第二章 6
十二月になった。
今年の冬は、殊更に寒い。
「見て見て。マフラー、ここまでできたよ」
「ほー。上手いもんだな」
霧亥は凜が見せてきた半分くらいの出来の編み物をしげしげと見つめた。
「初めの方、編み目ががたがただな」
「う。そ、それは」
「それに、あんだけぎちぎちに編むなって言ったのにここの辺棒みたいに固くなってる」
「ううう」
「でも真ん中まで来ると編み目も揃ってきれいになってるし、ふわふわに編めてるじゃんか。感心感心」
「それ、もしかして褒めてるの」
「おう、褒めてるとも」
「わー」
「このペースで行けばバレンタインまでには間に合うんじゃねえの」
「そうかなあ」
凜は嬉しそうに編み目を指でいじっている。その口元に浮かんだ笑みを見て、霧亥の胸が痛む。俺、先輩がこのマフラー受け取らなければいいって思ってる。凜がひどいことされればいいって思ってる。最低だ。協力するふりして、内心じゃこんなこと思ってるなんて。
「それより、さみーな」
「冬生まれのくせに、寒がりだね」
「そういうの関係ねーの」
うう、寒いと震えながら、霧亥はポケットに手を突っ込む。
「あ、いいこと思いついた」
「あ? なんだよ」
「ひーみーつ」
「てめえ、言えよ」
「言いませんー」
木枯らしが吹いて、落ち葉が足元を通り抜けた。
「あ、南先輩」
キャンパスのむこうに、仲代先輩と歩いている南先輩がいる。
「先輩、また前みたいに戻ったね」
「ん? 戻ったって?」
「なんか、前は変にギラギラして余裕なかった感じしてたけど、今は憑き物が落ちたみたいになった」
「ふーん……」
先週の土曜日、南はいつものように繁華街に顔を出した。ただし、いつもの男性専門サウナではなく、まったく別のところに。
そこで休んで相手を物色していると、見知った顔がずかずかとやってきて彼の肩を掴み、
「こんなところにいたのか」
と押さえつけるような声で言った。
渡辺だった。
「どうしてあの日、来なかった」
「……」
南は覚めた目で彼を見上げると、肩を掴んだその手を払いのけた。
渡辺に呼び出されたあの日、南は部屋に姿を現わさなかった。その後の呼び出しにも、応じなかった。いつも通っていたサウナにも、行かなくなった。
自分を大切にしないと、相手にも大切にされなくなるよ。
あの時の凜の言葉で目が覚めた南は、肉欲に溺れて自分を労らない故に渡辺にも大切にされていないことを実感したのだ。ひどいことをしているのは、渡辺だと思っていた。
違ったのだ。
自分にひどいことをしていたのは、自分自身だったのだ。
欲望を、恋だと勘違いしたばかりに盲目となっていた。だから、盲従を献身だと思って言うことを聞いていた。
「あなたとの遊びは、もう終わり」
他を探して。南は立ち上がって、静かにそこを出ていった。自分を大切にすることを思い出していたから、もう振り返ることはしなかった。
今思い返すと、熱に浮かされていたような日々だった。あれを恋だと思うだなんて、馬鹿げてる。
空を見上げて、弱く光る太陽を見る。
いつか、きっと本当に好きになれるひとと出会える。そう信じてる。いつか。
「先輩、こんにちは」
あちらから、福原と羽鳥が歩いてきた。
「やあ、福原さん」
「寒いですね」
「風邪ひかないようにね」
「先輩も」
と言い合って、別れた。
「ありがとね、福原さん」
そう言って去っていった南先輩を、凜は不思議そうに振り返った。
「?」
そして、霧亥を見上げた。
「なんのこと?」
「さあ……」
ひゅう、冷たい風が吹いて、落ち葉が地面の上を舞った。
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