第2話 えっ、もう異世界に行くの? まさかそんな…

錯覚かもだけど、一愛の実験室は前より広くなった気がする。数日前に増築したのかな。って、この山積みのものはなんだ?


『あのー、使わないものだとしても、なんで全部捨てないの?どう見ても場所とりすぎでしょ』

「ああ、それら?これが全部終わったら、まとめてリサイクルするつもりよ。仕方ないでしょ、もう使えないものだけど、簡単に捨てたら世界が混乱しちゃうかもしれないから」

今、平然と恐ろしいこと言わなかった?

「さて、それでは遅れずさっそく、今回の賭けの条件とルールについて説明するわ」

『は、はい』


普段から彼女に実験台にさせられることはあるけど、こんなに正式なのは初めてだ。こうされると余計に緊張してしまう。


「この装置が見える?ここに入って、私がこのコントローラーで操作すれば、優真を別世界に転送できるの。別世界とは言っても、私たちの世界と似た平行世界よ」

『平行世界?』

「まあ、今詳しく説明するのは面倒だから簡単に言うと、私たちの世界と同じだけど、まったく同じではない世界。いろいろな理由で、優真みたいな非モテ男子でもモテる世界なの」

『マジか、どんな世界なんだ』

「簡単に説明するわね。つまり、あの世界は私たちの世界と違って、男性の数が少ないの。だから性欲も逆になっていて、優真みたいな普通の男の子にも女性たちが群がるのよ」


貞操観念が逆転?男女比がアンバランス?マジか。そんなのライトノベルの中だけの設定じゃないのか?本当にそんな世界があるのか?じゃあ、もし僕があの世界に行ったら……。

「ええ、何だってできるわよ?」

一愛が突然、僕の思考を遮った。すべてを見透かしたようなその笑顔がとても悔しい。


『え、そんなことしないよ。何考えてるんだよ』

「変だわ、私まだ何も言ってないのに、優真の顔が赤いわよ?」

『うっ』


再度主張する。僕は本当にあんなことを考えていたわけじゃない。ただ、あの世界の一愛がどんな風なのか、ちょっと気になっただけなんだ。


「だからさ、優真も男の子なんだから、もうそろそろあっちで性欲を満たしたくてうずうずしてるんでしょ」

『何を僕のこと思ってるんだよ』

「だってそうでしょ。モテる楽しみを味わいたくないなんてこと、あるわけないでしょ」

『それはまあ……そうだけど』

「はい、冗談はここまで。じゃあ、私からゲームのルールを説明するわ」

「ええと、元々は性行為そのものを全面禁止にしようかと思ったんだけど、折角優真があっちに行くんだから、ちゃんと楽しんだほうがいいわよね」

「決めた!じゃあ、私たちの勝敗を決める最も重要な条件はこれ――優真は、複数の異性と性関係を持ってはいけない」

『え?』

「どうした、もうやる気なくなった?」

『違うよ、ただ単に、なんでそんなに条件が緩いのか気になって』


そう、今の僕はただ純粋に、この賭けの条件が自分にとって簡単すぎはしないかと疑問に思っているんだ。えっと、自画自賛になるけど、僕は自分の性欲はそれほど強くない方だと思っている。それに、セックスって普通、複数の人とするものじゃないだろ?


「簡単?優真、何か誤解してない?」

『誤解?』

「優真、あの世界では一夫多妻は合法なのよ?」

『合法!?』

「それだけじゃなく、まだ……まあ、そのうち分かるわ」

『え?』


それはどういう意味だ?まさかあの世界、実はすごく恐ろしいのか?いや、そんなはずない。一愛だって僕を危険な場所に送り込んだりしないだろう。


「それでは続けるわ。私側の勝利条件は以上。優真側の勝利条件も簡単よ。規定の時間まで耐えればそれでOK。問題がなければ、次の賭けの内容に進むわ」

『はいはい!』

「はい、優真君、質問どうぞ」

『その規定の時間って、具体的にはどのくらい?』

「なに?もちろん決まってないわ。私の気分次第よ。私が優真を信じられるようになったら実験終了。さあ、優真他に質問は?」

「疑問なし――なんてありえないよ!なにこれ、永遠に終わらないじゃないか!抗議する!」

「あら?さっき『簡単に感じる』って言ったのは誰だったっけ?」

『うっ』

「それとも、誰かが怖気づいたのかしら?そもそも、時間制限がある方がおかしいでしょ?考えてみてよ。優真が本当かどうかを証明するには、長い時間が必要なのは当然よ。だって男は化ける生き物なんだから。だから私が一生かけて観察するのも、間違いじゃないわ」

『どうしよう』

「安心して優真。私もそんなに意地を張るつもりはないから。どうしてもダメなら、私が飽きたら呼び戻してあげる。まさか私を信じてないの?」

『それは違うけど』


確かに、一愛のことはとても信じている。ただ、実験が長引くのはちょっと嫌だな。でも一愛がずっとこの実験を見ていてくれるだろうから。


「よし、それでは紹介を続けるわ」

「見て、この超でかいスクリーン。優真が向こうで起こす全てのことが、第三者視点でここに映し出されるの。もちろん24時間リアルタイムよ」

『抗議!僕のプライバシーは?』

「抗議却下。その時は本人に確認するから、返事がなければ承認とみなす」


ひどい。これは明らかに霸権主義だ。


「さて、続けます。次は最も興奮する瞬間、賭けの内容の発表です」

「もし優真が勝ったら、私は優真の好きな願いを一つ叶えてあげる」

『え?』

「何だってできるわよ。どんなことでも、できる限り叶えてあげる」

「もちろん、もし向こうに居づいて戻りたくなかったら、完全にあの世界に送り出してあげてもいいわよ」

『そんなことしないってば!』

「なーんだ、すごく心が動いて、『一愛様お願いです、どうかあの世界で一生暮らさせてください』って言うかと思ったのに」

『言うわけないでしょ!』

「残念。優真がそんな姿を見られるかと思ったのにな。とにかく、以上が全ての条件よ。どう?決心ついた?」


承諾する?正直、少し不安はある。万一戻ってこれなかったらどうしよう、実験に危険はないのか、とか。でも一愛なら、簡単に解決してくれるだろう。


『うん、引き受けるよ』

「え?また前みたいに安全面を心配して、怖がって震えるかと思ったのに」

『な、なにを!そんなわけないでしょ!それっていつもの話だよ。どうせ本当に何かあっても君が解決するでしょ』

「それはそうね」

『ただね、君があまりに楽しんでしまって、僕を戻したくなくなるんじゃないかと心配なんだ』

「え?」

『だって、君は実験が面白くないと思ったら、何か細工をするかもしれないだろ。そうしたら万一実験が終わっても、君が僕を戻してくれなかったら困るからさ』

「ぷっ、あはははははは」


ちっ、何を笑ってるんだ?僕、何かおかしなこと言った?


「なーんだ、優真は私に捨てられるんじゃないかって心配してたの?安心して。優真が本気で向こうに残りたいと思わない限り、必ず優真を連れ戻すから。絶対に」

『本当?それなら安心だ。始めよう』


よし、これで不安はなくなった。僕は装置の中へ歩いていく。そうだ、心の準備はできているけど、やっぱり少し緊張するな。


「待って、これじゃダメだ。ごめん優真、こっちでもう一つ条件を追加する」

『え?いいよ、あんまりひどくなければ……』

「はい。では実験期間中、あなたは私との記憶を完全に忘れること」

『え?ちょっと待って、なに?ダメダメ、これだけは絶対にダメ。受け入れられない。ストップ!同意しない』

「ダメ。もう承諾したんでしょ」

『待って、ダメだよ、こんなの不公平だ。一愛との記憶を忘れるだなんて、そんなのできない。お願い、やめて。一愛、降参。今回の勝負、僕の負けでいい?』


僕は一愛を見つめた。もう装置の準備作動が始まっている。彼女に望みを託すしかない。本当に、一愛との記憶だけは絶対に忘れたくない。


「あら?優真ってば、そんなに私のことを大切に思ってくれてたの?もう、男の子でしょ?簡単に泣いちゃダメよ。すごく嬉しい……なんで、もっと早くそうしなかったの?……」


よかった、本当にあんなことにならなくて。一愛との記憶は、何があっても忘れたくない。


「そんなことされると、ますらいじめたくなっちゃうじゃない!」

『なにっ!』

「ごめん、今回は相談の余地なし。目が覚めたら、また謝るから」


僕が承諾する前に、一愛はスタートの確認ボタンを押した。


「考えてみてよ、優真。もし私たちの記憶を覚えていたら、それはチートでしょ?」

『チート?』

「そうよ。この世界が偽物だって知っていたら、あなたは戻ることばかり考えて、ずっと欲望を抑え続けるでしょ。それじゃあ、優真の本当の心が分からないじゃない」

『それは』

「安心して。あの世界にいる間だけ私のことを忘れるだけで、こっちの優真は何の影響も受けないから。優真が戻ってくれば、全部思い出すわ。それとも、優真はそれほどまでに私が気になってるの?」

『うっ、そんなこと言われても』


言、言えない。それに、仮に言ったとしても、一愛の性格からして彼女は考えを変えないだろう。冗談だよね?一愛との思い出、嫌だ、絶対に忘れたくない。


でも、もう終わってしまった。抵抗する手段はもうない。本当にこんなの嫌だ!

時間が経つにつれて、頭がどんどんくらくらしてきて、それから何も覚えていない。

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