11月23日 井出宅

下駄の撮影の翌日、田口は昼前に井出の家に戻ってくると持ってきたノートパソコンで編集作業を仕上げ、予約投稿のセットをした。


「……一応聞くけど、本当にあの動画もう一回触るんだな?」

「おう、毎回『動画の黒剥がしまだですか?』とか言われたらもう逃げれないだろ!」

 執拗な黒剥がしの催促コメントに、田口はいつぞやの平仮名コメントを思い出していた。

「そこまで言うならやるけど…あの文字化けコメント、解読してみたか?」

「いや、触ってない。あんなん文字コードの不一致だろ?」

「『黒剥がしてあるのに何で嘘つく』」

「は?」

「だから、『黒剥がしてあるのに何で嘘つく』だよ。文字化け復元してみたらそう書いてあった。」

「俺らをビビらせる為のイタズラか?」

「それは分からない。お前の言う通り、イタズラかもしれないし、そうじゃないかもしれない。」

 田口の再確認するような視線に、井出は頷く。

「まずは、黒を剥がした動画をもう一回見てみよう。」

 井出の指示で田口は、今月の頭に黒剥がし編集を行なった動画を再生する。


 井出の影がかろうじて見える程度の真っ暗な動画が再生された。


「おいおい、再生するファイル間違えてるぞ!」

 井出が笑いながら田口の背中を叩く。

「いや、ファイル名も最終更新日も合ってる」

 ファイル情報にも『最終更新日:11月3日』と、黒剥がし編集した日付が表示されている。

「……どうする?また剥がしてみるか?」

 モニターを見て固まる井出に念の為尋ねると、ハッと我に帰った。

「お、おう、頼むわ!……そんな嫌そうな顔するなよ」

 田口は渋い顔をしながらパソコンに向き直る。

 前回と同じように、冒頭数秒のみ切り出したファイルで編集し、その設定を元のファイルに反映する。


「なんだこれ」


 前回、黒を剥がしたときは音のズレだけだった。実際、最初の数分で違和感を覚えて再生を止めた為、最終的にどうなっていたのかは知らないが、見た範囲内では確かに音のズレだけだった。

 

「『あんな古い_______古道具屋が近所にあるの__しい』古道具コレ____んかな?


 明らかに音が途切れている。ノイズが走るとか言うレベルではなく、完全に無音。音の虫食い穴。

 田口は反射的にシークバーを戻した。


「『あんな古_       _道具屋が近所にある_  _い』古道具コ_    _かな?


 先ほど、音が途切れていた部分が黒くなり、更にその前後の音が途切れた。

「悪い、もう一回戻す。」

 あんぐりと口を開けて画面を凝視する井出に断りを入れてもう一度シークバーを戻す。


「『あんな_         _具屋が近所にあ_    _』古道具_      _な?


 またも黒い部分が広がり、その前後の音が無くなった。

 おそらく、再生する度に黒が広がっていく。

「これ、どんどん黒が増えてる?」

 井出も同じことを考えたらしく「同じところを何度も再生して黒を増やすぐらいなら」と一先ず最後まで流すことにする。


「こうなったら  だ!ヨナちゃんの周りを   して闇に       ぜ!」

 

「……え  と、勝てませ     今回の   カメラに詳しい方で原因が      らコメントください!それでは     さよなら!」


 シークバーが右端に辿り着き、井出がこちらに笑顔で手を上げている状態で再生は止まった。

 所々黒くなり、音が途切れた虫食いのような動画。それに田口は他の違和感も覚えた。

「最後、声と口が合ってなかったような気がする。」

「お前、よくそんなこと気づけるな…俺はこの状況でもうお腹いっぱいだわ…」

 はあ、と大きく溜息をつく井出を横目に田口はシークバーを少し戻す。


「        て         の     ラに詳し                  ださい!             !」


 聞きたかった部分はすでに黒に飲まれていた。

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