#1 初めての美味しさ


 私の名前は如月右京きさらぎうきょう。現在、カフェのオーナーをしている、21歳男だ。まずは、なぜカフェオーナーになったかを語ろう。

──────────────────────

 あれは、十数年ほど前だろうか……

「うえぇ、なにこれ苦い!美味しくない!まじぃ」

 私はそう言い、初めて飲んだ真っ黒なコーヒーを、一口だけ飲んで残りを全てお袋に渡した。それからというもの、コーヒーというものが大っ嫌いで一切飲まなかった。

 それから、数年。 私は料理にハマっていた。そう言っても、チャーハンやパスタを、ちょこっと作れる程度だ。他にも、インスタントラーメンをアレンジして食べるのにもハマっていた。そこで、ふと思った。

「苦くて嫌いだったコーヒーも、アレンジしたら飲めるかもしれない!牛乳を入れてカフェオレにしたり……」

 それも、ちょうど、隣でお袋が大好きな、ブラックコーヒーを飲んでいたのだ。その時私は、真っ黒なコーヒーが、淡く明るく輝いて見えた。

「ねぇねぇ、母さん。コーヒーってどうやって作るの?」

 コーヒーが大っ嫌いだった私が、急にコーヒーの作り方なんて聞いたから驚いたのだろう。

「えぇ!!あんたがコーヒーを!?急にどうしたの!!熱でも…」

 そこまで驚くかよ、あと「熱」って…煽ってんのかよ。と思ったが、私はこう答えた。

「俺、最近アレンジ料理にハマってんじゃん。そったら、ふと思って。「コーヒーもアレンジすりゃ美味くなるんじゃね?」って。だから、作り方教えて」

 お袋は、納得した様子で一緒に台所へ向かった。

「はい。まずはお湯を沸かす。早よ、沸かしなさいよ!そしたら、だいたいこのスプーン1杯分の粉を、このマグカップに入れたら、沸いたお湯を注ぐ。はい、それだけぇ」

 急かされたりしながらも、簡単にコーヒーを作ることが出来た。

 そこで、私はどんなアレンジをしようか迷った。

「砂糖や、牛乳。はちみつもありやな。塩や生姜も入れたりするんか……それはまだ早いかなぁ」

 調べたりもして、たどり着いた答えは牛乳だった。冷蔵庫から牛乳を取り出し、目の前で湯気を上げているコーヒーにゆっくりと牛乳を注いだ。その情景は、真っ黒なコーヒーに真っ白な牛乳が溶け込んでいき、それはまるで漆黒と純白のオーロラを見ているかのようだった。白と黒のマーブル模様を、私はティースプーンでかき混ぜた。

「出来た。これが、俺の初めて作ったコーヒーだ。」

 そう思い、口にしたその瞬間、私の知っていたコーヒーとはまるで違う、まろやかな舌触りと、ほんのりとした苦味が口いっぱいに広がり、微かなコーヒーの苦さが鼻を通り抜け、私は初めて思った。

「こうひいっておいしいー」

 それから、私はコーヒーのアレンジにのめり込み、山ほどアレンジレシピを編み出してきた。

 すると、次第に思ってきたことがあった。

「コーヒーが苦手で飲めない人でも、アレンジしたら飲めるんじゃね?」

 それから、全然決まってなかった将来の夢が、決まったのだ。

 『子供や、苦いのが苦手な人でも、コーヒーを美味しく飲める居場所を作りたい。だから、俺は将来カフェを開く!』

 と言う、夢が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る