第12話 捜査会議 そのⅠ

 今いる会議室は、ガラス張りの壁に囲まれた長方形の部屋である。特にセキュリティレベルが高いわけではなく、カードキーも必要ないいたって普通の会議室。当然だが防音性は高い部屋である。

 室内には巨大な電子モニターが前方にあり、それを正面に大きい楕円形の長机が縦に置かれている。机には各人の所属ごとに固まって席についた。


 自分は机の中腹当たりの席に匡佐とセットで座った。


 余談だが、地元警察のGHPDからは副署長と捜査班の面々がいらしている。事件が事件なので妥当だろう。


 今回の会議の議題を以下に整理する。


1 被害状況

2 現場の発見事項(鑑識)

3 聞き込み結果

4 被害者整理

5 犯行手口分析

6 今後の方針



 全員が席に着いたところで主任が口を開き、捜査会議が始まった。



1.被害状況について。



「まず最初に、トラックによる被害状況について確認する。殺人の方はその後だ。簡潔にいこう」


 ウィルキンズ主任がタブレットを操作し、モニターに資料を映した。


「不審なトラックの通報を受け警察が追跡したが、停止命令に従わずカーチェイスが発生。なぜか公園方面に真っ直ぐ向かってきた。約15分間の追跡の末、トラックは強制停止用に配置した車両に突っ込み、進路を変えて公園の駐車場内に進入。駐車していた警察車両とFBIの車両に衝突を繰り返し、木に激突して停車。その後爆発した。この爆発で、FBI捜査官と警察官の合計12人が負傷。

 総合して、軽傷者12名。死者無し。警察・FBI車両21台が損傷。トラックは大破。以上が現時点での被害状況だ」


 言葉を切り、全体を見渡した。


「死者が出なかったのは奇跡だな」


 と警部。


「あと経理が泣いてる」

「それはあんまり言わないでやってくれ警部。さて、何か補足はあるか?」

「州警察からは特に無い」

GHPDグローリー・ヒルズ警察も同様だ」


 そのまま次に移った。



2.現場発見事項。


 主任が右手のタブレットをスライドした。


「では、鑑識の方から報告を願う」


 鑑識担当が前に出てきた。


「はい。まず爆発についての結論から。残骸の一次調査では爆薬反応は未確認です。事故か故意かは現時点では不明。爆発物と思われる不審物や特殊なものも現時点では発見されていません。ただし一点、トラックの物と思われる散らばったガラス片について気になる点がありました」


 タブレットをスライドし、ガラス片の写真が映し出される。


「これが、そのガラス片です」

「それがどうしたんだ?」

「このガラスから、遮光フィルムが確認されました」

「遮光フィルム?」



「はい。遮光フィルム。これは警察車両に装備されていないので、回収された場所から見てもトラックの物で間違いないでしょう」


「つまり、外から運転席は見えなかったんだな」

「どうりで誰も運転手の顔を見てないわけだ! 州警察としてメンツ丸潰れしたかと思ったよ……」


 警部がほっと一安心している。地元警察の副署長さんも同様だ。

 現場にはいなかったケビン達も肯いていた。


「発見されたものは遮光率がかなり高いです。さすがに100%ではありませんが、近くからでもほとんど内側が見えません」

「種類の特定は?」

「現在解析中です。法規制をはるかに超える高い遮光率なので、後付けされたものになります。入手経路などはそこから辿れるかと」


 鑑識担当が話を続ける。

 爆発したトラックの画像と、いろいろと注釈がついた画面に切り替わった。


「こちらは爆発したトラックの運転席部分です。損傷具合や破片の散乱した方向から、ここが爆心地付近であると考えられます。爆発直前に、トラックからの燃料漏れが確認されてはいますが、この爆発様式は通常の車両火災と一致しません。よって、鑑識担当としては、これは人為的爆発だった可能性があると考えています」

「……つまりそれは、犯人が我々警察を狙った可能性が高いってことになるのでしょうか?」

「ま、そう思った方がいいだろう。今後警戒するに越したことはないんだ。断言はできんが、警戒するよう各市警に通達すべきだな」

「爆発物かどうかはFBIのラボが分析中だ。それまで結論は一時保留にする」

「それじゃ、州内の各市警PDにはこちら州警察から通達しておくよ」

「よろしくお願いします」




 ―――――議題が殺人事件の方へ。

 ここからが本題だ。

 トラック暴走は少々被害が大きすぎた。本件とは無関係だとも断言できないため、優先して整理する必要があった。

 なんとも煮え切らないが、とりあえず頭を切り替えていく。


「―――本件殺人事件の現場発見事項ですが、初動捜査から大きな進展はありません。被害者の衣服にはメッセージカードが挟まれていた点。被害者が猟奇的な方法で殺害されている点。そして、現場において容疑者の物と思われる遺留品や足跡は発見されませんでした。遺体の搬入経路及びその手段は依然不明です。」


 何人かが重い溜息をついた。


「また、メッセージカードからは指紋などは検出されませんでした。カード自体は一般に流通している普通の既製品です。インクも同様に市販品でした。被害者の衣服も同様に流通品でしたが、現時点で被害者自身の物かどうかは断定できません」

「あまり収穫はないか……」

「被害者の所持品については、身分証と例のカード、そしてスマートフォンのみが発見されています。携帯は現在中身を分析中です」


 こんどは別の鑑識官が立って報告を始めた。


「司法解剖の結果、死因は『頸部けいぶ切断による即死』であると判明しました。切断面は非常になめらかで、角度が一定です。大型の刃物による切断と推定されますが、器具の特定には至っていません。切断された点以外に外傷は確認されませんでした。

 また、遺体には高度な防腐処理がなされており、死に化粧までされています。死亡推定時刻の判定は防腐処理のせいで難しいですが、体液の処理などを考えると死後3日以内であると考えています」


「……もしかして生きたまま断頭されたか?」

「そうなるでしょうね」

「「「「……」」」」


 場面を想像して首筋がソワソワした。

 これだけ聞けばサイコパスの犯行に思える。が、現場からそんな人物像は浮かばなかったのが気がかりである。


「まあ、抵抗した跡が無いし、意識が無い状態だったとは思うが……」


 警部殿、フォローになっていない。


「以上が現場の発見事項だ。何か補足はないか?」

「州警察から一つだけ」


 トンプソン警部が手を上げた。


「どうぞ」

「トラックの運転手だが、爆発した残骸からも遺体は見つかっていない。その後周辺を捜索したが、運転手も逃走した痕跡も見つけられなかった。以上だ」


 これ以外に補足は出てこなかった。



3.聞き込み結果。


「ライアン、ケビン」


 ライアンとケビンが席を立った。


「聞き込みを行った結果を報告します。まずは、爆発した時に現場にいたマスコミたちの話から。ここでは内容がありそうな証言に絞って報告します」


 と言って、一つ一つ挙げらえれていった。


『窓に太陽が反射していてトラックの車内を確認することはできなかった』

『トラックの動きは迷いがない印象を受けた』

『始終同じ場所に停車していた中継車が一台あった。避難する際にも動かず邪魔だった』

『去年クビになった同僚が何故か報道クルーの服装でいるのを見つけた」

『特に変だと思うものはなかった』

『州警察の警部に機材を蹴られたから弁償してほしい』

『あと暴言も吐かれたのでそれについては別件で追及したい』

『動けない中継車がどこの局か確認しようと思ったが、騒ぎでできなかった。既に移動したのか、気付いたらいなくなっていた』


「―――以上だ。爆発当時の映像などは、できる限りの数をマスコミから押収した。さすがに初日ですべてを回収はできなかった。ただ、近いうちに全部揃うはずだ」


「中継車については、映像解析班が現在確認中です。続いて、殺人事件に関する聞き込みの結果です。近隣住民や街中でも、被害者を知っている人間はいませんでした。また、昨日を含めてここ数日以内に、怪しい又は見慣れない人物や車が街に出入りしたという話もありません」

「現場の公園周辺には民家がほとんどない。最も近い民家まで片道2キロだ。交通局にも確認したが、防犯カメラも交通カメラも無し。手掛かりは見つからなかったよ」


 警部殿が「相変わらず交通局は役に立たねぇ……」とボソッと言ったのが聞こえた。


 一方匡佐は、隣で「迷惑な、中継車ねぇ……」とブツブツ喋っていた。匡佐が現場に来たのは途中からだったので、知らない部分があるはず。後でその時見たことを全部伝えておこう。考える材料になってくれれば万々歳である。


 最後に、「所属する報道機関名と氏名は全員セットで確認していますので、気になる点があれば各自目を通していただきたい。以上です」と言って終わった。他に補足もなかった。

 なんというか……証言ではなく苦情や個人的な感想も入っている。内容がありそうと言っても、これはほぼ役に立たないんじゃないだろうか。


 そのままライアンとケビンが議題を次に進めた。



4.被害者整理。


「じゃ、お次の話題だ。本件殺人事件の被害者三人の整理をする。まずは概要から。

 エミリー・カーター、33歳女性。職業不詳。ニュージャージー州在住となってはいるが居住実態はない。

 マーカス・ベネット、34歳男性。職業はゴーストライター。フロリダ州在住。

 イーサン・マルチネス、40歳男性。職業は弁護士。ルイジアナ州在住。

 ここまではいいな。被害者同士の共通点に行こう」


 ここまでは現場でのブリーフィングと同じ。


「イーサン・マルチネスは、約3年前にエミリー・カーターが起こした裁判で彼女の弁護士を務めていた。現時点でそれ以外に接点は見つかっていない。

 一方で、マーカスは特に二人との接点がない。個人的な交流があったということも確認できなかった。こちらは引き続き調査を行う」


 裁判か。……ご存知かもしれないが、我が国アメリカ合衆国は超がつくほどの訴訟大国である。くだらない内容だったらまず疑う必要は無いのだけれど。


「まず、その裁判における被告は―――イライアス・ウォード、42歳男性。元アメリカ陸軍第75レンジャー連隊所属。公開情報だけを見ても、アフガンへの派遣など実戦経験が豊富です。6年前にPTSDなどの精神疾患を患い退役。3年間精神科へ通院していました」

「所属部隊を除けば、元軍人としては特に珍しくもない経歴だな」



「身内は妻が一人だけ。子供はいません。精神疾患が悪化したのか、3年前に死亡しています」

「また裁判の内容ですが、現在わかっておりません」


 え?


「分かってない!?」

「記録はちゃんと調べたんだな?」

「当然です。アルバートにもデータベースを探索してもらった上での結論です。裁判があったという記録は存在しますが、肝心の内容が記録されていませんでした」

「紛失か……?」

「これの詳細は後日調査します。以上です」



5.犯行分析。


「犯行手口の分析に移ろう」


 主任が話をつづけた。


「現状を鑑みて、殺害方法から遺体の処理・運搬方法などを考えることは難しい。ただし、犯人側はかなり高度な能力を持っていると考えられる。

 それを踏まえて、現場を検分したアラン・匡佐探偵の両名に報告を行ってもらいたい」


 すっくと立ちあがり、話をする準備を整えた。

 プロファイリングの方は報告書がある。改めて説明する必要性は薄いが、形式的に。

 問題は―――最も気になるのが―――匡佐の方なので、先に報告してもらうことにした。


「検分を行った結果について、まずは外部顧問の方から報告をさせていただきたい。その他のプロファイリングについては後ほど」

「じゃあ、まずは匡佐さんの方からお願いします」


 匡佐は返事をすると、座ったまま話を始めた。


「―――現場にあった物のみから事件の手がかりを見つけるのは、少々骨が折れます。今回の事件では、犯人の痕跡がメッセージカードくらいしかないので特に」


 そう前置きをした。


「トラックの暴走・爆発が事件と関係ないとは思えません。ですが、僕としては今回の事件と同一犯、少なくとも協力者によって引き起こされたものと考えます」

「待ってください。その根拠は?」

「いや、すみません。これは単なる僕の勘です。推理じゃありません」

「ああそうでしたか……」

「今のは話半分として了解してください」

「では参考意見として扱います」


 話を中断し、主任が議事録係に向かって言った。


「今の発言は議事録から外してくれ」

「了解しました」


 そう言われて、係官がパソコンを操作する。

 匡佐が話を再開した。


「話を戻しましょう。トラック暴走において一番の不思議な点は〈運転手がどこに消えたのか?〉ということですよね?」

「まあ、はい。なんとも気になる点が多い」

「僕の中では、その謎には既に答えが出ています」


 結構な衝撃発言を放った。

 会議室にも「?マーク」が充満する。


「……と言っても、それ以外には正直自信がありません。でも、この不可解な点を説明できる仮説が一つだけ」


 そう前置きしてから、匡佐がピンッと人差し指を立てて話を始めた。



「運転手など、のです」


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迷探偵の夏休み返上出張録 ~アメリカ合衆国連続断頭殺人事件~ 真夏ノ蒼空 @Kasute_ra

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