第10話「悪魔夫妻分断作戦」
【ジュリア視点】
朝焼けが射す前、ジュリアは急ぎ足で石畳を駆けていた。
──本部からの連絡が途絶えて二日。
不安が胸を蝕む中、彼女は確信していた。
奴らは、そこにいる。
シスターズ・ジム本部──そこはかつて、悪魔に対抗する信仰と拳の砦だった場所。
だが今、ジュリアの目の前に広がっていたのは──地獄の宴だった。
堕落しきったシスターたちが、薄衣をまとい、酒に酔い、リングの上で下卑た笑いを上げている。
聖水はトイレにぶちまけられ、聖典は破かれ、グローブは焼却炉で黒く煤けていた。
「……っ、こんな……!」
こみ上げる吐き気を喉の奥で飲み下したジュリアの前に、現れる二つの影──
「お帰りやす、ジュリアちゃん♪」
艶やかに微笑むリリリリス。
その傍らで、ペルフェコールは嘲るように腕を組んでいた。
「この後はなぁ、若い男を呼んで乱交パーティーや。下僕どもはもうそれしか頭にないらしいわ♪」
「そのあとは、世界中の聖地を“ハネムーン”で穢しに行くのだ。二人きりでな」
ジュリアの瞳が燃えた。
──二人きり。
その言葉が、突破口になると気づく。
(……悪魔は“屈辱”によって祓える。しかし夫婦でいる限り、互いを慰め合い、癒してしまう)
つまり──
分断さえできれば、勝機はある。
「ウチらを祓いたいんか? ほなリングで勝負しよか」
リリリリスはジュリアに指を突きつけた。
「アンタが勝てば器を出てったる。けどウチが勝ったら──アンタも堕ちて、乱交パーティーに参加や」
反吐が出るような契約だった。
だが──時間を稼ぐためには、やるしかなかった。
「……望むところです」
周囲のシスターたちがゲラゲラと笑いながら、リングを囲む。
もはやかつての同志たちの面影はない。
そして──
ゴングが鳴った。
「助けてぇ……ジュリア……痛いよ……」
イヴの声で泣き真似をするリリリリス。
「──うるさい」
次の瞬間、ジュリアの拳がリリリリスの顎を捉えた。
リングに汗と唾液が飛ぶ。
「私はイヴをぶん殴って目を覚まさせに来たんです!」
会場がざわつく。リリリリスの目がギラリと光った。
「やるやないかい──本気で行くで?」
本気の構えを見せたリリリリスの背後で──
突如、ペルフェコールの姿が消えた。
「──っ、なっ!?」
リリリリスが驚愕し、辺りを見回す。
ジュリアはその瞬間、勝利を確信した。
(成功した……!)
──あとは、あの方に託すだけ。
---
【メイ視点】
黒いモヤが屋敷のリングに集い、中心に男の影が形を成していく。
それは──ペルフェコール。
「……ここは……なぜ我は……?」
リングには、描き込まれた魔法陣。
悪魔を召喚するための術式。
そして、リングの対角線上に──メイが立っていた。
「ようこそ、パウロ様。いえ──ペルフェコール」
メイは口元に笑みを浮かべた。
「貴方は悪魔……ならば、こちらから“召喚”できるはずでしょう?」
ペルフェコールの目が見開かれる。
「まさか……!」
その通り。
これは、ジュリアとメイが立てた“悪魔夫婦分断作戦”だった。
リリリリスとペルフェコールは互いの存在で力を補完し合い、屈辱さえも癒し合ってしまう──
だからこそ、互いを引き離し、個別に叩くしかなかった。
メイが指をリングの外に向けて振る。
「──貴方がたの“ハネムーン”は、ここで終着点ですわよ?」
メイの笑顔に、確かな“気迫”が宿る。
かつてないほど静寂に包まれるリング上──
だが確かに、最終決戦の幕が開いた。
(つづく)
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