第3話 気づき
一体どれのことだろうか....?
実験の手始めにできてしまった犬、猫、コアラのキメラのことだろうか? それとも過程で偶然できた植物と動物の中間の生物のことだろうか?
ああ、安心してくれたまえ。この子たちはしっかり研究所のペット兼マスコットとして大切に育てているよ。
しかし、これ以外にも森野奥地や深海で見つけた生物に薬剤を投与してできたものや、他にも色々....正直数える気にもなれないがおおよそ127匹程度はこういった生物を作って来た訳だがどの生物がその【禁忌】とやらに抵触したのか皆目見当もつかない。
「想像以上に余罪が出てきましたね....しかし残念ですがどれもその世界の生物を原産にしてできているのでこの【禁忌】に触れることはないです。少々グレーゾーンではありますがどれも遺伝子組み換えの範囲なので」
「....? お嬢さん、君の物言いは矛盾してはいないかい? 私たちが作ってきた生物がその【禁忌】に触れることはないのなら何故私がこの場に呼び出されているのかな? 」
自称神を名乗る少女は呆れたように頭を抱えてこちらへと向き直った。
「貴方ここに来てから自分の身体見ました? 」
「見てないな、いや見ないようにしているというのが正しいのだが。私の声を聞く限り実験は成功している。念願の願望の姿は一人でいる時に確かめたいものでね」
「でしょうね。見てたらこんな面倒な問答もしなくて済んでますし....簡潔に言いましょう。今回の【禁忌】の対象は貴方自身です。」
「私自身....? 」
性転換と若返りがその【禁忌】に反したというのか?
いや、それはおかしい。性転換は生物界では割と頻繁にみるものだ。なんなら人間にも手術がある。
若返りもベニクラゲというクラゲが擬似的な若返りを実現している。
一体なにが....清水くんか....
「どうやら思い当たる節があるようですね。貴方はあの世界外の生物の身体を自身の身体に織り込み新たな生物として誕生してしまいました。普通なら即刻存在の抹消....のところなのですがどうやらハプニングだったようですし先輩が人手が欲しいらしいので貴方を異世界に飛ばします」
「....そういえば最初派遣と言っていたね? なにか私はその異世界でするべきことがある。違うかな? 」
しかし清水くん君はなにを装置に入れたんだ....
「察しがいいのだけは美徳ですね。余分な説明をしなくて助かります。では説明を、まず【禁忌】という法がある以上それを破る者、現象が度々観測されます。」
「それを私がどうにかしろと? 自慢じゃないが私の腕っ節は弱いぞ。コンビニによったらそこら辺を溜まり場にしてる小学生にボコボコにされた前科がある」
あくまで私は研究者だ。引きこもって研究ばかりに打ち込んでる私の肉体が強靭なわけがないだろう。
そもそも小さい時から私の運動神経は良くない。
「──そう堂々とひけらかすものでもないと思いますが....まぁそこら辺は先輩....担当の神が説明してくれるでしょう。では話は終わりです。私も溜まってたドラマ見たいのでサッサっと飛ばしますね」
「いやまだ質問が──」
私の言葉も虚しく空間が切り替わり私は高い天井からシャンデリアが視界を掠め赤いレッドカーペットの上へと落下した。
「おぉ【禁忌】破っただなんて聞いてたからどんな悪かと思ってたけどこんなかわい子ちゃんだなんてキルベルちゃんも気が利くねぇー」
多少痛む身体を起こして顔を上げるとそこには仰々しい玉座に黄色い着崩したスーツにサングラスをかけたいかにもガラの悪そうな男が座っていた。
しかし、可愛い....可愛いのか....ふふふ。
「キルベルちゃんから説明は受けたでしょ? そんじゃ悪者退治行ってみよー! 」
「一ついいだろうか? 」
「お、どうした? 」
「何一つ説明されてないのだが....」
男はあちゃーと目元を抑えてやっぱりかと続けた。
「まぁキルベルちゃんだから仕方がないよね。しょうがない俺が教えてあげちゃう! キルベルちゃんからはどこまで聞いた? 」
キルベルというのはあのお嬢さんのことでいいのだろうか....?
「私がここに呼ばれる羽目になった理由だけだな」
「──うん、なんかごめんね。あの子面倒臭いことは絶対したくない子だから....本当になにも聞いてないんだね」
「そうだな」
「じゃあ一つ目、始業は朝7時から終業は夕方六時ね。残業もありはするけど基本的になし、あっても残業手当は出るから安心してね」
──? なんか思ってたのと違くないか?
大罪を犯した罰で私はここにいるんだよな? すっごいホワイトな言葉の数々が聞こえた気がするのだが....
「ちゃんと終業になったら元の世界に返されるから、逆に始業時間になったら自動的にここまで飛ばされるから着替えは先にしておくように、まぁ諸々の勤務時間系はこんなもんだね」
「なんか想像してたものと違うのだが....」
「あぁ!びっくりしたよね。こっちでもそっちの世界同様労基が怖いからね。ここら辺はちゃんとしてるって訳さ」
神の世界に労基があるのか....
だが確かに同じような知的生命体なら同じような状況、施設、組織があったとしても不思議ではないのか。
「じゃあ本題行ってみようか。君の仕事内容は【禁忌】違反者、又は現象の取り締まり及び調査だ。簡単に言うと悪い奴らをやっつけろってところだね」
「そのことなのだが私は喧嘩なんてできないぞ? 腕っ節なら期待しない方がいい」
「そこら辺は大丈夫、最後ら辺の会話はここから聞こえてたからね。一人で楽しみたいんだだろ? 鏡あげるから少しいった部屋で自分の姿を見てきな。見れば分かるよ」
男は一体どこから出したのか分からない手鏡を器用にこちらへ投げて渡すと見終わったら戻っておいでー、とこれまたどこから取り出したのかアイマスクをつけていびきを立て始めた。
「随分と気ままな上司のようだな」
だが見た目に反して親切な人、いやあのキルベルという少女が自称神ならこの男も神か....とにかく今はこの夢の証を確認してみようじゃないか!
男のいた部屋を出て言われていた簡素な個室に入る。
部屋の中は新品であろう木製の椅子が一つと部屋を照らす照明しかなかった。
「広くだだっ広い空間というのはどうにも落ち着かないな。もっと小さな部屋にはできなかったんだろうか? 」
だがその程度の些事を気にしている余裕など私にはない。今すぐにでも鏡を覗きこみたくて年柄もなくうずうずしている。
でもこういうのは雰囲気作りが大事なのだ。
椅子に座ってゆっくりとストレッチ、そして十分間瞑想....精神を落ち着けて深呼吸....
平静を取り戻し手鏡を自身の顔へと近づける。
「こ、これはッ! 」
鏡からレーザーが飛び出ているかのごとき衝撃。
白を基調とした端に行くにつれて緑になっていく美しい艶やかな髪、自分自身にすら母性が湧いてきそうな整った愛嬌のある顔、触ったら折れてしまいそうなほど細い首....その一つ一つが私の平静を焼いていくのに確かな威力を秘めていた。
「Excellentッ! 素晴らしい、実験は実験は成功したんだ! 我ながら素晴らしい発明としか言いようがない! 」
身体はどうなっているだの、今後身体に引っ張られて精神性までそっちに寄っていくのかも気になる....インスピレーションがインスピレーションが止まらない。
「それにこの角! 立体的で野生動物味を出しつつ稀少鉱物のような無機物さも醸し出していて、色も黒と緑でこの身体が映える! しかもこのゴツゴツとした無骨な感じが空想上の生物などを想起させ神秘的な雰囲気を──角? 」
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読んでいただきありがとうございます!
3話目よん、気づいた方も居ますでしょうがこの方かなりのマッディーなサイエンティストです。
汝にTSの祝福あらんことを 永久の初心者🔰 @Zigarude
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