第2話 君は完璧で究極なメイド
よく寝ました。とてもよく寝ました。
ここまで気持ちのいい朝はどれぐらいぶりでしょうか?
「おはようございます、御主人様。お召し物はこちらに」
メイドさんに促されて立ち上がり、台に用意された水盆で顔を洗って目を覚ます。
その後、寝衣を脱がされて着替え。
今日の衣装は活動服としてのドレスで装備をつければ軍事行動にも耐えられるやつ。
なんか、ぼーっとしてるだけで着替えが進んでいる気がするけど、普通着替えさせられるときって右手を上げてくださいとか足を上げてくださいとか色々言われるもんじゃなかったっけ?
……楽だからいいか。
「次はお化粧でございます。こちらへおかけください」
んー……なんか忘れてると言うか違和感があるのですが、あ、なんか白粉変わりました?
「鉛白を使用したものは身体によくありませんのでお取替え致しました。こちら、昨晩のうちに制作いたしました酸化亜鉛を使用したものでございます」
ほえー、さんかあえんってなんでしょう?
まあ、なんか前のより質が良さそうなので問題ないです。
……ん?制作した?なんかわたくし、聞き間違えました?
「
あっはい、お願いします。
メイドさんの手の中でしゅるしゅると結われていく私の黒い髪。
あー、そうそう、今日ぐらいには魔王軍……の先陣の切れ端……の下っ端ぐらいの部隊との戦闘になると思うので動きやすい髪型にしてほしかったんですよ、気が効きますね彼女。
「完成致しました。違和感等ございますか?」
あ、無いです、はい。あれ?いや、違和感はすごく大きいのがあるんですが……。
「では、次は朝食でございます」
んー……、あ、いい匂いがします。
食堂の席につくと、用意されていたのは……。
「尾長戦鶏のシチュー!昨晩から食べたいと思っていたのです!」
あと、きれいに盛り付けられたサラダと焼き立ての匂いがするパン。
なんか、ここ1年ほど食べられていなかったとても美味しそうな食事にさっきから感じている違和感とかはどこかへ飛んでいってしまいました。
「ご先祖様、勇者様、関わったすべての方に日々の糧を得られる感謝を」
食前の祈りもそこそこに、ぴっかぴかに磨かれたスプーンでシチューを一口。
……!?こここ、これ、料理長どれだけ腕を上げたんですか!?経験したことのない濃厚な味に思わず笑顔がこぼれます。
わー、うわー!こんなにごはんが美味しいなんて!
☆★☆
……で、その、食後になってやっと頭が回るようになったのですが。
「……メイドさん?」
我が家のメイドは全員暇を出しましたよね?
……ということは、彼女はつまり?
「ふふっ、漸く名乗らせて頂けそうで嬉しいです。私はルナリスベーゼ・ラムクラウン、貴方様に召喚頂きましたメイドでございます。どうか、以後よろしくお願い致します」
ものすごく綺麗な所作で名乗って、一礼するメイドさん。
はえー、長い三つ編みの銀髪がすっごいキレイ。
なんというか、デキる美人!を具現化したみたいな凛とした顔立ちで、それなのにすごく穏やかな雰囲気で……。
瞳は吸い込まれそうな金色ですし、ほんのり笑ってる薄い唇がすごくせくしー。
身長は正直かなり低いですが、それが逆に彼女を神秘的に見せています。
いや、こんなメイドさん我が家なんかで雇ってたはずないでしょってすぐに気がついてくださいよわたくし!しかも料理長もとっくに家に帰ってもらってますよ!あの美味しい朝食は彼女の手料理ですよ!もっと味わって食べるべきでした!
「あっはい、ティルフィア・スィルティット・カフスピンです。伯爵家の長女。……あ、いえ、当主が多分死亡してるのでスィルティット伯爵がわたくしになるんですよね」
「はい、存じております御主人様。周辺の地理情報、情勢、家系図、領都の人口から各種必要物資の生産力まで全て確認済みでございます」
んんん?彼女、わたくしが召喚した勇者であってますよね?
で、召喚した直後にわたくしが倒れて……。あれ?もしかしてあれから数日とか経過しちゃってるんでしょうか?
「あの、わたくし、どれぐらい眠っていました?」
「8時間ちょうどです、御主人様。意識のない御主人様を許可なく入浴させ、着替えさせたこと、謝罪したほうがよろしいでしょうか?」
「あ、いえ、寧ろ助かりました、ありがとうございます」
……つまり、8時間程度でわたくしを寝かせて、色々な情報を確認して、白粉を作って、朝食まで作った?
というか、そもそも尾長戦鶏とか領都では入手出来ませんよね?え?意味がわかりません。
「あの、朝食に出た尾長戦鶏とかって何処で……」
「資料を確認しましたところ、南方の隣領で生産している村落がありましたのでそちらで買付けました。ああ、村を占領していた魔王軍は掃討致しましたので今後は安定して入手が可能になります」
あの、多分その村まで早馬を飛ばしても2~3日かかると思うんですが?
というか、え?
「魔王軍と戦闘したんですか!?」
村の占領状態とか色々聞きたいことはありますが、それより彼女、「魔王軍は掃討致しました」って言いましたよね!?
戦えるんですか!?メイドなのに!?
「はい、オークやゴブリンしか居りませんでしたので掃き散らすのに苦労はございませんでした」
なんか、頭が痛くなってきたんですが……。あと普通に右目は痛いです。
彼女、もしかして「勇者がメイドをやってる」みたいな人なんでしょうか?
少なくとも、現状出ている情報だけで彼女は既に人類という規格から飛び出してるように感じます。
「えっと、改めて確認しますが……。勇者……ですよね?」
「いえ、メイドです。強いて言うならば、メイド長の称号を頂いております」
メイドですかー……。
「メイドさんじゃ、多少戦闘の心得があっても魔王軍を全部倒すなんて出来ませんよね……。あー、ダメだ、詰みです。……召喚した勇者を元の世界に返す魔法を頑張って、急いで探しますのでルナリスベーゼさんは心配しないでください。なんとか、なんとしても魔王軍が攻めてくる前に送り返して差し上げます!」
「御主人様、私の事はルナと気軽にお呼びください。あくまでもメイド、御主人様に仕える者なのですから。それと、魔王軍の対処ですが……、まあ、可能でございます」
……可能でございます?
思わずわたくしは首をこてんっと傾げました。
「初代メイド長は仰りました『文事に武事に、更に家事を極め、初めて人はメイドとなるのです』と。つまり、メイドとは御主人様の危機を単騎で討ち果たせる能力を持つ存在なのです」
いや、そんな超人的なメイドなんて聞いたことが無いんですが?
「それに恐らく、千年前に勇者として召喚された存在は2代前のメイド長でございます。
……はえ?
「あの、勇者は冥道剣神流という戦闘術を使うという話があるのですが……」
「ああ、冥道剣神流……?ああ、メイド献身流ですね?当然収めてございます」
「山一つ消し飛ばして道を作ったという伝説が……」
「ふむ、御主人様の行く手を阻む障害物であれば、例えそれが山であろうとも私が道を作りましょう」
「料理上手で、毎日掃除を欠かさなかったという話は……」
「メイドですもの、当然ですよね?」
わたくしの質問に応答するルナさんの眼は、限りなく澄んでいて……。
……本気だこれー!
そんな、微笑ましい?朝の一幕が終わろうという頃。
「敵襲ー!敵襲ーーー!魔王軍だー!」
物見櫓より、けたたましい鐘の音と共に魔王軍襲来を告げる声が響きました。
……本来なら、まあ、その、絶望してとっとと領都の端の断崖から海に身投げするところですが。
「都合よく、私の力をお見せして信用を頂くための相手がやってきた様子。御主人様、初陣の時間です」
にっこりと笑って何処からとも無く箒を取り出すメイドさんが居ると、なぜでしょう?欠片も負ける気がしないのは。
「というか、強いんでしたらわたくしが出撃しなくても良いのでは?」
「いえ?私はメイドですもの。私自信が武勲を立てる事は主義に反しますし、行えません。あくまで私に出来るのは御主人様の初陣に勝利を捧げる事のみでございます」
……あ、微妙に扱いづらいキャラ付けしてますね、ルナさん。
☆★☆★☆★☆
ルナリスベーゼ・ラムクラウン
わかる人にはわかる説明をしますと、彼女は技能レベル:メイドLV3 です。
ランスシリーズの技能レベルで、です。
御主人様の為のメイドとしての行為、という条件下ならば全ての行動が自動でクリティカルするようなもんです。物理法則だって壊します。
ついでに言うなら、種族に関してももにゃもにゃ……。
あと、他に2本書いてますので興味がありましたらそちらも読んで頂ければ幸いです。
中二病の魔法少女ゾンビ ~心はアラサー、戸籍はアラフォー、そして体はロリゾンビ~
https://kakuyomu.jp/works/16817330663095755643
七血キメラのダンジョン暮らし ~外に出ると研究所に連れ戻されるのでダンジョンに引きこもります~
https://kakuyomu.jp/works/16818622173876050994
それぞれ、百合ハーレムとおねロリの百合になっております。
次回「初陣」
更新予定は12月15日20時の予定です。
どうかよろしくお願いします。
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最新話までお読みいただき、感謝致します。
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次の更新予定
勇者を召喚したらメイドさんが来た ~最強メイド、魔王軍を一掃(ひとはき)する~ 禍成 黒いの @blakk
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