プロローグ 強襲揚陸波~アンジェラ、突入~
宇宙で瞬く光源は燃え盛る恒星の光か、新たな星の爆発……燃え尽きていく星の最後の輝きに限られる。だがそれ以外のものも存在する。何かの終わりという点については同じだろうが違うと断言していい。
それは戦いの光。
星の光すら届かない見捨てられたとある銀河の外縁部。かつてあった恒星が滅びて何もかも光が消え去ったこの場所で……宇宙を飛ぶ艦船や航空機が爆発する度にそれらが真新しく生まれた光源となっていく。
それが惑星ほどある巨大な構造体のシルエットを映し出し、またそれへ向かう一隻の軍艦を映し出す。
低視認性を追求しソリッドな形状で形作られた宇宙の軍艦が1隻。そしてそれは死肉に集るハエのように群がる宇宙攻撃機らの攻撃を受けていた。軍艦のボディからせり出した砲塔が蠢き、また側面の対空機銃が瞬くと大小の爆発が起きていく。
軍艦が防空のために放つ危険な熱量を持った光源。それを避けるように航空機が続けて発進していく様子を観測している別の軍艦がいた。
けたたましいサイレンが鳴り響くその軍艦の内側……それも先端である艦首方向からモニターを通してその光景を見る者がいる。一人の兵士、それは軽量でありながらも装甲された宇宙活動用のコンバット・スーツを纏った女性。
■有志連合戦闘巡洋艦アークⅣ 艦首前方空間魚雷発射装置
「搭乗完了。ここから見極めるのは難しいから発射のタイミングはそちらに任せるわ」
「もう少し待って頂戴。海賊ギルドがこの規模で襲撃をかけているってことは幹部が指揮を執っているはず……観測情報を整理照会させて」
「なるべく早くして。空間魚雷発射管内部は窮屈すぎる。発射の衝撃で肩が外れる心配はしていたけれど、その前に肩が外れそうよ」
「はいはいそうね、次は対衛星ミサイルに乗って頂戴……照会が終わりそう。このエンブレム、別のアウター・スペースから態々?」
西暦3378年地球帝国標準時17時35分
目標座標・
再生者、リ・マスター。
地球人類が生まれた母なる星……地球とは遠く離れた別の宇宙系の創世者とされる超常存在、ザ・マスター。
再生者は 彼らの後継者であり、この荒廃した銀河を再生していくことが出来る唯一の存在だという。その彼が何故1000年以上前の、しかも我々と同じ地球人類なのか。なぜ今向かっている巨大遺跡構造体で保管されていたのか。その回答を現段階でも構造体の管理者から得られなかったことは不可解であり不信感しかないが、その奇跡の存在があそこにいるという情報が告げられたことは宇宙の一大事だった。
管理者から銀河連邦に向けられた神託の如き言葉、再生者が目覚める時が来たという情報。たったそれだけで銀河連邦は揺れた。多くの惑星国家の集まりである政治集合体でありながらそのすべての国家が、だ。
超常的な救世主の存在を確保するか、黙殺するか。或いは……排除するか。議論が続く中で採決が取れない連邦議会に苦しんだ議長は、秘密裏にザ・マスターを信奉する宗教組織の銀河教導院へ秘密裏に依頼。地球帝国の一派や、旧地球人類系種族で構成される独立惑星国家から戦士を集め小規模ながら精鋭のみを集めた有志連合を組織させる。
「私たちだって足踏みしていたわけではないのに、手が早すぎる。先にギルドの連中が到着していたなんて……クソッ!だからアークとアークⅢの完成は後でいいと議会に提出したのに!」
「先を越されただけよ。再生者を確保したわけじゃない、管理者からのシグナルは出続けている」
「惑星開拓機構の横やりさえなけば……今頃は私たちが一番乗りだったのよ」
「やることは変わらないわ。再生者の確保、敵の排除。その前後が入れ替わっただけ」
当然その情報は裏……非合法、反銀河連邦社会的な世界にも伝わった。その中でも特に巨大な宇宙の犯罪シンジケートである海賊ギルドが出張ってきたというのだ。
よって有志連合が派遣した戦闘巡洋艦アークⅣの戦闘指揮を執る立場の私は、遺跡に群がるギルドの連中を突破し……あの場所で眠っているという銀河の希望を求めて単身出撃する準備を整えていたのだ。
コールドメタル・マチェットに重機関砲、手りゅう弾……拳銃。それ以外は後で追従させる予定の運搬ドロイドが解決させる予定だが、この航空波状攻撃と防衛網の中ではそれもアテにはできないかもしれない。
そうした混沌とした戦況を突破するために単身で飛び込むという作戦とも言えない方法を決めた。
この宙域で目立つ標的にならないように……視覚や情報的にわかりやすい航空機で向かうことなく、魚雷発射装置で単体射出。その後に慣性やアーマーの小規模な噴射推進で巨大構造体へ向かう。ネロ曰くイカれた話で却下の一点張りだったが、ここまでしなればならない時が来ているのだ。
それに異常な事態に対しては、平常の作戦思考などは後手を取り続ける。現に今もこちらに気づいた海賊ギルドの連中によって多段的な航空攻撃による妨害を受けている。ただの散発的な遭遇線ではなく、ほぼ大規模な軍事作戦の様相に変わっているのだ。空母複数に巡洋艦隊を引き連れての襲撃……ちょっとした惑星間紛争のレベルに突入しようとしている。こちらは巡洋艦2隻だというのにだ。
ならば正攻法は避け、強行で苛烈な作戦をとるしかない。それが無謀ともいえる命知らず《スーサイド》な作戦でもだ。
それにこれから向かう先にいる者がこの作戦に見合う希望であれば、命などいくらでも積み上げてもよい。銀河全体や人類のため……いや私たちの未来のためならば。
「アンジェラ!指揮してる相手がわかったわ。ギルドの幹部、コレクター・デリガット・バフムよ!この艦隊規模と展開速度、執念のような異常さを感じていたけど……変態収集者が絡んでいるなんて!兵隊雇うのにどんだけ大枚叩いたっていうの!?」
「アークⅡの状況次第だけど。戦闘班長としてアークⅣの強襲揚陸の必要性を認めるわ、聞いてるイリーナ艦長?帰りの船はあちらで確保する気で向かわないと辿り着けなさそうね。最悪今からでも離艦準備を始めたほうがいいかもしれない」
「冗談で済みそうにないのが嫌なところね。それより攻撃機動に穴が出来たのを確認、ランチャーでの射出までカウント開始するからアンジェラは対衝撃用意。
辺境銀河の外縁部、アウターといえど惑星宙域環境保護法も構わないとされた状況。銀河連邦法に対しての超法規的措置、その許諾を出した議長も銀河教導院や独立惑星国家の長達。彼らからすれば再生者の身柄を確保したいのはギルド以上、創世主の後継者なら当然だろう。最悪手段を選ぶなとも聞こえてくる。
発射の衝撃に備えて呼吸を整える中で思う。この作戦に参加してから何度も祈りを繰り返すが……これから会い、求める人間はこれほどのまでの危険に見合った希望の光であってほしい。
広大な暗黒の宇宙を照らす光。私たちを導く宇宙の光に。
この祈り、せめて宇宙に住む人類の半分程度と同じ願いであれ。
「
「アークⅡから戦闘機動補正データ受領、アークⅣも戦術データ予想を編纂。各航空中隊指揮は各々の中隊長に任せる!」
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