第4話 乙丑の獄 柄杓の使い方の謎

 福岡藩の幕末に佐幕派が勤王派を弾圧した乙丑の獄で、柄杓が意外な使用方法をされていました。筑前勤王党の林元武が拘束されて桝小屋の獄に連行され、悲惨な光景を目の当たりにしました。

 

 林元武は桝小屋の獄には地獄門と称される門がありはこれより入ると、相撲場のように竹柵が巡らされ篝火を焚いているのが見えました。先に桝小屋に入獄した同志は既に何人か処刑、斬首されていて小柄杓で胴体と首を接続したドクロが羅列していました。以下は林元武の備忘録の原文から抜粋しました。


 桝小屋に地獄門と称するあり、斬首者はこれより入るを例とす。予もこの門より入れば周囲は相撲場のごとく竹柵をめぐらし、所刑場の側において焚火し居れり。同志の士はすでに斬首せられ、柄杓をもってその身首を接続したる。髑髏(どくろ)は刑場に羅列せり。就中(なかんずく・とりわけ)伊丹真一郎は大袈裟に斬られ、その腸を露出し今中祐十郎の死骸は同族より受け取りおれり。


 予はこの間を引き回されし後、獄卒は縛縄を解き衣服を脱せしめ、頭髪及び身体を検し新築の獄舎に収容しぬ。時あたかも黄昏にして外景は見ることあたわず。獄舎は七島表(しちとうおもて・琉球畳)を敷ける六畳にして内一畳は便所なり。予に先だって収容せられしもの、長谷川(範蔵)、尾﨑、西島、徳永、浦、山内、海津、伊熊にしてたがいに既往(きおう・過ぎ去った昔)を語りつつ寝(しん・眠り)につく。


 翌朝、信玄弁当に醤油の實(さね・実)、味噌等あるを見る。これ海津が早く入獄せしをもって月形、今中等が宅より差し入れたるものなりと。海津は所刑の模様を語って曰く「一昨日は刑場の建造にや竹木を運ぶ音して喧噪たりしが、今日夕食後に至り同志等の姓名を点呼し就刑(しゅうけい・受刑)の準備を命ず。しばらくして海津幸一、月形洗蔵以下を縛し、まず海津を呼び出し、側筒頭より何この廉をもって斬首申し付くるの宣告をなし、やがてエイヤのかけ声をもってついに刑場の露と消えぬ。順次それぞれの宣告をもって刑の執行をなし、最後伊丹真一郎に至り、喜多岡雄平を斬殺したる故をもって大袈裟に切られたり。月形洗蔵刑の宣告あるや罵って曰く、我ら同志のごとき正義を唱える者を誅するはその当を得ざるなり。しかる順逆をわきまえざるの藩府は滅亡眼前にあり」と。


 話は戻りますが、柄杓で首と胴体をつないだというのが気になります。そのまま想像しても、水を掬う部分が大きくて体に入らないのではないかと思います。AI先生はデータの少ない事に関しては嘘つきですが、一応聞いてみました。


史実か?  ほぼ確実に伝説・逸話

目的    忠義・武士の美学を象徴

出典    逸話集・口伝・後世の脚色

切腹では? 介錯があり、柄杓などでつなぐことはしない


 上記がAI先生の答えですが全否定されました。乙丑の獄の際に斬首、切腹の極刑を言い渡す時に藩の執行する側も、久しく実例が無いので、手順手順が分からず過去の文献を調べたとも伝えられます。筑前勤王党の一方の首領、加藤司書の墓が大正時代に改葬され血染めの着衣や肉片が出てきました。ここらに何らかの手がかりが節信院にあるかもしれません。まだ継続して調べます。


 柄杓の謎は残ったままですが、筆者が推測するに古文書の「小柄杓で胴体と首を接続したドクロ」は実際に林元武が見た光景です。推測するに介錯用の水桶と柄杓を介錯後に柄杓の柄を片方切り、首と胴体をつなぎ合わせた上で、親族に引き取らせたのではないでしょうか?柄杓を切る事でこの世の未練を断ち切り、迷うことなく往生するように水を飲む為にある柄杓の掬う部分を切断する・・信じるか信じないかはあなた次第です。


 ここまで書いたところで文献を見つけました。成松正隆さん著の「加藤司書の周辺」より。大正三年十月二十五日に加藤司書の菩提寺節信院で乙丑の獄で倒れた人々の五十回忌がありました。司書の孫で住職、加藤輔道老師が改葬のため墓所を発掘したところ司書の遺骸は埋葬時のまま残っていました。首と胴体は柄杓でついでありました。但しこの話の出典はまだわかりません。







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