始まりは、一人の少女サッカー選手への取材だった。
小柄な身体からは想像もできない身体能力を持つ少女・剣奈。その才能に興味を持った週刊誌記者の森田は、彼女について調べ始める。
ところが、一つの疑問を追えば新たな謎が現れ、家族、過去、古い伝承、徐福、不老不死、辰砂、そして何度も姿を見せる不気味な「紅い双眸」へ……。
気づけば物語はスポーツの世界を飛び出し、歴史と民俗、オカルトが入り混じる壮大な伝奇ミステリーへと変貌していきます。
特に面白いのが、主人公・森田の推理です。
記者として抜群の行動力を持つ一方、とにかく想像力がたくましい!
「すべて繋がった!」と確信したかと思えば、新しい証言一つで仮説が崩れ、また組み直す。
その繰り返しが楽しくて、いつしか読者自身も「いや、それは違うのでは?」「でも、もしかして……」と一緒になって真相を追いかけてしまいます。
新聞記事や論文、聞き込み、ブレストなどから少しずつ情報が開示され、次なる土地へ調査範囲が広がっていく構成には、どこかサウンドノベルや伝奇系アドベンチャーゲームを思わせるワクワク感もあります。
そしてコミカルな推理劇の奥にあるのは、森田が剣奈を「取材対象」ではなく、一人の大切な少女として案じるようになっていく温かな感情です。
そのため物語が不穏になるほど、「どうかこの子たちが無事でいてほしい」という思いも強くなっていきました。
笑える。怖い。怪しい。そして切ない。
歴史伝承と現代社会の境界が少しずつ曖昧になり、気づけば「こちら側」から「あちら側」を覗き込んでいる……。
民俗伝承、オカルト、陰謀論的ミステリー、サウンドノベル的な探索感がお好きな方に、ぜひオススメしたい現代伝奇作品です!
皆さんは「ブレインストーミング」という言葉を知ってますか?
あるテーマについて、複数人で自由にアイデアを出し合い、そこから発想を広げていく。英語の“brainstorming”に由来した、「頭の中に嵐を起こす」という意味合いの話し合いの方法です。
この作品、とにかくそのブレストが面白いです。
森田記者が取材で得た情報をホワイトボードに並べ、野崎デスクと一緒に「あれも怪しい」「これも繋がる」と仮説を膨らませていく。
その結果、天才サッカー少女・剣奈の話が、いじめ、エロヒム、人体実験、国家的陰謀論へとどんどん広がっていきます。
森田記者の推理は真実なのか。
それとも……。
読者も森田記者と同じ情報だけを手がかりに、次の仮説へ引っ張られていきます。
気づけば、森田記者だけでなく、自分の頭の中にも嵐が起こる!
果たして森田記者は何を手に入れ、どう考えるのか。
ブレインストーミングの熱量が癖になる、謎多きミステリー作品です。
この作品は、謎を読むというより「疑うこと」に取り憑かれる物語です。取材メモやブレストで散らばった言葉が、読者の頭の中でも勝手に組み上がり、いつの間にか自分まで陰謀論の共同執筆者になってしまう感覚がたまりません。真実へ近づいているのか、それとも恐怖そのものに誘導されているのか、その境界がじわじわ溶けていく読書体験を味わえます。
何気ない会話や違和感まで伏線候補に見えてしまい、ページを閉じても考察が止まりません。そして剣巫女シリーズでおなじみの彼女が姿を見せた瞬間、「世界は確かにつながっている」と思わず頬が緩みました。
伝奇、ミステリー、考察好きなら、この底なし沼に是非一度足を踏み入れてみてください。
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