第6話 事件現場へ到着

7月1日

11時05分。



 飛行機でニューアークに降り立った。


 約一時間前までワシントンD.C.にいたことになるが、こちらも変わらず晴天である。

 ターミナルを出ると……滅茶苦茶暑い。ちょっと外にいるだけで汗ばむ陽気だ。

 スーツを着ていなかったのが、数少ない救いの一つだろう。空港の中は涼しかったため、一層暑く感じる。


 スマホを開くと、支局からこんなメッセージが来ていた。

 『ターミナルA、黒のタホ。』

 車のナンバーも書いてある。

 空港のターミナルを出ると、すぐ近くに黒いシボレー・タホが停まっていた。

 ……絶対こいつだ。


「ターミナルAで、ナンバーは送られてきたものと一致……よし。おーい匡佐さん、車あったぞ」

「はーい。今行くー」


 辺りをフラフラ歩きまわっていた匡佐を呼び戻した。

 車内を覗いてみると、ダッシュボードの上には茶封筒と”FBI”と書かれた書類が乗っていた。

 間違いない。

 あとはキーだけ。これはパスワード付きのロッカーにあるらしい。メールに書いてあったパスコードで鍵を開け、車のキーを回収。そのまま乗車した。


 早速車の中を物色する。別に邪な気持ちがあるのではなく普通に確認作業である。

 さてさて、どーんな装備が入ってるかね。


 警察無線機にノートPC、医療キットと証拠採集キット。後部座席の方を見ると、更にフラッシュライトに拳銃の予備マガジンと弾薬ケース、防弾チョッキまで入っている。

 うん。普通の装備だ。

 なぜか折り畳みシャベルまであった。これはいらないだろとツッコミたくなった。


 封筒の中には、現時点でわかっている事件の資料がまとめられていた。ここにあったノートパソコンを見ればデータが入っているはずだが、官有物を匡佐に触らせる訳にはいかないってか?

 匡佐には、この資料を運転中に見てもらおう。


「さてと。そろそろ行こうか。じゃないと遺体が運び出されちゃうし」

「そうだな。あと、事件の資料がそこにあるから。シートベルト締めろよ」

「言われなくとも。―――あそうだ!」


 なんだ?

 匡佐がすごく期待に満ちた目でこっちを見ている。


「サイレンとか鳴らしちゃう!?」

「無理に決まってんだろ」

「なんで!」

「緊急事態じゃないから。以上」

「えー」

「渋滞の強行突破には使ってやってもいいけど」

「今じゃないとつまらんねぇ」

「アトラクションか何かだと思ってんのか?」

「愚問だね。当然でしょ」


 呆れて頭を抱えた。

 だめだこいつ。


「どうせ急いでるんだ。高速道路では飛ばしてやるからそれで勘弁してくれ」

「ならば良し」


 いいんだ……。


 ウィンカーをあげて車を発進し、そのまま接続している高速道路に入った。

 目的地は、ニュージャージー州の南部にある森林地帯パインバレンズ。

 120キロ近いスピードを出して現場へと車を走らせた。





 1時間30分後。

 現在は、木々がうっそうと茂る地域にいる。

 背の高い木に囲まれた、広くはない田舎道。

 もう正午なので太陽は天頂にいるが、林に囲まれ遠くが見通せず暗く感じる。決して暗くないのだが、雰囲気が暗いというか。運転席でそう思った。

 匡佐はと言えば、森に入ってから……、


「深い森、道路は細い、背丈が高い木や草、昼間も薄暗い、遠くまで見通せない、人通りもない、殺人には御誂え向き……いやしかしメッセージを出すならもっと目立つ場所で―――」


 などと、さっきからブツブツつぶやいている。自分の世界に入ったらしい。

 と言っても、実はそっとしておく必要はない。どうせあとで勝手に推理するので、邪魔が入っても支障がないのである。こういう所は扱いやすいんだけどな……。


 もうそろそろ到着だ。

 と、思ったのに。

 思わずハンドルを”ドンッ”と殴った。


「パパラッチが邪魔だな……クソが」

「こりゃすごいねぇ」


 現場周辺が交通規制されているのをいいことに、道路がマスコミのたまり場と化していた。もう嗅ぎつけたのか。随分と早いだ。

 邪魔で中々進めない。

 車で近付けばちょっとどいてくれるのだが、如何せん数が多い。


 埒が明かないので、ちょくちょくサイレンを鳴らしつつ進んでいく。

 そうして、大量の警察車両が停まっている規制線の前にやっと到着した。


「ワオ、まるでクリスマスイルミネーションだねぇ。めっちゃ明るい」

「これで標準的な量だ。街中だったらもっと多いかも」


 実際に、どっかの市警察のパトカーはクリスマスツリーと揶揄されていた。確かシアトル警察だった気がする。警察車両や救急車のライトは一台だけでも結構眩しいのに、今は何台も集まっているので超明るい。


「さあ、さっさと降りて行くぞ」

「オッケー!」


 車を停めて、同時に降りた。

 大きな看板には「グローリー・ヒルズ公園」と書いてあった。


 規制線の前には歩哨の警官が複数立っていたので、その内の一人に近づいていく。

 ポケットから、バッジとIDが入った黒い革製の手帳を出し、開いて見せた。


「FBIの、アラン・スミスだ」

「同じくコンサルタントの、桜屋敷匡佐さくらやしき きょうすけでーす」

「連絡はすでに入っています。中で警部とFBIの捜査官方がお待ちです。どうぞ」

「ありがとう」


 黄色いバリケードテープをくぐって、公園の敷地に入った。

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