第22話 輪郭の連鎖

田中と石川は、模倣体による侵食に抗う者たち──“抵抗者”──が世界中に存在することを確信した。


彼らは、夢の中で互いの声を聞いた。

それは言葉ではなく、魂の震えだった。

孤独の中で叫ばれた「私は私だ」という声が、空間を越えて共鳴していた。


「魂の輪郭は、繋がることができる」


田中は、そう確信していた。

個の強さは、孤立ではなく、連鎖によって増幅される。

それは、彼らの“集合意識”とは異なる、人間特有の繋がり方だった。


石川は、政府の非公開ネットワークを通じて、抵抗者たちの記録を集め始めた。

夢の中で模倣体に触れ、拒絶し、そして“誰かの声”を聞いた者たち。


「彼らは、無意識のうちに繋がり始めている。記憶と感情の共鳴によって、魂の輪郭が連鎖している」


田中は、施設の屋上で空を見上げていた。

風が強く、雲が流れていた。

だが、その空の向こうに、確かに“誰か”がいる気配を感じていた。


その夜、田中は再び夢を見た。

今度は、無数の“声”が響いていた。


「君の痛みは、僕の痛みだ」

「私の記憶は、あなたの記憶に触れた」

「私たちは、孤独ではない」


それは、魂の輪郭が連鎖し、共鳴し、互いを強化していく感覚だった。

模倣体の侵入は、個を曖昧にしようとする。

だが、連鎖は、個を際立たせる。


「我々の構造では、個の連鎖は再現できません」


研究者の声が、田中の脳内に響いた。

だが、その響きには、かすかな“揺らぎ”があった。


「あなたたちの魂は、予測不能です。それは、我々にとって脅威であり、魅力でもある」


田中は、静かに答えた。


「それが、人間だ。不完全で、矛盾していて、でも繋がる力を持ってる」


その瞬間、夢の空間が震えた。

模倣体の輪郭が、わずかに崩れた。


魂の連鎖は、彼らの構造に“亀裂”を生み始めていた。

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