第2話 これは始まり?

 そうして、自分の部屋にめいを案内した私だったが、入ってからとてもやばいことに気がついた。

 ……部屋、掃除してないや。


「あ、えっと……ちょっと散らかってるけど……気にしないでね……」

「もちろんです! こんなことで幻滅したりなんかしませんよ」


 気にしないでと言っておきながら、いやこれはどう考えても気になるだろと思った。

 だって足の踏み場もないもん。こんなの気にするでしょ普通。

 私はもう自分で何を言ってるのかわからなくなってきた。

 とりあえず落ち着こう。


「えっと、ありがとう。なかなかにあれな部屋だけど引かないんだね……」

「当然です! こういうのわかってましたから!」

「それってどういう……」


 薄々勘づいてはいたが、もしやめいはストー……いや、なんでもない。

 まあとにかく、めいが気にしないのならよかった。


「あー……えーっと、それで? 私は何をすれば……」

「お姉ちゃんは何もしなくて大丈夫ですよ? わたしが全部やりますので!」

「え、全部って……何を……?」

「むぅ……ムードがないですね~。まあいいです。お姉ちゃんの究極に可愛い姿が見られるならそれで」

「……はい?」


 究極に可愛い? どういう意味だろう?

 そんな私の思考を真っ白に塗りたくるように、めいは突然私をベッドに押し倒した。

 どういう状況なのか、何もわからない。


「……あ、あの……めいさん?」


 困惑のあまり、丁寧な口調になってしまった。

 それ自体は別になんともないのだが、なんというか……少し怖い。

 めいのその真剣そうな表情が、私の心を支配しそうで。


 めいは私の声かけに答えず、じっと私の顔を見つめている。

 見つめられるのに慣れていないせいか、私はすぐに顔を逸らした。

 こういうのは少し苦手だ。

 人と目を合わせるのは……なんというか、ムズムズする。


「お姉ちゃん……」

「め、め……んっ!?」


 私は、めいの名前を最後まで口にできなかった。


「ちょ、な、なにして……」

「いいから。大人しくしててください」


 言われるがまま、私は大人しくしていた。

 というより、何をされているのかわからなくて硬直していたと言った方がいいか。

 体を触られているのだがいやらしい感じはなく、ツボを押されている感覚もあった。

 私はマッサージでも受けているのか? という謎の状況である。


「めいさんや」

「なんですか?」

「……これは一体なんの為にやってるの?」


 私がそう聞くと、めいは少し頬を赤らめた。

 そして私から目を逸らしながら答える。


「……言っちゃいますけど……その……お姉ちゃんにいっぱい癒されてほしくて……」

「私に……?」

「はい! お姉ちゃんを喜ばせるのは妹の役割ですからね!」


 その姉妹像歪んでないか?

 なんて言う勇気はなく、私はただ「そっか」とだけ返した。


「お姉ちゃん……どうですか? 気持ちいいですか?」

「うん、気持ちいいよ。ありがとう」

「えへへ……よかったです!」


 めいのマッサージは、とても気持ちが良かった。

 力加減も丁度良くて、凝り固まった体がほぐれていく感覚がある。

 めいが私を見つめる視線はまるで愛しいものを愛でるかのように感じられたが、それも気にならないほど心地いい時間だった。


「ふぅ、これで終わりです。どうでしたか?」

「うん、体が軽くなった気がするよ。ありがとうね」


 そう私が言うと、めいは嬉しそうに笑った。

 そして、また真剣な表情に戻る。


「……あのお姉ちゃん」

「どうしたの?」

「さっき私、妹の役割って言ってましたけど……その……」


 めいが何かを言いかけると同時に、突然部屋のドアが勢いよく開いた。


「ういー! お夕飯でき……た……?」


 部屋にズカズカ入ってきたのは私の妹であるうみだった。

 うみは私の姿を見て固まっていた。

 それもそうだろう。だって私は今ベッドに横になってて、その上にめいが跨っているのだから。


「えーっと? 上にいるのはさっきの人だよね? どういう状況?」

「え、えーっと……」


 私はなんて説明しようか迷った。

 めいが勝手に私の妹だと言って、マッサージをしてくれた。

 そう答えれば簡単なのだが、うみは納得しないだろう。


 というか、私も納得してない。

 私の妹は今扉のそばで困惑しているうみだけだ。


「あ、うみさん。やっぱりお姉ちゃんにそっくりで可愛いですね。うみさんもいるならちょうどよかったです」


 めいが私に覆いかぶさるような体勢をやめて、ベッドから降りる。

 そしてそのまま扉へ歩いていった。


「今日泊まってもいいですか?」

「「は?」」


 私とうみの声が見事に重なる。


「いや、あの……それはちょっと……」

「いいですよね? ね?」


 いや、圧がすごい。

 私は思わず頷いていた。


 うみはというと、まだ状況がよくわかってないようだ。

 まあそりゃそうだろう。私もまだよくわかってないから。


 そんな私たちを気にもせず、めいは笑顔でこう言った。


「じゃあ決定ですね! お世話になります!」


 それから、私たちはとりあえず晩御飯を食べることにした。

 メニューはわかめのお味噌汁とまぐろのお刺身。

 もちろんこれを用意したのはうみだ。


「うみちゃんは料理のセンスいいですね。見た目がすごく映えてて」

「そ、そうですか? えへへぇ、それほどでもぉ」


 めいがそう言うと、うみは嬉しそうに体をくねくねさせた。

 ……なんかちょろいな。


「で? なんでめいさんは泊まることになるわけ?」


 私はお刺身を口に運びながらそう言った。

 うみは褒められて舞い上がっているのか、料理にがっついている。

 そんな様子を確認してから、めいは一度咳払いをして話始めた。


「まずですね……少しお話させてもらってもいいですか?」


 めいの表情が真剣になるのを見て、私は食事の手を止めた。

 どうやらただ癒しを与えるために来ただけじゃないらしい。

 というかそもそもなんでマッサージしようと思ったんだろう? その疑問もついでに解消してくれるとありがたいのだが……まあ今は黙っておこう。


「私はお姉ちゃんが好きです!」

「……はい?」


 突然の宣言に、私は思わずポカンと口を開けてしまった。

 そんな私を気にもせず、めいは続ける。


「だからなんでもしたいんです! ご飯もお風呂も……なんなら夜のお世話も」

「ちょっと一回黙ろうか!?」


 私に好意を示すのはいいが、そういうのは話さなくていい。

 望んでないし、隣にうみもいるし。


「あのですね! 私はお姉ちゃんのことが大好きなんです!」

「わかったって……わかったけど泊まる理由聞いてない気がするんだけど」


 めいは私の妹だと言い張っているし、それについても聞きたいことはあったのだが、今はそれどころではなさそうなので後回しにした。


「確かにそうでしたね。えっと、私が泊まる理由っていうのは……」


 めいは一呼吸置いてからこう言った。


「……私はお姉ちゃんが心配なんです」

「心配……?」

「はい。だから今日は一緒に……隣で寝てもいいですか?」


 また直球なことを言ってくるなこの子。

 しかも心配ってなんだろう。赤の他人に心配されるほどしっかりしてないように見えるのだろうか。

 色々ツッコミどころはあったのだが、うるうると瞳をにじませてこちらを見てくると……


「……いいよ」


 としか言えないのだった。

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