第11話 どうしてこうなった? それから……

「総員退避!!!!!!」


 警部の怒号と同時に、全員が一斉に走り出した。


 各々がそのつま先で土を抉る。

 一瞬遅れて立ち上がり、地面を思い切り蹴って、


 一歩、


 二歩、


 三歩、


 四歩。


 そして――――――。












 轟音が響いた。

 肋骨の内側が震える。

 次の瞬間、破片を巻き込んだ爆風が襲い掛かった。

 背中に怪力で叩きつけられたような衝撃が走り、防弾チョッキ越しでもはっきりとそれが感じられた。そのまま風圧に押し負け、目の前にあったパトカーへと全身を打ち付けられた。間一髪で受け身をとり、顔面の打撲はなんとか回避。

 トラックに近かった車両のガラスは割れ、周囲にガラス片が雨のように降り注いだ。辺りには爆発の衝撃で作動した車の盗難アラームが鳴り始めた。


 耳の奥でキーンという音が鳴っていた。

 数秒遅れて、自分が吹き飛ばされたのだと理解する。


「――――ッた……! 本日二度目の全身強打。おかわりは頼んでないぞ……」


 なんで今日はこんなにも災難が多いんだ……。

 心の中で毒づいた。

 トラックの方を見ると、エンジン部分と車の下からどす黒い黒煙をもうもう吐き出し炎を上げていた。特に運転席部分は激しく損傷している、というか原型がないくらいだった。二回目の爆発は……なさそうだ。炎の勢いが増してるわけでもない。

 運転席が完全に吹き飛んでいる。あーらら。あれで証拠残っているかは微妙だな。

 なんて考えていると、警部の大声が聞こえてきた。


「全員無事かッ!? 各員状況を報告しろ!」

「シールド隊は全員無事だ!」

――『こちら351、一名負傷。誰か応援を頼む』

「了解。そちらに向かう」

「全ユニットへ。負傷者の確認と救護を急げ。消火器がある者は消火に回れ。」


 警部は周りに指示を出し、早くも現場を回していた。


 自分は最初に伏せていたため、周りと比べて初動が遅くなってしまった。一番近くで爆風を食らったのだ。近くにいた連中も何人か吹き飛ばされたようである。警部補もパトカーに背を打ち付けており、巡査は耳を抑えてうずくまっていた。既に近くの人員が救護に当たっている。


「郡指令室、こちらトンプソン。グローリーヒルズ公園に消防隊と救急隊を要請。トラックが爆発、火災と負傷者が発生。」

――『了解。消防隊は既に出動中。救急隊を出動させる。』

「了解―――」


 パッパッと埃を払って立ち上がった。改めてトラックの方を見てみる。

 ……何だろう。何か引っかかるような気がする。現在のトラックの状態、突っ込んできたときの様子………これは―――、


「派手に吹っ飛ばされたな。大丈夫か、アラン捜査官?」


 あと少しで何かを思いつきそうだったが、近くから警部に呼びかけられて思考が途切れてしまった。

 うーむ。この程度で考えがどっかに行くということは、大して重要じゃないってことだろう。所々体が痛むし、いまいち思考に集中できないのだ。とりあえず警部たちと合流しよう。


「ええ、まあ、一応ピンピンしてますよ」

「そりゃよかった」

「それより警部」

「?」

「……この事件、労災認定してもらえますかね?」

「はっはは! そりゃFBIの事務方に聞いてくれ。保険会社を泣かせられるといいな!」


 そっと溜息をついた。


「まあ冗談はこれくらいにして、他に負傷者は?」

「ガラスで怪我した奴がほとんど。打ち身をしたロンも巡査も回復しつつあるし、既に負傷者の確認と応急処置は済ませてある。FBIは現場の処理にそこまで気を配る必要はない。

 何かあったら手伝ってもらうが、あんたらにはあんたらにしかできない仕事を優先してくれ。じゃ頼んだぞ!」


 警部が“バシバシ!”と肩を叩いて指揮に戻っていった。痛い。この程度で痛むなら、痣になっているのかもしれない。

 はぁ…とまた溜息をそっとついた。

 吹き飛ばされはしたが、相当変な格好で着地しなければ死ぬこともなさそうだったし問題ないだろう。

 消火器を持っていた人員は総出で消火に当たっていた。標準装備ではないが、消火器が備えてあるパトカーは何台かある。焼け石に水でも、森林火災になったらもっと大変なのでやるしかないだろう。消防車のサイレンも聞こえてきたので、もう少しの辛抱だ。

 さて、色々と調べてみるか。

 遅れて匡佐も顔を出した。


「わーお、この規模の爆発だとここまで人間って飛ぶんだね。実証完了だ(^^)」

「二度と御免だこんな検証」

「そんなことより、君は君であの爆風をもろに食らったっていうのに骨すら折れてないのは甚だおかしい。巡査達はまだ耳を抑えてるのに、君はもうピンピンしてる。体の頑丈さというか、何かが異常なんじゃないかな?」


 まずは心配してくれてもいいんじゃないだろうか。あと異常の方向性は違うがお前にだけは異常だと言われたくない。

 その異常認定に反論するために両手を広げて全身を見せてやった。


「怪我はしてる」


 ほら見ろ、擦り傷や切り傷があるだろ!

 匡佐は一瞥して、


「怪我“は”、してるねぇ……」


 などと、その背後に何かをたっぷりと含ませた一言を返してきた。ジト目でこっちを見るんじゃない。

 匡佐と緊張感皆無の会話をしていたが、匡佐が「いやーしかし」と唐突に切り出してきた。


「この爆発には幾つかツッコミどころがあると思うんだ……」

「……そのご意見には賛成する。だが後で聞こう」

「そっか。まだじっくり観察できてないしそうするよ。ただし、その前に一つだけ聞いておきたいことがある」

「なんだ?」

「確認したいことがあってね。君は運転席を見ることができたかい?」

「運転席? 突入する前にちらっとだけ―――」

「ああいや、その時じゃなくてね」


 え? じゃあいつの時だ。


「スパイクベルトをもってパトカーの後ろで待機してた時だ。その時に正面から―――正確にはフロントガラス越しに―――運転席は見えたかどうかを聞きたい」

「フロントガラス?」


 トラックが見えてから衝突するまでは短い時間だった……確認はしたが印象に残っていない。見えていれば覚えているはずだ。ということは、よく見えなかったんだろう。


「いいや、見えなかった……と思う。そもそも印象に残ってない気がする。運転手を見てたら覚えているはずだけど」

「なるほどね。どうもありがとう」

「それがどうしたんだ?」

「いや、こっちの話。まだただの思い付きなんだ。証拠もないし、外したら恰好悪いでしょ?」

「そうか。けど何かあればすぐに教えてくれ。こっちはお前を頼りにしてるんだ」

「勿論。……ところでさ」

「?」

「いきなり仮面を投げ捨てて僕に敬称付けるのやめたよね。少なくともここは日本じゃないんだしさ、もうしばらくは取り繕っておこうとか思わなかったわけ? 僕が正式にFBIのIDを手に入れてからまだ半日すら経ってないよ?」


 おっとバレたか。


「悪いな、Mr.。お前を敬うなんてやっぱり俺には無理だった。それに、今後はもっと多くの人間と会うことになるんだ。ぎこちなく余所行きに取り繕っていたらボロが出る。今までも振り返ってみろ、呼称も敬称もちぐはぐになってたじゃんか」

「ひっどいねぇ……一応外部顧問っていうフォーマルな立場なはずなんだけど」

桜屋敷匡佐おまえという存在自体がフォーマルじゃない」


 とその時、消防車のクラクションが聞こえた。消防隊が到着したのだった。


 ふと、避難していたマスコミの列を見る。先ほどまで路肩に並んでいた報道車両も、気が付けばほとんど姿を消していた。その中に、一向に動こうとしなかった中継車の姿もない。臆病者め。爆発騒ぎで撤収したのだろうが、まぁ今はどうでもいい。


 その後は、消防による消火と負傷者の搬送、新たに現場保全をするなど、再び現場はあわただしく動くことになった。





§


【FBI:ニューアーク支局内会議室】


 暴走トラックの騒動から数時間後―――。

 諸々の処理を終え、警部たちと共にFBIの支局へと戻って来た。


 被害者の身元が別州に及んでおり、事件は州境を超える可能性が高い点。そして、不審なトラックの爆発という不可解な事象が起こった点。以上の二点から、もはや州警察主導からFBI主導案件になりつつあった。

 ということで、現在は州警察本部ではなくFBI支局に集まっている。警部はこうなるだろうことを見越していたので、引継ぎはスムーズに進みそうである。


 ライアンとケビンも戻り、ウィルキンズ主任が全体指揮を執っている。会議室の大きいモニターの前に主任が立ち、今後の捜査についての話し合いをする。


 この会議の議題は六つ。

 1.被害状況

 2.現場の発見事項

 3.被害者の整理

 4.聞き込み結果

 5.犯行手口の分析

 6.今後の方針


 早く帰りたいと考えていたところで主任が口を開いた。


「それではまず最初に、今回の被害状況について確認する―――」

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迷探偵の夏休み返上出張録 ~アメリカ合衆国連続断頭殺人事件~ 真夏ノ蒼空 @Kasute_ra

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