第6話 スパイの影、運命の激突と愛の布石

官邸の廊下。



黒木圭介くろきけいすけは、絶望的な情報と「時間じかんの焼印」の激痛にさいなまれ、廊下で意識を失いかけていた。



彼の目の前に立っていたのは、白石葵しらいしあおい。ネイビーのタイトスカートに、清潔感のある白いブラウス。完璧なキャリアウーマンの姿だ。



あおいは、彼の青白い顔を一瞥いちべつしたが、すぐに視線を外し、**「ビジネスモード」**へと切り替えた。



「……ご心配なく。少し、乗り物酔いを」



「そうですか。私も、国際シンクタンクから日本政府への出向が決まりまして。ご挨拶に」



**(嘘だ。彼女は観星会かんせいかいの指令で、僕をハニートラップにめるために送り込まれた)**



圭介けいすけは、未来の記憶が告げる「真実」を前に、心で呟いた。



「それは光栄です。ただ、私には参謀としての仕事が」



「あなたほどの知略家、情報局にこそ必要です。**それに、貴方あなたには『信頼できる協力者』が必要でしょう?**」



(嘘をつけ。その言葉は、ハニートラップの誘い水だ。だが、この展開こそが、運命を変える最高の機会)



圭介けいすけは、彼女の誘いを受けることを決意した。彼は、彼女のトラップを「愛の成就」へと書き換えるための、最初の布石を打つ。



「わかりました。そのスカウト、お受けしましょう」



「ありがとうございます!」



あおいは、心からの安堵の表情を見せたが、その安堵は「圭介けいすけを罠にめる準備が整った」ことへの安堵だと、圭介けいすけは知っていた。



圭介けいすけは、その場で、彼女にしか分からない「愛の布石」を打った。



「ただし、白石しらいし。仕事以外の情報共有も必要でしょう。今度の満月まんげつの夜に、国会議事堂が見える**あのカフェ**で、二人きりで。あの場所なら、盗聴器も、裏切りの匂いも、観星会かんせいかいの影も、持ち込めない」



**圭介けいすけの言葉は、まるで過去の運命を切り裂くやいばのように響いた。それは、二度とあおいを失わないための、狂気の愛の、最初で最後の宣言だった。**



あおいのクールな仮面が、一瞬で崩れ去った。**彼女の瞳の奥で、学生時代に愛を誓い合った、あの日の記憶が激しく揺らいでいるのが見えた。**



「あ、あの…それ、は…」



「仕事です、白石しらいし。ただし、答え合わせは、また今度、君と二人きりで」



圭介けいすけは、愛と狂気の笑みを浮かべ、その場を去った。彼の左腕の紋様は、再び微かに熱を帯びていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る