小さな未知との遭遇
事件に巻き込まれたこともないし、
異世界に転生したこともない。
それでも、この半年は
知らないことだらけだった。
「未知」と聞いて思い浮かべるものは、
たいていもっと派手な出来事だ。
見たことのない世界に放り込まれるとか、
正体不明の何かと遭遇するとか。
けれど、私の身に起きていたのは、
そういう物語じみた出来事ではなかった。
特別な出来事ではない。
ただ、身の回りにあるものの見え方が、少しずつ変わっていった。
物を書くという行為そのものが、
そもそも未知の連続だということを、
あらためて意識するようになったのもこの頃だ。
分かっているつもりだったことが、
実はよく分かっていなかったと気づく。
その小さな引っかかりが、
ひとつずつ増えていった。
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通販でブレスレット用の石を探していたとき、
偶然、光を含んだような青い石が目に留まった。
ただ、きれいだと思った。
それだけだった。
名前を確認して、
それが「琉球ガラス」や「ホタルガラス」と呼ばれるものだと知った。
蛍石とよく似た名前だと思ったのは、
そのあとだ。
知らないものに惹かれることは、
間違えることとは違う。
……とはいえ、
名前が似ているのはやっぱり紛らわしい。
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もともと、この色を選んだときの前提は、
創作とは少し違う場所にあった。
本業のイベントで使うために、
琉球ガラスとして色を調べたのが最初だった。
会場で映えること。
そして、「創作物を扱う場」に置いて違和感がないこと。
クリエイティブ。
人との縁。
商売繁盛。
そんな言葉に結びつく色を、
実用的な理由で選んでいた。
それが結果的に、
青、緑、紫、黄だった。
あとから意味を重ねてみると、
どれも今の自分の状態に近い気がしたのだから、
面白い。
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お守りというものを、
「何もしなくても守ってくれるもの」だと思ったことは、
実はあまりない。
何かを願って手に取る時点で、
人はもう十分に動いている。
神社でお守りを買うのも、
誰かに贈るのも、
自分のために選ぶのも、
そこには必ず理由がある。
「この人を心配している」
「うまくいってほしい」
「もう少しだけ、踏ん張りたい」
その気持ちがなければ、
お守りを手に取ること自体、起こらない。
だから私は、
お守りは“行動の代わり”ではないと思っている。
むしろ逆だ。
行動した人間が、
ほんの少し気持ちを整えるために持つもの。
贈られた側も、
「守ってもらえる」より先に、
「自分を気にかけてくれる人がいる」と知る。
その瞬間に、
ほんのわずかでも背筋が伸びる。
私自身、
パワーストーンやお守りに興味を持つときは、
だいたいもう、何かを始めている最中だった。
立ち止まっているときではなく、
動き出したあと。
だからこそ、
「護ってもらう」というより、
「背中を押される」という感覚のほうが近い。
何かを信じたから動いたのではなく、
動いたあとで、
意味が追いついてくる。
そう考えると、
お守りは不思議な力を持つ道具ではなく、
人の気持ちを可視化したものなのかもしれない。
私は、
それで十分だと思っている。
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最初に身につけていたブレスレットは、
自分で作ったものではなかった。
心友がプレゼントしてくれた、
ブルーレースアゲートのブレスレットだ。
既製品ではなく、
彼女がひとつずつ選び、
手を動かして作ったものだった。
私がパワーストーンに興味があると知って、
「これ、合いそうだと思って」と手渡された。
石の意味や効能を詳しく知らなくても、
その一言だけで、十分だった。
選ぶ時間があったこと。
思い出してくれた瞬間があったこと。
それだけで、そのブレスレットは
ただの装飾品ではなくなった。
しばらく身につけているうちに、
ゴムが少しずつ伸びてきた。
ある日、
「これ、どうやって直すんだろう」と思い、
調べてみた。
ゴムの交換方法は、
思っていたよりずっと現実的だった。
知らなかっただけで、
知ってしまえば、できることだった。
そこから、流れが変わった。
直すだけのつもりが、
石を選び、組み合わせ、
自分でブレスレットを作るようになった。
さらに、
友人に贈るためのものも作り始めた。
相手のことを考えれば考えるほど、
梵字や四神獣、
星座や干支を調べるようになった。
それは石を選ぶ作業でありながら、
同時に「その人」を思い浮かべている時間でもあった。
似合いそうか。
今の状況に合っているか。
重くなりすぎないか。
知らなかったことを調べ、
分からなかったものに触れ、
少しずつ形にしていく。
気づけばそれは、
石の話というより、
人との距離の話になっていた。
作ることも、
贈ることも、
その中心にあるのは、いつも人だった。
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振り返ってみると、
今年に入ってからの変化は、
どれも劇的なものではなかった。
何か大きな出来事が起きたわけでも、
人生の方向が急に変わったわけでもない。
ただ、
知らなかったことを知り、
できなかったことができるようになった。
それだけだ。
年の終わりになると、
私はいつも同じことを思い出す。
今年は、何が初めてだっただろう、と。
初めて知ったこと。
初めてやってみたこと。
初めて、面白いと思ったこと。
たいていは小さなことばかりで、
その場では特別だとは思っていない。
それでも、
あとから振り返ると、
確かにそこに「未知との遭遇」があったと気づく。
蛍石やホタルガラスのブレスレットは、
未来を変えたわけではない。
運命が動いたわけでも、
何かが劇的に好転したわけでもない。
けれど、
知らなかった世界に手を伸ばし、
分からなかったことを調べ、
自分で選び、作り、贈る。
その一つひとつが、
「知らないままでいる」という選択肢を、
静かに減らしていった。
未知は、
どこか遠くにあるものではなかった。
異世界でも、
事件でも、
特別な出来事でもない。
自分の中に、
まだ触れていないだけの領域として、
ずっとそこにあった。
知らないことを知る、その瞬間が楽しい。
だから私は、未知を恐れない。
それが、
今年いちばん確かに手に入れたものだった。
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