姉妹百合なんて興味ない!……はず?

M・A・J・O

第1話 ガールミーツガール

「こんにちは、お姉ちゃん!」


 突如、私の妹を名乗る不思議な女の子が現れた。

 私は悩みに悩み、出した結論が――


「あ、これは夢かな……」


 ――夢ということにしよう、というものだった。

 だっていきなり目の前に女の子が現れても、どう対応していいかわからないし。

 それに、妹なら間に合っている。

 今頃は学校で友だちとバカ話でもしているだろう。そろそろ受験生なのに大丈夫かあいつ。


「もう、夢じゃないですよぉ! わたしはお姉ちゃんのお世話をしに来たんです!」

「……へぇ……」

「反応が薄い!」


 いちいち反応が大きい子だな。ウェーブがかった長い茶色の髪も大きく揺れる。ついでに……まあ、なんというかその……嫌でも目に入るそれに目を移す。

 ……こいつは敵か?

 自分が女であることをやめたくなるほどでかい。そもそも自分は普通サイズもないのだけれども。


「とりあえずここで立ち話もあれだし……あがっていってよ」

「えっ! いいんですか? 追い返さないの?」

「いや、いきなり追い返すのもあれだし……悪い人じゃなさそうだし……私の気が変わらないうちに入りなよ」


 私がそう言うと、妹 (仮)はさっきまでの勢いがなくなり、フリーズした。

 と思ったら、すぐ私に飛びついてきて、突然の出来事に私は尻もちをついてしまう。


「嬉しいです! 一生お姉ちゃんに仕えますね!」

「うぐっ……何言ってるかわからないけど、とりあえず落ち着いて……」


 お世話とか仕えるとか気になるワードがいくつもあるが、とりあえずこの子を落ち着かせなければならない。


「――はい、どうぞ」

「わー……! ありがとうございます!」


 お客さんが来たらとりあえずおもてなしだよなと思ったはいいものの、家におもてなしできるようなものがなく、仕方ないからお茶とせんべいを出した。

 私をお姉ちゃんと呼んでいるから私より年下なのだろうけど、こんな地味なおもてなしでよかったのだろうか。

 明らかにこの元気さは10代だ。いいな、若いって。と言っても、私も20歳になったばかりなのだけど。


「美味しいです~!」

「そ、そう? それならよかったよ……」


 私はほっとするが、そもそもこの子は何者なのだろうか。謎が多すぎる。

 せんべいを食べ終わったようだし、ここいらでちゃんと詳しく聞いてみようか。


「……で、えっと、あなたはどちら様?」

「あ、そうですね。申し遅れました。わたし、めいって言います!」


 椅子に座ったままだけど、その子――めいは深々と頭を下げた。

 礼儀正しいいい子かもしれない。

 そう思った私は、また質問を投げかけようとし――


「お姉ちゃんはういさん、ですよね?」


 ――たが、めいのその一言で凍りついた。

 なんで私の名前を知っているのだろうか。


「な、なんで……私の名前……」

「え? だって、前に会ったことあるじゃないですか。そうじゃなきゃここにも来ませんよ」

「そ、そりゃそうだろうけど……」


 でも、私はこの子に会った記憶がない。

 一体いつどこで出会ったのだろう。

 こんなに小動物みたいに小さくて可憐で、私になついてくれる年下の子になんて出会ったことがない。

 誰かと勘違いしている……? いや、でも私の名前知ってるしな……


「えーっと、じゃあ、私の好きな食べ物は?」

「……カレーですね?」

「ぐっ……じゃあ、私の嫌いな野菜は?」

「トマトですよね? それもミニの方が嫌いだとか」


 あ、当たってる……

 いや、きっとまぐれだ。そうに違いない。

 もう少し問題を難しくしてみよう。


「私の好きな動物は?」

「鳥と馬と狐……あ、あとイルカですね!」


 まるで自分のことを話しているかのように断言された。

 しかも全部合っている。


「え、じゃあ、その……そうだ! 私の妹の名前! これならわからな――」

「うみさん、ですよね」

「えっ……」


 私は言葉を失った。

 この子は私のことを誰かと勘違いしているわけではないことを悟ったから。

 あとついでにそんなことまで知られているのがこわい。

 私の心は困惑と驚愕と恐怖で支配された。


 そして、めいは不機嫌そうな顔になる。

 まるで子どものようなその顔に、私は少し……ほんの少しだけ見惚れた。


「わたしだけのお姉ちゃんだったらよかったのに……」


 う……なにこの可愛い生き物。

 血は繋がってないけど、本気で本当の姉妹になりたいと思ってしまった。

 そういう思考を振り払うように、私はまためいに質問した。


「え、えっと、聞きたいことはまだまだあるんだけど……どうしてうちに?」

「あー、そうですね……そろそろ言わなきゃですね……」


 なにやら深刻そうな面持ちになっためい。

 私はどんな言葉が返ってくるのだろうかと身構えた。


「お姉ちゃんの――身の回りのお世話をさせてくださいっ!」


 ……これは全て夢だ。そうに違いない。

 私はそう決めつけ、自分の部屋へ引きこもりに行こうとした。

 その時、がしっと腕を掴まれた。


「お姉ちゃんが望むなら、わたしはどんなことでもします」


 やけに真剣な目付きで言われたので、私は思わずたじろいでしまった。

 このままだと本当にやばい。

 私はこの子に押されてしまう。


「や、でも、私は――」

「ただまー。うい、いるよねー?」

「おー、うみ! いいところに帰ってきた!」


 私はめいの手を振りはらい、急いで実の妹の元へ駆けつけた。


「え……どうしたの、うい。そんな真っ先に走ってこられると気持ち悪いんだけど」

「辛辣! これでもお姉ちゃんなんだけど!」


 私が地味に傷ついていると、うみはスタスタと自室へ戻っていった。

 くそ……この状況をどうにか切り抜けられると思ったのに。使えない妹だ。


 あと、背後からものすごい負のオーラを感じる。

 機嫌を損ねてしまったようだ。

 そりゃ手を振りはらわれて違う人に構ったらご機嫌ななめになるよな。


「あー……えっと、その……」


 こういう時はなんて言えばいいんだろう。

 とりあえず謝る? それともはぐらかす? もういっそ逃げる?

 考えが定まらないまま、時間だけが過ぎていく。


「……ん?」


 そんな時、後ろから柔らかい感触が訪れた。

 どうやらめいに抱きつかれているらしい。


「……ぅえ?」


 ようやく思考が追いついた私は、変な声が出た。

 ふにゅっと柔らかい感触が、背中を包む。

 これは、かなりやばいかもしれない。


「あ、あの……ちょっと離れ……」

「やです……もう我慢できないので……」


 この流れは、まさか、そんな……!


「とりあえず、お姉ちゃんのお部屋に案内してくれますか?」


 後ろから聞こえてくる少し低くて囁くような声に、私は「……はい」としか言えなかった。

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