第2話 記憶の潮
滞在三日目。僕は録音機を海辺に設置した。
午前二時、潮が満ちるころ、機械のメーターが異常に跳ね上がった。同時に、僕の耳にもあの“鳴き声”が届いた。低く、湿った音。まるで何千もの声が重なって「戻れ」と囁いているようだった。
翌朝、録音を再生してみた。
そこには確かに声が入っていた。男の声。
——それは僕自身の声だった。
混乱した僕は島の古老を訪ねた。
古老は静かに言った。
「この島の下には、もうひとつの島が眠っとるんじゃ。潮が鳴くとき、それが目を覚ます」
「もうひとつの島?」
「昔、この辺りは二重島(ふたえじま)と呼ばれとった。上の島が人の世界、下の島が“影の世界”。潮が引くとき、境目がずれる。人が記憶を落とす場所じゃ」
夜、僕は夢を見た。
暗い海の底に、僕とまったく同じ顔をした“もう一人の僕”が沈んでいた。
彼は微笑んで、僕の耳元で囁いた。
「お前が上で生きるなら、俺は下で眠る。だが、潮はやがて混じり合う」
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