11月23日 井出宅②

「……で、どうする?」

 田口の問いかけに井出は腕組みをして天井を見つめる。

 黒を剥がすどころか、めちゃくちゃになった動画のサムネイルを目の前して、これを視聴者にどう説明するのかを話し合っている。

 話し合っているとはいうものの、実際のところ打ち合わせを始めて三十分、何も進んでいない。

 話すのか、このままお蔵入りにするのか。前者なら説明の方法、お蔵入りなら今後も書き込まれるであろう「催促コメント」の対処方針を決めなければならない。

「うーん……説明動画として出したい!って気持ちは変わってないんだけど……どうすっかなぁ…」

「投稿してまた黒くなったら意味がないしな。」

 二人で唸っていると井出がポンと手を叩く。

 

「動画をコピーして、それを編集して…切り抜き動画にするとか?」

 

 確かに複製も追加の編集もしていない。田口は正直、これ以上あの動画に触りたくないというのが本音だが、井出にどうしてもと頼み込まれ、試すことにした。


 複製だろうと追加編集だろうと、シークバーを動かす度に黒が増えていった。しかし、切り出した動画を他の動画に繋げるとそれ以上黒くならないようだった。

 ファイル名が要因かと思い、複製した動画のファイル名を変更したが、黒くなるのは止まらなかった。

「とりあえず、何となくの条件は分かった。」

 田口はメモ帳アプリを起動させると、忘れないように条件を入力する。


・黒化(仮)進む

 ・再生する。

 ・編集する(切り抜き、音の調整、明るさや色味)

 ・切り抜き同士を繋ぐ(編集扱い?)

 ・ファイル名の変更

 

・黒化(仮)止まる

 ・再生しない

 ・切り抜きを他の動画につなぎ合わせる(黒くなった部分は元に戻らない)


「いや、そもそも黒化(仮)って何だよ!って話なんだけどね。」

 井出はモニターに表示されたメモを眺めながら苦笑いをする。

 原因はおそらくカメラ。黒くなる条件はメモの通り。しかし、カメラに何が起きてこうなるのかは不明。

 田口が考え込んでいると井出が手を打つ。

「まぁ、あれだ!さっき言った通り、切り抜き動画にしよう。合間にトーク入れれば大丈夫っぽいし!」

 そう言っていそいそとペンとノートを取りに行った。

 何を話すか前もって決めておくらしい。

「あーっと、まずは、動画の黒を剥がしたよって言う報告だろ…」

 井出はぶつぶつと呟きながらノートにペンを走らせる。普段の撮影は基本的に、道具のざっくりとした概要だけ決めて、あとはアドリブで進めていることを考えると、彼なりに緊張しているのかもしれない。


「ぃよっし!話す内容決めたぜ!チェックよろしく!」

 数十分後、井出がノートをこちらに差し出してきたので目を通すと、いい加減な言動に似合わず整った字がノートに箇条書きで並んでいた。

「……まぁ、お前がちゃんと話せるならいいんじゃないか。」

 ノートを閉じて視線を上げると、井出が撮影機材を持ってきていた。

「まさか、今から撮影する気か?」

「いや、ひとまず飯食ってからだな!」

「あんまり変わらないだろそれ…」

「まあまあ!鉄は熱いうちに打てってやつだ!」

 井出は机の横に撮影機材を置くと廊下のキッチンへ行き、料理を始める。

 田口は、井出が玄関の方を気にしている事にふと気付いた。

「どうした?何か届くのか?」


「いや、今日は特に届く物はないはず……そうじゃなくて最近、廊下にいると足音みたいなのが聞こえる時があるんだよな。」


 田口は返事をせず、井出の向こうに伸びる廊下の奥を見た。

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