#1 初めての美味しさ
私の名前は
──────────────────────
あれは、十数年ほど前だろうか……
「うえぇ、なにこれ苦い!美味しくない!まじぃ」
私はそう言い、初めて飲んだ真っ黒なコーヒーを、一口だけ飲んで残りを全てお袋に渡した。それからというもの、コーヒーというものが大っ嫌いで一切飲まなかった。
それから、数年。 私は料理にハマっていた。そう言っても、チャーハンやパスタを、ちょこっと作れる程度だ。他にも、インスタントラーメンをアレンジして食べるのにもハマっていた。そこで、ふと思った。
「苦くて嫌いだったコーヒーも、アレンジしたら飲めるかもしれない!牛乳を入れてカフェオレにしたり……」
それも、ちょうど、隣でお袋が大好きな、ブラックコーヒーを飲んでいたのだ。その時私は、真っ黒なコーヒーが、淡く明るく輝いて見えた。
「ねぇねぇ、母さん。コーヒーってどうやって作るの?」
コーヒーが大っ嫌いだった私が、急にコーヒーの作り方なんて聞いたから驚いたのだろう。
「えぇ!!あんたがコーヒーを!?急にどうしたの!!熱でも…」
そこまで驚くかよ、あと「熱」って…煽ってんのかよ。と思ったが、私はこう答えた。
「俺、最近アレンジ料理にハマってんじゃん。そったら、ふと思って。「コーヒーもアレンジすりゃ美味くなるんじゃね?」って。だから、作り方教えて」
お袋は、納得した様子で一緒に台所へ向かった。
「はい。まずはお湯を沸かす。早よ、沸かしなさいよ!そしたら、だいたいこのスプーン1杯分の粉を、このマグカップに入れたら、沸いたお湯を注ぐ。はい、それだけぇ」
急かされたりしながらも、簡単にコーヒーを作ることが出来た。
そこで、私はどんなアレンジをしようか迷った。
「砂糖や、牛乳。はちみつもありやな。塩や生姜も入れたりするんか……それはまだ早いかなぁ」
調べたりもして、たどり着いた答えは牛乳だった。冷蔵庫から牛乳を取り出し、目の前で湯気を上げているコーヒーにゆっくりと牛乳を注いだ。その情景は、真っ黒なコーヒーに真っ白な牛乳が溶け込んでいき、それはまるで漆黒と純白のオーロラを見ているかのようだった。白と黒のマーブル模様を、私はティースプーンでかき混ぜた。
「出来た。これが、俺の初めて作ったコーヒーだ。」
そう思い、口にしたその瞬間、私の知っていたコーヒーとはまるで違う、まろやかな舌触りと、ほんのりとした苦味が口いっぱいに広がり、微かなコーヒーの苦さが鼻を通り抜け、私は初めて思った。
「こうひいっておいしいー」
それから、私はコーヒーのアレンジにのめり込み、山ほどアレンジレシピを編み出してきた。
すると、次第に思ってきたことがあった。
「コーヒーが苦手で飲めない人でも、アレンジしたら飲めるんじゃね?」
それから、全然決まってなかった将来の夢が、決まったのだ。
『子供や、苦いのが苦手な人でも、コーヒーを美味しく飲める居場所を作りたい。だから、俺は将来カフェを開く!』
と言う、夢が。
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