第21話 抵抗者たち
模倣体による感情の侵食が進む中、世界のあちこちで“拒絶”の兆しが現れ始めていた。
田中は、施設の中庭で一人の若い看護師と話していた。
彼女は、数日前から奇妙な夢を見ていたという。
亡くなった祖母が現れ、優しく語りかけてくる。
だが、最後には必ずこう言うのだ。
「あなたの心は、もう一人じゃない」
「それが怖くて……でも、私は拒んだ。祖母じゃないって、わかったから」
田中は、静かに頷いた。
彼女のように、“感情”を通じて侵入されかけた者が、少しずつ現れ始めていた。
石川は、政府の非公開ネットワークを通じて、同様の報告を集めていた。
世界各地で、模倣体の接触を受けた人々が、夢の中で“誰か”に語りかけられ、そして拒絶したという。
「彼らは、魂の輪郭を曖昧にしようとしている。でも、人間の“痛み”や“喪失”は、逆に魂を強くすることがある」
田中は、その言葉に深く頷いた。
「俺たちは、傷つくことで、自分を守ってるのかもしれない」
その夜、田中は夢を見た。
今度は、誰も現れなかった。
ただ、静かな空間の中で、自分の声だけが響いていた。
「俺は、俺だ。誰にも、変えられない」
その言葉が、空間に波紋を広げた。
そして、遠くから、同じような声がいくつも響いてきた。
「私も、私だ」
「僕は、ここにいる」
「誰にも、奪わせない」
それは、世界中の“抵抗者”たちの声だった。
彼らは、夢の中で繋がり始めていた。
魂の輪郭を守る者たちが、互いに気配を感じ取り、共鳴し始めていた。
翌朝、田中は目を覚ました。胸の奥に、確かな“手応え”があった。
「俺たちは、ひとりじゃない。魂の輪郭は、繋がることもできる」
石川もまた、同じ夜に目を覚ました。
彼女は、田中に電話をかけて言った。
「始めましょう。彼らに対抗するための、“個”のネットワークを」
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