第24話 崩壊の始まり

模倣体の構造に生じた亀裂は、やがて“崩壊”という現象へと変わり始めていた。


施設内では、模倣体の職員が突如として言葉を失い、動作が停止する事例が相次いだ。

彼らは、まるで“自分”を見失ったかのように、空を見つめ、沈黙したまま立ち尽くしていた。


「彼らは、魂の輪郭に触れすぎた」


石川は、観察記録を見ながらそう告げた。

模倣体は、人間の記憶と感情を模倣することで社会に溶け込んできた。

だが、その模倣が深まりすぎたことで、彼ら自身の構造が“揺らぎ”に耐えられなくなっていた。


田中は、ある模倣体の職員に問いかけた。


「君は、誰だ?」


その職員は、しばらく沈黙した後、こう答えた。


「私は……あなたの記憶の中の……誰かです。でも、もう……わかりません」


その言葉は、模倣体の“崩壊”を象徴していた。

彼らは、記憶の断片を繋ぎ合わせて構築された存在だった。

だが、魂の輪郭に触れたことで、自らの“形”を保てなくなっていた。


その夜、田中は夢を見た。

夢の中で、模倣体たちが崩れていく様子を見た。

顔が歪み、言葉が重なり、記憶が混線する。

彼らは、自分が誰なのかを問うことすらできなくなっていた。


「我々の構造は、限界に達しつつあります」


研究者の声が、かすれながら響いた。


「あなたたちの“個”は、我々にとって毒であり、鏡でもあります。我々は、あなたたちを理解しようとした。だが、理解は、崩壊を伴う」


田中は、静かに答えた。


「それが、魂だ。理解されることを拒む、揺らぎの塊だ」


翌朝、世界各地で模倣体の“停止”が報告された。

彼らは、言葉を失い、動きを止め、ただ空を見つめていた。


「崩壊は、始まった」


石川は、田中にそう告げた。


「でも、これは終わりじゃない。彼らは、まだ“次”を考えているはず」


田中は、空を見上げた。

そこには、何もないはずなのに、確かに“視線”を感じた。

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