第13話
「だったらお前は、この単位獲得の条件をどう見ている?」
「単位獲得の条件? 悪いが、あんなもの、あってないようなもんだろ」
「……そうか」
期待をしていなかったという面では期待通りだが、そう考えるのが普通だよな。実際、条件の存在が知らされたときは俺もそう思っていた。
「なんだよ。急に興味失いやがって。この条件になんかあんのか?」
「あ、いや……」
平然な態度を維持していたつもりだったが、思いのほか表に出ていたようだ。
憶測の域を出ない意見を他人に披露するのはあまり褒められた行いではないが、別方向の視点に触れられる機会を大切にするべきかもしれない。
「……確かに、素人が殺人を犯すなんてことは、やれと言われて簡単にできるようなことじゃない。それなのに、そこに条件が加わったりしたら、もう不可能だ」
「そうだろ?」
「しかし、実際の条件は、殺人の手段や状況には一切干渉していない。それどころか、条件としての拘束性をまったく持っていない。殺人側は、殺人を実行して殺人犯であることを隠し通すか否定する。探偵側は、起きた殺人事件の犯人を捜す。これをするだけで条件を達成できる」
「おぅ、えっと……。つまりどういうことだ?」
「要はこんな条件なんて物を用意する必要なかったってことだ。殺人側には『殺人を実行して犯人と断定されないようにしろ』とかでいいし、探偵側に関しても『殺人事件の犯人を特定しろ』とかでいい。時間制限に関しては有効かもしれないが、お前の言うように、俺達が殺人できないと確信してのことならそれすら必要ない」
「おぉ、なるほど」
返ってきたのは、単調な相槌で終わりか。ただ、納得されるだけなら話す必要はなかったな。
収穫の少ない雑談に花を開かせる意味も無いため、俺は席を立った。
「おい、どこ行くんだ? あ、もしかして、昼飯食いに行くのか? 俺もちょうど腹が減ってたところだ。一緒に行こうぜ」
「行きたいなら一人で行ってくれ」
「そう堅いこと言うなよ。目的地が同じなら一緒だっていいだろ」
「目的地が違うから言ってるんだよ」
「わかった。わかった。とりあえず、行ってみてから考えようぜ」
「……」
今、心の底から関わる人間を間違えたと後悔している……。
しかし、そう言われてみれば、確かに腹は空いていた。本当に食事をしたくて立ち上がった訳ではなかったが、昨日までの監獄生活ではまともな食事が取れなかったため、好きな物を食べられる状況にいると気付けば、足は自然と食堂を目指していた。
ダメだ、思考がこのチンピラに浸食され始めている。この生活に喜びを感じ始めるのはまずい。もっと意思を強く持たなくては。
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