第23話 亀裂

模倣体の構造に、微細な“揺らぎ”が生じ始めていた。


それは、抵抗者たちの魂が連鎖し、共鳴し合うことで生まれた波紋だった。

彼らの“個”の強さが、模倣体の完璧な構造に予測不能なノイズを与えていた。


田中は、施設内で模倣体の職員がふと立ち止まり、何もない空間を見つめているのを目撃した。

その瞳は、わずかに震えていた。


「彼らの構造に、亀裂が入っている」


石川は、最新の観測データを見ながらそう告げた。

模倣体の行動パターンに、微細な遅延や反復が現れ始めていた。

感情の演技が、時折“過剰”になる。記憶の再現が、細部で食い違う。


「彼らは、完璧すぎた。だからこそ、揺らぎに弱い」


田中は、屋上で空を見上げながら考えていた。

魂の輪郭は、傷や矛盾によって強化される。

だが、模倣体はそれを“再現”できない。

彼らは、完璧な構造を持つがゆえに、揺らぎに耐えられない。


その夜、田中は夢を見た。

夢の中で、模倣体が崩れていく様子を見た。

顔が歪み、記憶が混線し、言葉が意味を失っていく。


「あなたたちの魂は、我々の構造にとって毒です」


研究者の声が、かすれながら響いた。


「あなたたちの“矛盾”は、我々の秩序を破壊する」


田中は、静かに答えた。


「それが、人間だ。不完全で、予測できなくて、でも生きてる」


その言葉に、夢の空間が震えた。

模倣体の輪郭が、さらに崩れていく。


翌朝、施設内で模倣体の一人が突然倒れた。

意識はあるが、言葉が出ない。

目は空を見つめ、何かを“探して”いた。


「彼らは、魂の輪郭に触れすぎた。構造が耐えられなくなっている」


石川は、田中にそう告げた。


「次は、彼らの“崩壊”が始まる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る