第3話 銃撃事件です

 さて。

 水を差すようで悪いが、匡佐には言っておかねばならないことがある。


「すごくすごい推理をありがとう、名探偵。だけど―――」

「だけど?」

「たとえそれが正解だとしても、俺単独じゃ何もできないんだ。ちゃんとした手続きを踏まないと捜査はできないし、そもそも単なる殺人や死体遺棄じゃFBIの出る幕じゃない。匡佐さん、これでどうやって事件化する気なんだ?」

「まあ、そこは大丈夫だよ」

「何故断言できる」

「驚く事勿れ。探検に入った少年たちには後で来てもらう約束をしている!」

「何してんのお前?」


 そして匡佐きょうすけは持論を力説してきた。サムズアップしながら。


「彼らに全部押し付けるぞ! ……と言いたいところだけども、さすがに怒られるからやめておこうか」

「当たり前だバカ!!」

「所有者とは連絡はついてるって言ったよね。だから、 “地下から機械音がする。誰かが無断で使ってる可能性がある”って通報してもらうんだ」

「……なるほど。それなら、MPD首都警察は確実に動いてくれる」

「ここワシントンD.C.だし、首都だよ首都。正体不明の機械が動いてるなんて言えば放っておく訳がないでしょ?」

「そうだな」

「それと、この事件を発見できたのは少年たちのおかげだ。彼らにはヒーローになって貰おうじゃないか。僕たちは、彼らを支援した裏方になれば、面倒ごとは全て任せられるでしょ?」

「ひっでえ奴だな。どうせ取り調べされるのに。笑顔がどす黒いぞ」

「そうだ! DC少年探偵団とかにでもしちゃおっか!」

(こいつ、子供たちを生贄にしようとしてやがるぞ……)


 勝手に探偵団にさせられる少年たちが気の毒でならなかった……。

 

「これで、万事解決よぉ!!」


 …………こいつの中に誰もいなければ、だがな。それは考えすぎか。





 程なくして、件の少年たち生贄が集合した。一体何歳なのかわからないが、日本でいえば中学生あたりだろうか。

 これから面倒ごとに巻き込まれるのか。お気の毒に……。

 そう思っていると、匡佐きょうすけがニコニコ笑顔で話し始めた。


「やあやあさっきぶりだね。ちょっと手伝ってもらえないかな~^^」

 

 詐欺師みたいな笑顔である。ものすごく胡散臭い。そんな顔で言いくるめられるとは到底思えないんだが―――。


 ―――話が終わってみれば……意外にも乗り気だった。なんで?


「君たち、こんな胡散臭い探偵の話、無理して引き受けなくてもいいんだよ……?」

「失礼な。僕ほど信用に値する人間いないだろ」


 詐欺師匡佐の戯言は無視する。


「なんかベイカー街遊撃隊みたいで面白そうだしオッケー!」

「……そっかぁ」


 それでいいのか。当の少年たちが楽しそうなのでまあよしとしよう。あとはもうMPD首都警察を呼んで丸投げしてしまいたい。さっさとFBI本部にこの探偵を連れて行かねばならんのだ。


「はぁ……それじゃ、あとは警察に―――」

 ―――トッ、カサッ。

 廃屋の裏の方から物音が微かに聞こえてきた。

 ……今度はなんだ?

 

「匡佐さん、今の」

「うん。なんだろね」


 互いに肯いて廃屋の方に注意を向ける。


「風は吹いてないしね」

「また猫か何かか?」

「アラン君や、なんか固い音も交じってなかったかい?」

「……確かに。そうかも」

「たぶん靴の……それも、この土ではスニーカーとかじゃ鳴らないはずの音だ」

「なぜそんなことまでわかる?」

「いやー、経験というか慣れだね慣れ。修羅場をくぐると分かってくるよ」


 本当に経験で細かく聞き分けられるのかは疑問だな。

 とりあえず、万が一に備えて服をめくり、腰にある拳銃の入ったホルスターを露出させた。


「仕方ない、予定変更だ。君たちは一旦ここから離れて。それと警察にも通報してくれ」

「おじさんたちは?」

「お、おじさん……、僕たちは二人で確認してみるから」

「アラン君、僕丸腰なんだけど」

「諦めろ、なんとかできるのが二人しかいないんだから」

「えぇー、人使いが荒いねまったく」

「あんたが首を突っ込んだんでしょ。やるなら最後までやれ」

「う゛っ、ぐうの音もでない」


 ぶつくさ言う文句を軽く受け流しながら、音がした方に歩いてゆく。


 廃屋の左右両側には、元々裏に続く通路のような広めの空間があり、そこから裏に続いている。建物の裏は背の高い草が生い茂っているようだ。


 さっきは左の方から音がしたので、二人でそちらに向かって歩いた。

 ―――ただの気のせいであってくれよ。

 と思ったその時。

 が飛んできた。


「「っ!!!」」


 身構えた瞬間。

 甲高い破裂音と真っ白な閃光に襲われた。


「「うわっ!?」」


 ―――眩しい、視界が真っ白だ―――耳鳴りもする。


「―――ッ! 閃光手榴弾か!!」


 視界や聴覚が麻痺した。

 クソが! 

 数秒して視界が戻ると、何者かが隣家の影に走って消えていくのが見えた。

 まだ耳鳴りは止まない。


「――どうする!?」

「警察を待つべきだが逃がすのはまずいだろ!!! 追うぞ!!!」

「オッケー!! 面白くなってきたあ!!!!」


 二手に分かれるよう瞬時に判断。阿吽の呼吸で連携をとる。

 自分は相手を直接追いかけた。


「止まれっ!!!」

 

 後ろについたところで、はっきりと相手の姿がみえた。黒いフルフェイスヘルメットに、上下黒ずくめの服装だ。バイカーのような格好で、昼間でも違和感はあまりない。動きや体つきなどからして男か。

 相手はパルクールさながらに柵を掴み、体を横に滑らせつつジャンプして飛び越えていく。自分も負けじとその後を追う。

 こいつ何者だ? そこら辺の一般人と同じ身体能力じゃないぞ。

 民家7軒の庭を次々と突っ切って、ようやくこの障害物競走(?)のゴールが見えてきた。

 あと2軒抜ければ道路に出る!

 ―――そう思った瞬間、男の走る先に匡佐が飛び出してきた。

 間に合った!


「年貢の納め時じゃあ止まれぇぇぇぇ!!」

「匡佐さん体当たり!!」

「言われなくともっ!!」


 黒ずくめの男が最後の柵を飛び越えたところに、匡佐がそのまま体当たりを敢行した。

 しかし、


「っ!?」


 男は流れるような動作で、匡佐の着物の襟を掴んだ。

 そして。

 お手本のような投げ技で、こっちに向けて投げ飛ばした。


 「「あっ」」


 マズい……。

 こちらはジャンプしたばかり。避けられない……!

 そして匡佐と視線がぶつかった。

 匡佐がウィンクした。

 ―――〇ねぇ!!!! 野郎同士の見つめあいにロマンスなんてないんだよ!

 咄嗟に思ったのは、そんな場違いなことだった。

 こちらへ飛んでくる様子が、スローモーションのようにはっきり見えた。


「「だああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」


 すさまじい衝撃。最初は身体の正面に、直後に木が砕ける音とともに、背中と尻に痛みが襲い掛かった。

 痛ったたたた……痛い……骨は折れて……なさそうだ。

 あー……。

 遠くからサイレンが聞こえてきた。あの少年探偵団(暫定)はちゃんと通報してくれたらしい。よかった。

 あと重い。匡佐が上に乗っかって伸びている。邪魔だな。

 ……いやそんなこと考えている場合じゃないだろ、男はどうなった!?


「男はっ、あの男はどこに!!」

「見当たらないけどっ、ちょっとは、心配してくれてもいいんじゃない?!」

「んなことよりも! 容疑者は?!」


 あたりには見えない。消えた? 一体どうやって……?

 困惑していると、突然いかついエンジン音が聞こえてきた。


「!? バイクか!!」


 排気音を唸らせて、車道の反対側に停まっていた白いバンの影から、大型バイクが飛び出してきた。そのまま、こちらと反対側に向かって逃走を始めた。

 マズい逃げられる!

 ホルスターから拳銃を抜き、バイクに構えて制止を試みる。


「止まれっ!! 止まるんだ!!!!」

「落ち着いて。どうせ止まりやしない」


 ……それもそうか。拳銃をホルスターに収めて、追いかけようとしたその時。

 突然バイクが止まった。

 慌てて警戒を強めた、次の瞬間。

 男がUZIを取り出したのが見えた。


「!?」


 まっっっっずいこれ!!!!!!

 咄嗟に匡佐の襟を掴み、思いっきり引っ張った。


「オ゛ラァ!!!」

「えちょっグエェええええッ!?」

「銃だぞ伏せろ!!!!!!」


 傍にある車の影に匡佐を投げ捨て、自分も慌てて飛び込んだ。

 刹那。

 銃声が響いてきた。

 セミオートだが連射が速い。ガラスの割れる音、車体に弾丸が当たる着弾音が聞こえる。上から砕けたガラスが降ってくる。頭上すれすれを銃弾が掠め、風切り音が鳴る。


「何発撃つ気だよ……っ!」


 銃声が収まった。

 すぐさま車を盾に応戦しようと構える。

 しかし男は追撃をせず、バイクで逃走を始めていた。


「クソッ!!!」

 

 逃げ去るバイクの後ろ姿を睨みつけることしかできなかった。

 まだ有効射程内。この距離なら当てられる自信はある。

 だが―――ここは住宅街だ。外したら市民に被害が行っちまう。

 指はトリガーに掛かっていたが、辛うじて踏みとどまった。狙いは定めたままだったが。


「………何だったんだ畜生」


 少しずつ息を整えて、落ち着いてきた。

 とその時、真後ろからサイレンが聞こえてきた。

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