から12日目。

 なんともう一度探索することにしたという。これ聞いた時とんだ肝っ玉してるなこいつらと思ったね。話が逸れたが、この日はメンバーの事情で夕暮れあたりに決行したという。前回は一階のみの探索に終わったが、今回は二階を探索し、地下は怖いので最後にしようと考えた。

 そして二階を偵察するためもう一度木に登ろうとしたところ、違和感を覚えた。「なんか枝近くないか?」と。試しに一番下の枝に手を伸ばすと……手が届いた。この前は梯子や台を使わないと届かなかったのに、今日はそれら無しで木に登れそうなのだ。まさか一週間程度で身長がこうも伸びるわけないというのに、この状況。一度全員で話し合おうかと思っていたところに、裏庭の草から音がして、そのまま逃げ帰ったという。

 ちなみにその草叢の音の正体は、一部始終を見ていたご近所さんによってただの猫によるものと翌日には判明している。


 以上がお化け屋敷騒動の全容である。

 一通り説明したところで、匡佐が人差し指を立ててこう始めた。


「さてさて、まずは事実を並べていこう。

1.二週間前にカラスが群がり始め、何かを咥えた個体も数体確認された。

2.同時期から異臭もしたがすぐに臭わなくなった。

3.異臭が収まったあたりから以前なかったバイクの音を聞くようになった。

4.建物の地下から音が聞こえてくる。

5.一日で少年たちが木の枝に届くようになった。

ここまでは問題はないね?」

「まあ、そうだな」

「じゃあアラン君、この庭の土を見てみたまへ」


 そう言われて、地面に目をやる。

 何か気になることを言えってことなんだろうか。

 話にあった通り草があまり生えていない。土の色は濃茶色くらいか……なんか柔らかそうだ。


「特に気になることと言えば……この土、なんか新しそうだってことくらいだな。耕した訳がないし……手入れされてるのか?」

「目の付け所はいい。けど違う。ここの所有者を調べだして話を聞いてみたんだけどね、最後にした手入れは一か月前だし、それも除草剤をまくだけで、草が生えてきたらとかいうすっごい感覚的な周期で行われている。それに……この土をちょっと削ってみてよ」


 言われた通り、足で土をいじってみた。すると、表面の土が除かれ、下には少し違う土が出てきた。いや、種類は同じなのだが、なんとなく、質感が違う。


「どうなってるんだこれ?」

「わかるかな? この庭全体に、元々の土と別のものが上に乗っかってるってことだよ。種類は同じ、だけど表面の土は新しい。つまりこれは、土が新しくまかれたことになる」

「……じゃあ、これが木が縮んだっていう話の真相か。いやそれより、よくこんな短時間で所有者見つけ出して話もできたな」

「すごいでしょ! 所有者は近いところに住んでるからね。まあそんなことは気にせず。ちょっと付いて来て」

「待て待て。勝手に敷地に入っていいのか? 訴訟されるのは御免だぞ」

「大丈夫。所有者に会ったとき許可もぎ取ったから。ほらほらおいで~」


 溜息をついて渋々と匡佐についていくと、廃屋の目の前まで連れてこられた。

 何が始まるんだ……?

 そんな疑問はすぐに解消された。

 のだ。小さいがしっかりと聞こえる。


「これは……機械音か? 住宅で聞くような音じゃない。尤もここは廃墟だが」

「そうだ。おかしいよね、少なくとも通常の住居として使われていないし、所有者は建物に機械なんて置いた記憶はないなんて言ってる。ここまでくれば、あとはわかるんじゃない? 君はFBI捜査官なんだから」

「……たぶん……。なあ匡佐さん。いい加減あんたの推理を聞かせてほしいな」

「オッケー。では行こう」


 そう言って、匡佐はカンカン帽を被りなおした。


「さっき整理した5つの事実と、今判明した事実。改めて整理しよう。

1.二週間前にカラスが群がり始め、何かを咥えた個体も数体確認された。

2.同時期から異臭もし始めたが三日目で突如収まった。

3.異臭が収まったあたりから、以前なかったバイクの音を夜と朝に聞くようになった。

4.建物の地下から音が聞こえてくる。

5.一日で少年たちが木の枝に届くようになった。

6.正面の庭全体に新しい土がまかれている。←New!

7.音の正体は機械の物。←New!

 これらを別々に説明する代案はある。単なる不法投棄、地元の動物の死骸、地下の配管や設備の故障、などなど」


 ここで、匡佐が人差し指をピンっと立てる。


「―――どれも一部の事実は説明できる。だけど一部に過ぎない。

 不法投棄や死骸なら、なぜ異臭が三日目で突然止まった? 自然に消えたにしては早すぎるし、片付けたにしても痕跡が雑すぎる。

 なぜ群がっていたカラスが同じく三日で消えた? 食い散らかしただけなら、まだ別の鳥や虫が集まってもおかしくない。

 なぜその頃から夜と朝にバイクの音がするようになった? 近所にバイクを持っている人はいないし、乗りつける知り合いもいないと判明している。

 なぜ地下から機械の音が聞こえてくる? 廃屋に何もないなら、わざわざそんなものを動かす必要は無いはずだ。

 そして、なぜ庭全体に新しい土が撒かれている? しかも表面だけが新しい。それに、その土はどこから来たの?」


 一度言葉を切ると、匡佐は道路に向かって歩き出した。

 自分は黙って少し後ろをついていく。


「偶然で片づけられるものと、そうでないものが混在し、個別で説明するには部分的に疑問が残る。そして、これらすべてを偶然で片づけるのはあまりに横暴だといえるだろう。ならば、どういうことなのか」


 おもむろに匡佐が立ち止まる。

 そしてこちらに振り向いた。


「答えはこうだ。

 二週間前、最初にこの家へ運び込まれたが、カラスを呼ぶほど露出していた。だが腐敗が進みすぎたか、あるいは誰かに気づかれたかで、三日目に慌てて処理に切り替えた。三日目からバイクの音がし始めたのは、単に移動手段がそれだったから。

 地上にあるといずれ誰かに発見される。なのでを急遽地下室へ移した。だけど、何もしなければ匂いはそのままだし腐敗も進む。換気か排気か、或いは腐敗を遅らせる冷却する機械を搬入・稼働を始めた。通電していないから、毎日電源の確保のために出入りしていたのかもしれないね。バイクの音が夜と朝にするのも、目撃されないよう深夜に作業して夜明け前に帰るため。

 そして、それをずっと置いておくわけにいかないから、埋めようと考えた。地下室の床は、所有者曰く土が露出しているから十分可能だろう。

 しかし、カラスが数日も群がるほど大きなものでは、埋められる穴掘りも一筋縄ではいかない。そこで、毎日通うことになった。そして順調に穴を掘り終えた矢先、自分以外にこの廃屋へ入った痕跡を見つけた。見つかるのも時間の問題だと思い、慌てて穴にを埋めた。

 しかし、地下に埋めた以上、土は余ってしまう。室内にそのまま積んでおくわけにはいかないし、外へ運び出せば“運び出した痕跡”が残る。

 そこで犯人は考えた。と。ここはアメリカだから、家には土足で入るのが普通だ。庭に土をまいてしまえば、必ず土が靴裏に付着し、出入りした痕跡が屋内外に散る。建物に入る人間が、出入り口に自ら土をまいてくれるのさ。そして、一部だけに土をまいたら不自然だ。だから庭全体に土を撒いて“差を消した”。結果として地面がわずかに嵩上げされ、木が低く見えるようになった、ということだ」


 匡佐の目が、こちらをしっかりと捉えた。


「では、そのの正体とは? 動物の死骸では規模が合わない。不法投棄ならこの隠し方は過剰すぎる。これらにわざわざ機械を使う必要性はない。そして、少年たちが見つけた新しい赤い染み―――これは何かが最近まであった痕跡だ。

 そこで考えられるのは……もちろん断定はしない。けど、現時点で最も矛盾が少ない結論は―――」


 カンカン帽のつばを押し上げて、探偵は言った。


「この廃屋の地下に、隠す必要のある死体がある、と考えるのが最も合理的だ」


 ……パチパチパチパチ。

 推理を終えた探偵に軽く拍手を送ってやった。

 観客オーディエンスは一人だけだったが、めちゃくちゃ誇らしげにドヤ顔をしていた。

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