第12話

「それと、勉学以外にも、殺人を除いた不当な行いは、こちらの判断で減点対象とすることがあるため、注意して生活するように。これ以上質問がなければ、私からの説明は終わりになるが、どうだ?」

 正直、追加の説明に違和感を抱かずにはいられない状況過ぎて、質問なんて一つも思い浮かばない。まさか、罪を問う項目で殺人が取り除かれることがあるとは。

「よし。また、気になることが見つかれば私に聞いてくれてもいいし、電子端末にはほぼ全ての説明が網羅してあるから、そっちで調べてもらっても構わない。これにて本日の予定は終了だ。明日からは通常授業へと移行する。参加者は時間厳守で集まるように。では、解散」

 そう言い終えた上園監視官は、教室から出て行ってしまった。

 何やら教師っぽいことも言っていたが、現状、監視官に聞くべきことはないだろう。今一番重要なのは、殺人を実行するか否かなんだから。

 そんな思考の合間に、例の『質問君』へと視線を向けると、一人の女子生徒と何やら深刻そうな表情で話をしていた。会話は聞こえないが、二人の関係が恋人同士だと仮定すればなんとなく理解はできる。あんな見るからに真面目そうな奴が殺人側なのは、少々気の毒に思えた。

「そう、険しい顔するなよ。こうなっちまったもんはしょうがねぇだろ」

「……?」

 そんな諭すかのような言葉に反応すると、本当にそいつが発言したのかと疑いたくなるような容姿の男が目の前にいた。

 見事に輝く金髪と両耳のピアスが光を反射して、思わず目を細めた俺を見て、そいつは申し訳なさそうにそう告げた。

「おっと、急に話しかけて悪かったな。俺は千石湊だ。よろしく頼むぜ、お隣さん」

 まだわかっていることの方が明らかに少ないが、どうやら、見た目より丁寧な人物だということは理解できた。そのため、少し会話を交わしてみることにした。

「柊要だ。ところで、しょうがないってのはなんの話だ?」

「……? この状況だ、わかるだろ。卒業できないんなら、この一年間たっぷり楽しむしかねぇってことだよ」

 ……なるほど。確かに受け取りようによっては、そう受け取れるかもしれない。

「つまりあんたは、非行を行った未成年者が最後に思い出を作るための場所。それが、この施設だって言いたいのか?」

「あ~、そうかも。いや、この施設が、とかは考えちゃいなかったけどよ、言われてみればそうだな。だって、俺達に人を殺せとか、それに国の許可が出てるとかあり得ねぇだろ。多分、俺達に人殺しなんてできないって確信してるから、こんな無茶苦茶なこと言ってんじゃねぇの?」

 確かに、こいつの言い分には一理ある。というより、そうだった方がまだ納得できるかもしれない。しかし、ここまでの情報から、最初に抱いた違和感の正体を突き止めた俺からすれば、その可能性は少ないように思える。

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