第19話
「どうして、そこまで殺人と向き合えるんだい? 君は今、人の命を奪おうとしているんだよ?」
そう問われてしまうと、こちらも答えに詰まる。しかし、何度聞かれたとしても、俺はこう答えるしかない。
「そうするしかないからに決まっているだろ。それ以外に理由があると思うのか?」
「そんなのおかしいよ」
「確かに、正常じゃないかもな。でも、俺からしてみれば、こんな訳のわからない死に方を受け入れられている方が、よっぽどいかれてる……」
「ふざけないで! 私達だって、別に受け入れてなんかないわよ! でも、しょうがないでしょ、人が人を殺していい訳ない。そんなの小学生でも知ってる常識よ!」
「ここに常識なんて物が通用すると思っているなら、今すぐ状況を見つめ直すべきだな。現実を直視したくないというなら構わないが、そんなことを言っていると与えられた一年の寿命すら全うできなくなるぞ」
バシャッ!
一瞬、何が起こったのかわからなかったが、頭からしたたり落ちる滴と、志村の持つ空のコップが状況を物語っていた。
「ほんとあり得ない! あんたには人としての心がないの!」
「……」
今にも身を乗り出そうとする千石を制して、俺は志村、須川の順番で視線を巡らした。
「この腐りきった世の中じゃ人の心なんてあってもなくても、結果は同じだ。無理矢理主導権を握ってくるバカな大人に、暇つぶし感覚で死に方を決められてしまう。そんなことが罷り通っていいのか? クズ以下のゴミ共に復讐してやりたいとは思わないのか? 俺は、自分を産廃と揶揄した奴等を出し抜いて、必ずここから出る。そのためだったら、なんでもやってやる」
「……」
もう完全に対抗意識を失ってしまっている。これ以上、話すことはなさそうだ。
「そうは言っても、まだ何も決まってはいないんだけどな……。もう食い終わったし、俺はこれで」
「柊君……」
そのまま口を閉じているのかと思ったが、以外にも呼び止められてしまった。
「こんなことを言っても君は気にしないし、答えてもらえないかも知れないんだけど、僕には、これからどうすればいいかがわかないんだ。良かったら教えてくれないかな、どうしたら良いと思う?」
彼の不安に満ちたその表情から、他力本願でしかない質問に秘められた、本気の感情が伝わってくる。
「悪いけど、その質問には答えられない。でもそれは、気にしていないからではなく、自分で決めるべきだからだ。一つの間違いで全てが終わりかねない、この現状では、他人の判断なんて当てにしてはいけない。……それでも、俺から言えることがあるとすれば、俺にも殺人側としての仲間意思くらいはあるということだけだ」
俺達は言わば、貧乏くじを引かされた側の中でさえ、恵まれない運命に陥った同志だ。その中に不幸に立ち向かおうとする者がいるなら、協力するぐらいはしてもいい。
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