第10話 第一の事件Ⅳ パトカーの修理代(計14台分、内3台廃車)って合計いくらになるんでしょうねえ(^^)?

――『アラン、こちらトンプソン。送れ。』

「対象は直進傾向が強い。カーブ手前の右車線を封鎖、左へ逃がして曲がり切ったところでスパイクベルトを使用、そのまま公園の芝生に乗り上げ減速させる。停止ではなくトラックの逸脱誘導を推奨したい」

――『リスクは?』

「横転の可能性がある。ただし民間人やバリケードとの正面衝突より被害は限定的」

――『―――OK、採用だ。』


 ひとまず作戦は承認してくれた。あとは実行するのみである。

 というわけで、そのまま車から離れて急いで警部補たちの下へ走った。


――『全ユニット、こちらトンプソン。優先指示』


 その間に警部が無線で指示を始めた。


――『対象車両は直進傾向。よって、これより逸脱誘導を実施する。カーブ手前の右車線を段階的に封鎖、左車線を開放し対象を左へ流す。』

――『337号車(州警察のコールサイン)、了解Copy。右車線封鎖に入る。』

――『追跡中のユニットは、前方への割り込みは禁止。接触リスクが高い。後続は距離を維持、圧をかけすぎるな。』

――『Unit77(地元警察のコールサイン)、10-4了解。後方距離を維持する。』

――『側方ユニットは距離を保って圧を掛けろ。無理に寄せず、対象をコントロールする。』

――『343号車、了解。』

――『349号車了解。一度減速する。後続は注意願う』

――『10-4』

――『スパイク展開班は、カーブ通過直後の直線で展開準備。繰り返す、停止ではなく逸脱誘導だ。全ユニット確認しろ。』

――『281号車、了解。スパイクの準備は完了しているが、現場から転回すべきか?送れ。』

――『その通り、281号車は至急公園側へ回れ。』

――『了解Copy that.。』


 作戦により避難の場所も若干変わる。避難が完了していなかったことで、まだ動かしやすいのがせめてもの救いかもしれない。

 公園前の道路に展開していたパトカーの前で、警部と警部補を見つけた。と同時に、封鎖用と思われる数台のパトカーが早速動き出したのが見えた。


「警部、警部補!」


 と、すぐさま声をかける。


「捜査官!」

「おう来たか」

「今の車は封鎖用ですか?」

「そうだ。とりあえず部隊は動かしたぞ。だがどこでスパイクベルトを使うかで、少々封鎖の仕方を変えなきゃならんだろう。作戦の詳細を聞かせてくれ」

「分かりました。まずはスパイクの位置を―――」

「おーいアランくーん!⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン」


 なんか来た。


「帰れ!」

「えっ(゚Д゚;)!?」

「なんで来たんだ!?」

「いやいやいや!? 作戦の原案は僕だし? 失敗した時のプランB以降はウィルキンズ主任が既に手配してるし? じゃあ細かい調整するなら僕が適任でしょ!」

「じゃあ頼んだ」

「承知!」


 行動開始。

 そう思った、次の瞬間。

 警察無線から主任の声が聞こえてきた。


――『ETA3分切った、繰り返す、3分以内。全ユニット、歩行者排除及び逸脱誘導の準備急げ。』

「「「ナンテコッタイ!」」」


 またまた警部・警部補・自分の三名がハモった。

 匡佐は表情が変わらなかった。

 匡佐の肩を掴んでぐわんぐわん揺らす。


「急げ匡佐ぇ!!!」

「わかったわかった! 今やるから! 最初に、カーブ直前は横転するから封鎖しない。カーブの5~10メートル程手前がいい。ところで、封鎖には何台向かいましたか警部?」

「とりあえず3台だ」

「だとしたら、パトカー同士はちょっとずらして配置。一台だけだと最悪の場合強行突破されます。大型車両は障害物を一点突破する傾向があるので」

「分かった。――ロードブロック班、こちらトンプソン。全車両はカーブの5メートル程度手前に展開しろ。配置は一列縦隊、車両同士は少しずらせ。」

――『了解。』


 サイレンの合唱が遠くの方から微かに聞こえてくることに気が付いた。

 焦りが募り、夏の暑さのせいではない変な汗が額から垂れてきた。


「スパイク班は、公園正面のこの直線で展開。さっきの警部の指示通りカーブ直後にしますが、曲がり切った直後は右にハンドルを切ってくるはずです。そこでパンクさせたら横転の可能性が高くなる。だから、車線に戻って左にハンドルを切る地点、そこでスパイクを仕掛けましょう」

「匡佐さん、そもそもトラックは車線に戻ろうとしますかね?」


 ロン警部補が疑問を投げた。


「そうですね……人間は急ハンドルを切ったら、焦って咄嗟に軌道を修正しようとするものです。だからこそカーブを曲がり切った直後、右車線と左車線に交互にパトカーを配置して運転にゆさぶりをかけたい……のですが、うまくいくかどうか」

「どのみち選択肢はないだろ探偵さんよ。――スパイク班、公園正面の道路の中央地点に集合。スパイクはこちらで展開する。」

――『281号車、了解。』

「巡査部長!」

「はい!?」

「あそこのカーブ手前で、両車線に車を一台ずつ交互に配置しろ! カーブには近すぎるな!」

「承知しましたッ!」

――『ロードブロック、配置完了。』

「ぃよしきた!」


 SUVのパトカーが近付いてきた。

 いつの間にか戻って来ていたらしい州警察の281号車である。

 そのまま公園と反対側の、マスコミが避難している広い路肩に停車し、助手席からスパイクベルトを持った警官が降りてきた。

 そんな中でも徐々にサイレンは近付いてくる。


「他には!」

「パンクしたら一瞬だけコントロールを失う。そこをパトカーで挟み込み、芝生のある公園側に無理やり誘導する。これで最後かな」

「わかった」

「もちろん、通常だとパトカーじゃ押し負けますけどね。しかし、パンクした上に一瞬でも制御を失ったトラックなら不可能ではありませんよ、警部補。ああーそれと警部、これを追跡班にやらせたら配置した車両と衝突する可能性がありますね」

「確かに」

「なので、誘導はここの車両で行いましょう。道幅は心もとないですが、加速する距離は十分です」

「注意を促しとく。追跡中の全ユニット―――」


 警部が指示を出している間に、警部補が近くの巡査達を呼んだ。


「ベン、ニック! お前らちょっとこっち来い!」

「はい?」

「何でしょうか」

「スパイクベルトの配置を手伝ってほしい。こっちを頼む」

「「了解」」


 スパイクベルトを二つ持ち、展開地点へと走る。


 そもそもなんで具体的な通過地点が分かるんだ? と思ったが、アルバートにシミュレーションもしてもらって一番確率が高い予測経路を出したらしい。あとはこっちで微調整するだけって寸法だそう。

 ただし匡佐は「まーそんなことせずとも僕には予想できたけどね」などとドヤ顔でほざいてきた。コンピューターと張り合って何の意味があるのだろうか。


「刑事、そっちは優先的にマスコミを排除しろ!! 轢かれるぞ!!」

「でも残った機材はどうするんですか警部!?」

「んなもん蹴ってでも退かせ!!!! 動かさないバカどもが悪いんだ!!!!」


 と、警部は中指を立てる。


「何だって!? 壊したらきっちり請求させてもらうぞ!!」

黙れカスShut the hell up!! 命が惜しけりゃさっさと避難しやがれってんだッ!」

「はぁ!!??」


 去り際にめっちゃ暴言を吐いていった。

 後々州警察(特に警部)がマスコミから訴えられそうな発言である。

 そんな阿呆なことを考えていたら、林の向こうに赤と青のライトが見えた。

 サイレンも近い。

 匡佐が指示した通過予想地点に到着。

 紐を持ち、反対側の道路脇にスパイクを置いて構えた。

 スパイクベルトは車が通過するタイミングに合わせて展開しタイヤに噛ませなければならないのだが、これがまあ難しい。味方も一緒にパンクさせるのはまだいい方で、下手したら轢かれるリスクもあるのだ。車の影にいても、容疑車両に突っ込まれれば無事では済まない。


――『281号車コンタクト。』

「来たぁッ!」


 警部がそう吠えた、次の瞬間。

 カーブの向こうから、タイヤの激しい摩擦音と共に白い大型トラックが現れた。

 匡佐の(正確にはアルバートの)予測通り、反対車線に大きくはみ出して曲がって来た。車体は正面から見て右に傾いている。

 スピードを緩めずにパトカーを避けて、そのままカーブに突入したようだった。

 その後ろに追跡していたパトカーが続く。

 よしよーしそのまま―――。

 と思ったのも束の間。

 トラック更にエンジン音を唸らせて―――。

 こちらの想定はあっさりと崩れ去ってしまった。


「「「「はぁっ!?」」」」


 トラックは速度を落とさず、そのまま“ドガァァァン!!!”と、右車線に配置していたパトカーに正面から突っ込んだ。


「「なんでやッ!!!」」


 匡佐と同時に思わず日本語が口から出た。


――『クラッシュ! クラッシュ!』

――『対象車両が封鎖車両に衝突』

「なんてこった……」


 反動でそうなったのか、ハンドルを左に切ったのか、トラックは衝突した勢いのまま左に進路を変え、そのまま公園の駐車場内へと進入していった。元々駐車していた警察車両や木の柵を破壊しながら進んでいく。


「全員退避!!」


 だああああああ!

 シボレーがひしゃげた!

 フォードもやられた!

 鑑識車両のドアが!!

 被害額がどんどん計上されていく……なぜだか特にFBIの被害額が。

 続けて追跡して来ていたパトカーは、急ブレーキと急ハンドルを駆使して駐車場内に特攻していった。

 急激な減速と進路変更にもかかわらずコントロールしているのは流石の運転技術である。しばしば起こるカーチェイスで培われた能力だ。これを凄いと賞賛するべきか、治安が悪いと嘆くべきかは判断し兼ねるがこの国じゃ標準である。

 大質量による破壊の限りを尽くした直進の末、公園周りにある林の木の一本に正面から突っ込み、停止した。

 エンジンルームから白い煙が立ち昇っている。

 続々と到着したパトカーがトラックを取り囲んでいく。

 それぞれが銃を構えて車から降りると、そのまま降車を呼び掛け始めた。


「運転手、今すぐ車から降りろ!!!」

――『343より応援要請』

――『了解』

「車を降りろ!!」

「さっさと出てこい!」


 現場にいた警官や刑事達も近くの車を盾にして、銃を構えて臨戦態勢になっていた。

 自分達も車が来ていないことを確認、道路を走って渡り近くのパトカーを盾にする。そこで自分も拳銃を抜いた。

 

「警部、警部補、行きますか」

「ああ、とりあえず俺が指示を出す。現場の指揮官としちゃあその方がスムーズだ」

「分かりました」

「ロン、お前と俺はアラン捜査官とチームを組む」

「はい」

「ベン、ニック、カバーしろ!」

「「了解!」」

「匡佐はここで待機だ」

「オッケーだよアラン君!」

「準備はいいか? それじゃ―――行くぞ」


 トラックの方を窺う。

 警官たちは引き続き降車命令を呼び掛けていた。着実に圧を掛けている。

 少し進んだところで警部が指示を出した。


「シールドを貸せ巡査部長」

「もう一枚いりますか?」

「いや、お前が持って構えとけ。カバー頼む」

「了解しました」

「よし、前進」

「了解」

「カバー頼む」


 トラックに近かった警官たちも、パトカーから盾を持ち出していた。数人一組で縦に並び、少しずつ接近。周りは誤射しないよう射線に注意しカバーする。

 さぁ、我々も巡査達の後に続いていこう。

 前から、盾持ちのベンとかニックとかいう巡査二人、警部補・自分・警部の順で並び、片手は警部補の肩に添え、もう片方は銃を持って歩んでいく。

 巡査達がドア前に到着、そのまま警棒を取り出して窓ガラスを叩き割った。

 ドアをこじ開ける。

 即座に盾持ちが先行。


「動くな!」


 運転席を確認。

 続いて自分たちも回り込んで援護する。

 警官数人が車内を覗き込んだ。


「運転席クリア!」

「助手席クリア」

「……誰もいない!!」

「はあ!?」

「後部スペース確認中」


 ……意味が分からん。

 ここで、警官が一人だけ車内に乗り込んだ。


「……車内クリア!」

「んなバカな!」

「どうします?」


 逡巡して、警部は指をクイックイっとジェスチャーする。


「……一旦降りてこい。警戒はそのまま」


 ……っまさか! と思って咄嗟に地面に伏せた。


「ぬぉっ!? おいおいどうしたんだ捜査官?」

「いや、車の下に潜り込んでいないかなと思って……」


 うーむ。期待していなかったが、やはり運転手はいなかった。

 やってから思ったが、そもそもトラックの運転席に抜け穴なんて構造上作れないだろう……。やっぱりどうなっているんだろうか?

 というか、……なんかトラックの下から液体らしきものがドバドバ漏れ出ている。


「―――警部……車の下にはいませんがなんか液体が漏れてます」

「液体? ……ッ、そりゃ燃料か!?」

「ゑっ!?」


 警部がトラックを見た。

 立ち昇る白煙。

 漏れ出る燃料。

 そして、顔色が変わった。


「燃料漏れだ!」

「総員退避!!!!」


 警部の怒号が現場に響き渡った。

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