第5話  月形洗蔵 公金横領の謎

 福岡藩、筑前勤王党の首領格、月形潜蔵の乙丑の獄の罪状に1500両の公金横領があります。幕末の一両はかなり価値が落ちていたと推測されます。かりに1両1万円だとしても1500万円、銃や武器を買い込んだ形跡はありませんので、交通費、滞在費、交際費等でそこまでは使わないと思います。そこで林元武の備忘録を解読すると、これだと思うような記事がありました。


 高杉晋作筑前亡命の場面

後数日にして高杉来たり訪ない、挙兵の勇断決行すべきを談ず。予、ここに懐に抱かせる意見を藩主に建言したるも採用せられしを慨し、その建白書を彼に示す。彼通読してその意見を同じうするを喜び、君はこの主張を決行して大坂城に向かうべし、しかるに長州は貴国より彼の地に近し、先鋒はまず吾これに当り兄等の背後に落ちざらんと、あるいは戯言を交え、互いに胸襟を披瀝(ひれき・打ち明ける)して懇談数刻におよぶ。のち西郷等と会見せしめたるも、この時の凝議(ぎょうぎ・謀をこらす。)に基づくなり。


 三太夫処分の報来るや高杉深くこれを憂い帰心矢のごときも旅費無きをもって同志はこれが調達を為し、伊丹、早川、瀬口、安田等と共に対州屋敷出発す。博多継所古門戸に到り駕籠を命ず。高杉一同に謂って曰く、「行人吾等の顔貌を見、煩わし、手拭を冠りては如何」と、予曰く、「藩より贈りたる博多絞の手拭あり(紺赤にて絞りたるもの)これを冠るべし」と。のち預かってこれを冠り、互いに相見てその異様の扮装を笑いたりき。時に月形来りて伊丹をして左の觸状を出さしむ。


 国家の為メ有志何某々々長州人高杉晋作等罷通候に付駕籠、宿等無滞可罷通自然遅延之者有之候節ハ厳科二処ス可キ者也


 しかのごとく月形は治道の命(沿道の命か?)を渡し意気軒高として倒天覆海(とうてんふかい・天を倒し海を覆すような強い行動)の概ありたりき。高杉、伊丹に語って曰く「月形先生は圭角(けいかく・性格や言動にかどがある)多く円満を欠くも、その気骨に至りては稜々たるものあり」と。


 伊丹、瀬口に謂って曰く「塩笊に金子千両余容れ置きたり、君、受任して諸費を支払い来たれ」と、あたかも臣僕に命ずるがごとく態度傲岸なりしかば、瀬口憤然として怒り「どこにあるや」と問う。伊丹答えて「溝端にあり」と、瀬口「これなるか」と蹴りければ一分金は地上散逸して黄金の花は開きぬ。予等これを拾集してその大部を収めたるも、なお溝中に落ちたるものあり。高杉、駕籠より下り溝中を探り「浪人は金銭を得るはなはだ難し、一分たりとも遺すなかれ」とことごとくこれを得たり。


この一文から考えるに、1500両の使途不明金は長州の五卿工作や、高杉晋作に渡ったのではないかと思います。

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