第5話 伝えたかった言葉

「もう一度だけ、伝えたいことがあるんだ」


私は勇気を出して言った。


「ごめんねと、ありがとうって」


優也は黙って聞いていた。


「あの時、感情的になってしまって、本当にごめん。でも、一緒にいてくれた時間は、本当に幸せだった。だから、ありがとうって、ちゃんと言いたかった」


涙がこぼれた。


「五年間、ずっと言いたかったんだ。でも、言えなくて。今日、会えて良かった」


優也が私の手を取った。


「俺も、ずっと伝えたいことがあった」


彼は真剣な目で私を見た。


「彩花のこと、忘れられなかった」


心臓が大きく跳ねた。


「え...」


「五年間、ずっと。新しい恋をしようとしたけど、できなかった。いつも、彩花のことを考えてた」


信じられない言葉だった。


「俺も、もう一度だけ、伝えたいことがあるんだ」


彼が続けた。


「もう一度、やり直せないかな」


時が止まった。


「本当に...?」


「本当に。今度は、ちゃんと話し合える自信がある。お互いの気持ちを尊重し合える、大人の付き合いができると思う」


私は泣きながら頷いた。


「私も。もう一度、優也と一緒にいたい」


彼が私を抱きしめた。五年ぶりの温もりは、昔と変わらず優しかった。


「ありがとう」


彼の声が、耳元で聞こえた。


「こっちこそ、ありがとう」


私たちは、もう一度やり直すことにした。今度は、遠距離恋愛になる。私は地元で、優也は東京で。でも、もう大丈夫。お互いを思いやる気持ちがあれば、きっと乗り越えられる。



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