勇者を召喚したらメイドさんが来た ~最強メイド、魔王軍を一掃(ひとはき)する~
禍成 黒いの
第1話 質問致します。貴方が私の御主人様ですか?
注記:作中に、どう考えても日本語で会話してないと成立しない言い回し等が存在しますが、作中言語は日本語ではなく現地語です。
作中言語を日本語にわかりやすく意訳する為の表現であるとご理解下さい。
☆★☆
一昨年の春でしたでしょうか?
魔王が復活したのは……。
まあ、よくある事なのです。魔王の復活自体は……。
わたくしが生まれ落ちてから17年、その間に、今回のものを除いて2度ほど魔王復活の報を聞いた覚えがあります。
魔王は復活し、討伐軍が編成され、何事もなく退治される。
およそ千年前に初めて確認された初代魔王以外は、そうやってあっさりと倒されてきました。
魔王の復活とは言っておりますが、実際は復活などではなく知恵を持った魔物、魔族が一部の魔物を配下に組入れ、群れをなして人類国家へ略奪目的の襲撃を仕掛けているだけであって、実際に魔王という存在が復活したわけではありません。
しかし、此度の魔王復活は常とは違ったものでした。
編成された討伐軍の敗報が三度も届き……。
脅威とみなされ、ここイシュフェラント大陸に存在する7つの大国の連合軍が組織され、そして、壊滅したとの報が昨年の夏に届き……。
破竹の快進撃を続ける魔王軍に主力を欠いた国家が滅ぼされ……。
大陸の西端に位置する我がメーデルランツェ王国へ魔王軍が到達したのが今年の秋。
そして、雪のちらつき始めた初冬。
魔王軍は、とうとう大陸最西端にある田舎も田舎、ド田舎である我が領地へと到達いたしました。
父と兄は、領都であるここ、ワイトブリームに魔王軍が到達するのを少しでも遅らせるため出撃し……。
恐らく、もう帰ってくることは無いでしょう。
他の大陸に人類国家があるのやもしれませんが、主観で言うならば人類滅亡まであと数日……と言った感じです。
ここから入れる保険があるって本当ですか?……保険?なぜ私は保険の話を?
失礼、錯乱していた模様です。
で、えっと、そうですね、ここから逆転する手立てなど普通は存在いたしません。
しかし、初代魔王討伐の故事を紐解けば一つだけ手はあるはずなのです。
それが、勇者召喚の儀。
初代魔王侵攻の際にも、人類は相当に追い詰められたそうです。
統率された魔物の群れには並の軍隊では壁にすらならず、城壁は飛竜を前に役に立たず、城門は巨人の一撃に耐えられず、結界は魔王の魔力に耐えられず一刻も耐えられずに崩壊したと記述が残っています。
その状況を文字通り一騎当千、万夫不当の働きで覆したのが異世界より召喚したという勇者でした。
ちなみに、召喚した術者は我がカフスピン家のご先祖様だったりします。
つまり、こんな絶望的な状況でも勇者召喚の儀さえ行えるならワンチャンひっくり返せる可能性があるということです。
おっと、ワンチャンなんて田舎言葉が出てしまいました。
……まあ、この状況で礼儀も何もあったものではないですし、都会は全部魔物の支配地域ですしここが人類生存圏で実質一番都会なのでセーフとしましょう。
ふふっ、西の果てな上に領都は海を臨む断崖絶壁ギリギリに建てられているため産業も乏しく人口も村に毛が生えた程度しか居ない最上級のど田舎なはずだったんですけどねぇ……。
まあ、それはそれとして。
我が一族のご先祖様が勇者召喚の儀を行ったというからには何かしらの資料が残されているはずなのです。
と、わたくしは必死に領主館の書庫をひっくり返して漁っています。
ぶっちゃけ資料が残っていても儀式が行えるだけの設備や魔力が足りるかも不明ですし、勇者が本当に万単位の魔物を屠れるかと言われたら誇張である可能性が高いでしょう。藁にも縋る行為というやつですね。
といった風に、この資料探しも現実逃避&自己満足でしかないので我が家の使用人達は全員家に帰ってもらいました。
今頃、冬を越すための食料・燃料を消費して最後の晩餐と洒落込んでいることでしょう。
……資料探しに必死で昨晩から一睡もせず、何も口にしていないわたくしからすれば羨ましい話ですが、一応貴族としては最期まで足掻く義務が……ある……んじゃないでしょうか?多分。
……ああ、尾長戦鶏のシチューが食べたいですねぇ。無理ですけど。
と、どうせ滅ぼされるのだし片付ける必要も無いかと本や資料を散々ひっくり返しながら漁っていたところ……。
何かの拍子で倒れた本棚の後ろから、やたらと厳重な魔力封印の掛かった
まあ、封印自体は旧式のものですし、現代の魔法オタクたるわたくしにかかればちょちょいのちょいでしたが。
ラベルに書かれている文字は「繝。繧、縺ゥ召喚の儀・手順書Ver3.215426改改」
……多分これ、探してたものですよね?一部文字が古すぎて解読出来ませんが、恐らく間違いないと思われます。
というか、しっかり手順書を残した上に何回も改稿した感じなんですがご先祖様はよほど几帳面だったのでしょう、多分、しらんけど。
おっと、また田舎言葉が……。
紐解いてみれば、まあ、儀式自体はの手順は簡単……というか、「簡単にした」という印象ですね。
恐らくこれが改稿の理由なのではないでしょうか?
召喚陣を贄を用いて描き、そこへ魔力を注ぎながら呪文を唱えるだけ。
恐らく、魔術の素養がない子孫にも可能なように簡略化された手順なのでしょう。
何にしろ、実行可能なら試してみるのみです!
大丈夫大丈夫、もし失敗して何も起きなかったとしても、勇者の実力が足りなかったとしても、元々死亡確定の運命なのです。損はありません。
わたくしは疲れ切って逆にテンションの上がりきった身体で、スキップでも刻みそうになりながら儀式に最適な地下室へと降りていきました。
☆★☆
勇者に関して、残されている記録は多くはありません。
わかっているのは、冥道剣神流という特殊な戦闘術を使うということと、女性であったこと、我が一族のご先祖様と子を成し、ご先祖様の死後元の世界へと帰ったということ。
あとは、何やら一晩で魔王軍の先遣隊を単騎で全滅させたとか、行軍の為に山一つぶち抜く魔法を放って道を作っただとか眉唾物の話ばかりです。
ああ、ご先祖様の日記から読み取れるものもありましたね。
大変美人だったこと、お料理がとても上手だったこと、極めて綺麗好きであり日々の掃除は欠かさなかったこと等、長々と惚気話が書き連ねてありました。爆発しろ。
おっと、気を抜くと田舎言葉が出てしまいますね、失礼。
さて、目的の地下室へ到達いたしましたし、儀式に集中しましょう。
……ついでに言うなら、覚悟を決めましょう。
勇者召喚には贄が必要になります。
この場合の贄とは、召喚者の体の一部。
大抵の魔道士は体の一部を魔力庫として改造・運用しておりますので、儀式を行う者が魔道士であるなら魔力庫を差し出すのが最良だと思われます。
魔道士でなかった場合はどうなるのでしょうね?
幸い、わたくしは魔道士ですし、右目を魔力庫に改造してございますのでそちらを捧げましょう。
……どうせこのまま何もしなければ骨の1本に至るまで魔物の餌ですし、片目程度惜しくもありません。
幸い、利き目は左目ですし。
さて、では勇者召喚の儀を始めましょう。
長い長い詠唱が必要ですが、幸い暗記の必要は無い様子です。
素が銀と鉄だとか、礎が大公だとか、三叉路が循環するとか、通常の魔術詠唱とは異なる意味不明な文言が続きます。
「閉じよ」って書いてあるのに「みたせ」ってルビが振ってあるのとかどう解釈すればいいのでしょう?
……詠唱のさなか、小さな破裂音と共に右目が弾け大量の血液が滴り落ちます。
滴り落ちた血液は床の上で円を描き、中に複雑な文様を作り出し……、いい感じです。儀式がちゃんと進んでる実感があります。
ただ、まあ、流石に右目、痛いですね。
ついでに言うなら、出血と大量に流れ出る魔力と睡眠不足と空腹の合せ技でくらくらします。
詠唱が終わり、召喚陣が純白の光を放ち……。
どうやら、儀式は成功したみたいですね、一安心です。
あとは、現れた勇者が伝承にあるような強大な力を持つ人物であることを祈るだけです。
……もう一つだけ願うなら、性格や性癖が真っ当な人物であると更に良いです。
光が消えると、陣の中に立つ勇者の姿がはっきりと認識できました。
それは、頭にホワイトブリムを身に着け……。
それは、漆黒のワンピースの上に純白のエプロンドレスを纏い……。
それはそれは、何処に出しても恥ずかしくない完璧で究極なメイドさんでした。
……って、なんでメイドさん!?
「質問いたします。貴方が私の御主人様ですか?」
多大な苦労を払って、片目まで潰して勇者を召喚したと思ったら出てきたのはメイドさんという衝撃に、私の意識はここでぷつりと途切れました。
あ、でも、すごく美人なのは……良かったです……。
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しゅじんこう は こんらんしている。
あと、「問おう、あなたが私のマスターか」を
ということで新シリーズ開始でございます。
カクヨムコンに異世界ファンタジー【女性主人公】部門なんて素敵なものが追加されてるのを見て矢も楯も堪らず、今書いてる別の作品が終わったら書こうと思ってたものに手を付けてしまいました、はい。
毎週月、土曜日に更新予定ですのでどうかよろしくお願いします。
本日、もう1話上げております。
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