第7話 第一の事件Ⅰ ブリーフィング
中央広場に続く道を、NJSP=ニュージャージー州警察の巡査達と歩いていく。
木々に囲まれ、木漏れ日が降り注ぐ道。そして、日本では聞きなれない単調なジーーーというセミの鳴き声が、森にこだましていた。
「サスペンスドラマだったら百点満点の舞台だね」
道中、
「……確かここら辺の森林地帯は、実際にロケ地になっていたはずだ。その表現は強ち間違いじゃない。滅多に事件は起きないし起きてもらっちゃ困るけどな」
「ほえー!」
「追い出されるからはしゃがないでくれ」
「おや失敬」
地元警察はほとんど外側の警備だけで、公園内には州警察の刑事や鑑識、そしてFBIの
NJSPやFBIと書かれたジャケットを羽織っているので、一目で判別できる。
グローリー・ヒルズ公園には、一番広い中央広場と、少し小さい東西南北の名をそれぞれ冠した広場が4つ、合計5つの広場がある。
死体があるのはその中央広場だ。
そして、捜査指揮所となるテントがあるのもそこである。
道を歩いて間もなく、白いテントが見えてきた。道を抜けると同時に、青空と太陽が目の前に現れた。
テントまで真っ直ぐ歩いていき、垂れ幕を手で押しのけ中に入る。
匡佐もまた後に続いた。
中に入ると、視線が一斉にこちらへ向いた。
「おいでなすったな」
初老の男性がそう言った。
州警察や地元警察と思しき面々を除けば、見知った顔が勢ぞろいである。
鬼上司―――ウィルキンズ・ロビンソン統括特別捜査官(主任)―――のことは脳みそが認識することを拒否した。居て当たり前なのだが嫌なものは嫌である。自分より優秀な人間と相対するのは精神的に疲れるのだ。
匡佐は例外。こいつは別の意味で疲れる。
誰からと言わず、匡佐と二人で一人ずつ握手を交わし自己紹介を始めた。
まずは州警察の方々から。さっき発言した初老の男性が口を開く。
「そちらが例の……コンサルタントか。NJSP刑事部重大犯罪課のマイケル・トンプソン、警部だ」
「同じく、NJSP重大犯罪課、警部補のロン・マーティンと言います」
「FBI特別捜査官の、アラン・スミスです。よろしくお願いします」
「どーもどーも、
匡佐の現代日本ですらまったく合わない格好に目に見えて戸惑っていたが、何も言ってこなかった。さすがは州警察。(絶対関係ないけど)スルースキルが高い。
続いて地元警察の巡査と思しき人。
「
「そうでしたか。よろしくお願いします」
資料で知ってたけど。
「後で聞きたいことがいっぱいありますから、どうぞよろしく^^」
「ど、どうも……よろしくお願いします」
「彼の格好は気にしないでください。気にしたら負けです」
「え、ああはい……」
そして最後に、自分の所属するチーム、FBIの鬼上司と愉快な仲間たち。
まずは、白髪交じりの黒髪で銀縁眼鏡をかけた初老の男性、ダンディーなイケおじの我らが主任から。
「匡佐殿、会うのは初日以来2回目ですが、改めまして。FBIのウィルキンズ・ロビンソン統括特別捜査官です。この捜査チームの指揮官になります。よろしくお願いします」
「どうぞよろしく」
次に、自分と同じ普通の捜査官たち。
「えーと、同じくFBIの、アルバート・ブラウン特別捜査官です。専門は情報工学です。普段はデスク仕事なのになぜか分析担当として連れてこられました。よろしくお願いします」
……アルバートは、肌がオリーブ色で、黒髪は短く刈り込んでいるが癖毛が多い奴だ。髪同様に性格もちょっと癖がある。
どことなく匡佐っぽい性格だが、アルバートの方がかなり大人しい。
デジタル証拠に強いデジタル・サイバー担当。
電柱の件で彼に頼らなかったのは、捜査以外の困りごとをアルバートに頼ると主任に全部バレるからだ。主任の勘が鋭すぎる。
なので、そういう時は基本的にエディに頼っている。
ちなみにエディとは大学の同期かつワシントン支局時代の同じチームだった。
「ケビン・アンダーソン特別捜査官です。お会いできて光栄です」
ケビンは、茶髪に茶色の目をした男。
比較的細身の体つき。
警察との調整や令状の手続きなどの雑務を得意としている。
主に連携などの橋渡し役になることが多く、交渉とかでよく助かる。
あと匡佐は会えて光栄に思うべき存在ではない。
「ライアン・クラーク特別捜査官だ。よろしく!」
ライアンは社交的で観察眼が鋭いという、尋問が得意な男。あとうるさい。
ブロンドの髪と筋肉質な体格をしていて、着痩せするタイプなのだがそれはどうでもいい。
あともう一人。
科学分析官のアイリーン・コールドヴェルという人物がいるのだが、彼女は基本ラボにこもっている。滅多なことがない限り現場には赴かない。そもそも普通は来る必要があまりないので、当然と言えば当然だろう。
なんかこの面々を見ると、「匡佐いらなくね?」と思うかもしれない。
俺もそんな気がしてきた。
だが、
顔合わせが終わり、それぞれがテーブルを囲むように立った。
そして主任が口を開く。
ブリーフィングが始まった。
「これで、全員が揃った。まずは本件の概要を整理していく。現在まで捜査を主導している州警察の方から説明を願いたい。トンプソン警部、よろしいですか」
「分かった」
視線を警部の方に向ける。
「まずは簡単に情報を共有する。今朝06:00頃、この公園の管理人による通報で、死体を発見。場所はこの中央広場だ」
警部がホワイトボードに貼られた写真を指し示した。
「被害者は3名。全員が、頭部を切断された状態で発見。胴体は大樹の前に整列され、頭部はそれぞれの胴体の前に置かれている。服は整えられ、かなり丁寧に現場を作ったといえる」
ここは資料の通りだ。
「現場に争った形跡は無し。血液の散乱もなし。これらのことから、殺害現場は別の場所である可能性が高い。そして―――」
と、警部が少し間をおいて言った。
「容疑者のものと思われる痕跡が、全くない」
……それが州警察の結論か?
気になったので質問してみる。
「ちょっとよろしいですか」
「どうぞ」
「D.C.からの移動中に見た資料は、
「ああ。驚いたことに、何も見つからないんだ、何も。当然細かい分析は時間がかかるから、ラボからの報告はまだですがね。容疑者のものと思われる遺留品や遺留物が何もない。足跡もないし、芝も土も乱れていない。
現状断言はできないからこれは私見ということになるが、死体は明らかに運ばれたものだろう。それなのに、引きずられたり台車を使ったりなどの運搬の痕跡すらもないんだ。大人の人間という数十キロの物体だぞ? 一体どうなってるのやら……」
「なるほど……被害者の身元は?」
警部がIDカードが映った写真を示した。
「被害者はそれぞれ女性1名と男性2名。被害者の服には、ご丁寧に3人ともIDが仕舞われていた。現在はまだ確認中だが、IDではこうなっている。
エミリー・カーター、33歳女性。職業不詳。ニュージャージー州在住、となってはいるが居住実態はないようだ。
マーカス・ベネット、34歳男性。職業はゴーストライター。フロリダ州在住。
イーサン・マルチネス、40歳男性。職業は弁護士。ルイジアナ州在住。
「IDを信じるならば、現状は被害者の共通点が見えてこない」
と、そう主任が口をはさんだ。
警部が続ける。
「そして、更に不可解なのは遺体が腐っていないという点だ。奇妙なほど綺麗で、虫も湧いておらず腐敗が進行していない。死後に経過した時間と明らかに合わない。すでに分析へ回しているから、今は結果を待っている」
警部が間をおいて言った。
「そして最も問題なのは―――こいつだ」
ここで、警部があるカードの写真を掲げた。
「”- Bring Back America’s Glory ―――アメリカよ、再び栄光を―――” 。このカードにはそんな文言が書いてある」
……匡佐を除いて、ここにいる全員が押し黙った。
「鑑識によれば、このカードはすべての被害者の服に挟まっていた。現場の状況、そしてこのカードから考えられるものとして………この事件は、メッセージを伴った劇場型殺人である可能性が非常に高い。そこで、現時点での最優先事項はこの3つ」
トンプソン警部が指を三本あげた。
「1.被害者の身元確定
2.現場の完全な再検証
3.過去の関連事件における同一犯の可能性の洗い出し
以上の3つだ。
我々州警察は、現場と周辺の聞き込みを担当。地元警察は現場の外周警備と交通規制の継続。そして―――」
警部がこちらに視線をよこした。
「FBIには、プロファイリングと広域捜査に入ってもらいたい」
これには主任が答える。
「了解した。データベース上ではすでに調査を始めている」
「('ω')ノはい! ちょっとよろしいかな?」
とここで、匡佐が雰囲気をぶち壊した。
しかも誰も嫌な顔しないってのが怖い。
此処にいる人適応力高すぎではなかろうか。
「何でしょうか」
「この現場と死体の状況、妙な点が満載ですね。現場を見せてもらっても構わないかな?」
「……ええまあ、大丈夫です。そちらの捜査官が附いていますし……。ただし、我々が立ち会います。単独行動は控えていただきたい」
「勿論です」
―――ということで、ブリーフィングが終了した。
ウィルキンズ主任は矢継ぎ早に指示を出し、それぞれに的確な役割を与えていく。
「アランは引き続き、匡佐殿と行動を共に。比較的自由に行動してもらって構わん。彼のサポートも任せる」
「了解しました」
「アルバートはデータベースから―――」
話を終えてテントを出る。
俺と匡佐は、警部たちと共に現場へ足を踏み入れた。
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