第5話 事件はニュージャージーにあり

 アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.を管轄する、コロンビア特別区首都警察。

 略称としては、普通に首都警察Metropolitan Police Department=MPDやMPDCなどと呼ばれている。通称はそのままDC警察。ちなみに警視庁も首都警察なので、MPDと呼ばれることがしばしばある。

 ワシントンD.C.の法律上の正式名称はコロンビア特別区District of Columbiaというのだが、なぜそんな名前なのかについては歴史の授業になるので割愛しよう。


 そして、MPD本部は、ヘンリー・デイリー・ビルディングという建物にある。

 クラシカルモダン建築とかいう俺にはよくわからん古い石造りの建築物だ。本来は別の建物だが、現在は大規模改修工事のためここが暫定本部となっている。

 政府機関庁舎の老朽化は、アメリカも日本も課題らしい。



 そして現在。

 まだ午前中だというのに結構疲れてしまった。

 匡佐きょうすけの自由行動がまさか銃撃事件に発展するとは思わないじゃん……。一日が始まってまだ数時間しか経ってないのが信じられん。

 そんなこんなで、MPDの本部に向かう途中のこと。


「一つ疑問がある。あの男が何者だったのかってことだ」

「君はどう思う?」

「うーむ……まず、あの身体能力と運転技術は一般人じゃないだろ。そして、閃光手榴弾は簡単に手に入るが、フルオートができるUZIなんて持ってるのはおかしい」

「そうなの? ていうか、あれ単発で撃ってなかった?」

「安全装置を外すとき、奴はフルオートまで一度回してた」


 バイクが止まったとき、容疑者は懐から銃を取り出した。その時に見えたのは、フルオートまで安全装置を回転させていたところだった。


「そもそも、連射できる銃は規制が厳しいし、民間で買えるのは単発しか撃てないUZIモドキだ。あり得るのは、規制前に出回ってた年代物か、闇オークションや裏市場で買ったか。だとすればあいつは殺し屋・何でも屋とか何かの類か……けど腑に落ちない点もある」

「ほうほう」

「もし犯人がそれらの類なら、目撃者なんかはほぼ必ず排除する。だが最初の攻撃は閃光手榴弾による目くらましだった。なぜ初めから俺たちを殺そうとしなかった? それと、銃を取り出してから俺たちが隠れるまで、発砲するのに間があった……一瞬だったけど。それはつまり、制圧や威嚇のための攻撃―――ただの足止めだったってことだ。だけど、じゃあ奴は何なんだって所に戻ってくる」


 とはいえ、そこら辺の一般人ではないのは明らかである……。


「うーんなるほど……。ま、結論を出すにはまだちょっと情報が足りないかなー。ところでさ、この国の事情聴取って何話せばいいの? 何分ぐらいで終わる?」

「え? ああ、日本とそう変わらないし、聞かれたことに応えればそれでいい。容疑者じゃないから時間はそれほどかからないと思う。俺らはFBIの人間なんだ、あちらさんMPDもそんなに長く拘束はしないはず。すぐに終わるさ」

「なら安心。ちゃっちゃと終わらせよう」

「元からそのつもりだ。ていうか、匡佐さんのせいでややこしくなったんだよ。頼むからこれ以上本筋の事件と関係ないところでやらかさないでくれ」

「事件が勝手に起こるんだから仕方ないじゃん」

「首を突っ込むなって言ってるんだ! お前には捜査権がないの同行許可だけなの!」

「えーー」


 えーじゃねぇよ、えーじゃ。


「ふざけんな。それから、向こうで話す内容のすり合わせをしておくぞ。時短だ時短」


 灰色のダッジ・チャージャーの車内でその後も話を続け、滞りなく本部に着いた。



 さて―――。

 結論から言うと、聴取は超短時間で終わった。聴取というよりほとんど情報共有みたいなものだった。

 捜査の進展を担当になった刑事達に聞いてみたら、その後容疑者を完全に見失ったらしい。現場周辺の住宅にあった防犯カメラには、事件当時の様子が映っていたものの、容疑者の姿やバイクを映したものはなく、そこから離れた場所でも完全に足取りがつかめなくなったのだそうだ。ナンバープレートも見えなかったし、目撃情報だけが頼りになってしまった。

 さっきの匡佐の推理によれば、男は何度も現場へ足を運んでいたことになる。それに加えて足止め用の武装もしていて、バイクもわざわざ離れた場所に置いていたのだ。十中八九、あの男は逃走経路を事前に確保していたのだろう。それも完璧なものを。なかなか面倒な事件になりそうだな。まあ自分にはもう関係ない。

 もちろんこれも伝えておいたので、あとのことは全て警察に任せた。そもそも自分はワシントン支局の人間じゃないし。


 というわけで、そのままFBI本部に直行。

 FBI本部とMPDの本部はめちゃくちゃ近いからこういう時たすかる。

 ここでも色々と書類にサインしたり、匡佐の新しい外部顧問コンサルタント用の身分証や書類を発行したりするだけなので1時間もかからずに終わった。

 デジタル化が進んでると実に便利である。

 特に知り合いに会うわけでもなく、トラブルもなかったのでそのまま本部の外に出た。今は車に戻り、次は空港にでも向かおうかと思っていたところ。


「いやー終わった終わった‼ さてアラン君、次はどうするんだい?」

「もうここに用はないし、飛行機でニュージャージーに戻るだけだ」

「ええー、もうちょっと観光したいなー」

「お前は何のためにアメリカに来たんだったかな?」

「夏休み」

くたばれF〇〇k you

「ゑっ!?」

「たわ言を言う暇があるなら事件の概要でも思い出してろ」

「とんでもない暴言吐かれた……。誘拐の疑いがある行方不明事件だっけか。アメリカ各地でぽつぽつ発生してたうちの一つで、最近ニュージャージーで足取りを掴んだとか」

「そうだ」

「こんな事件でFBIは動くもんなのね」

「誘拐事件は発生から24時間過ぎると、自動的にFBIの管轄に移行するんだよ。あとあまり関係ないかもしれないが、不審死事件も何件かある。ギャングやら前科持ちの人間が死んでるから、今は州警察と地元警察が抗争か何かの線で捜査してる、らしい。まだ俺らの出る幕じゃないが、場合によってはうちFBIにも回ってくるかもしれない。一応頭の片隅にでも置いといてくれ」

「りょー。なんか事件多すぎじゃない?」


 手をひらひらさせて、


「全世界そんなもんだ。日本だって、報道されないだけで毎日何かしらの事件が起きてるんだぞ。そんなのは今さらの話」


 と答えた。


「ま、そっかぁ……」

「それと、俺も鬼じゃないんだ。ここから空港はそう遠くない。ちょっとした買い物ぐらいは―――」


 とその時、電話が鳴った。

 ……鬼上司からだった。めちゃくちゃ出たくない。


「誰からだい?」

「……鬼上司だ」

「あー、あのダンディなイケおじか」

「―――もしもし」

『コンサルタントの手続きはもう終わったかな』

「ええ、終わりました。それでご用件は?」

『まずはスピーカーに。コンサルタントにも聞いて頂きたい』

「はい―――匡佐さん、なんか非常事態っぽいぞ」


 言われた通り、通話をスピーカーにする。


『残念なお知らせだ。うちで扱ってた事件、あの行方不明者が死体で見つかった』

「なんですと!? ……失礼、了解しました。今から現場に直接向かいます」

『……飛行機のチケットはもう手配済みだ。行先は君が乗ったニューアーク・リバティ国際空港。車両と装備は手配しておく。詳細はまた後で送るが、場所はパインバレンズの方だ」

「パインバレンズ……森の中ですか。ETA到着予定時間は?」

『飛行機で約1時間、車で約2時間前後だから、ETAは3時間前後。遅くても4時間だ。現場は州警察と地元警察が封鎖。重大事件として捜査指揮はすでに州警察に移っているが、FBI主導になるのは時間の問題だ。君たちが到着する時間が、遺体の運び出し前ギリギリだろう。匡佐さんは現場を見たいでしょうし。なるべく急いでくれ』

「了解」

『ではまた後で』


 電話を切り、匡佐と顔を見合わせた。

 これまた……。


「面白くなってきたね(^^)」

「ぶっ飛ばすぞ」

「 (゚Д゚)ファッ!!?」


 面白がってるんじゃない。


「……嘆いても仕方ないか。空港に急ごう」

「オッケー☆」


 もとより空港に向かう予定だったが、ゆっくりしている暇がなくなった。

 車のレバーをドライブに入れ、空港に向けて出発した。

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