第19話 事業化への第一歩、そして俺たちの未来




 皆で今後の方向性について話し合った。

 この油を、自分たちの燃料として使うだけではもったいない。

 油を使って事業化を考えるべきだと、皆の意見は一致した。


「主任、この油でオイルランプを作れませんか?」


 幸が、屋敷で夜に使ったオイルランプを指差しながら、手っ取り早くオイルランプ用の油として製油事業化を提案してきた。

 その発想に、皆が納得する。


(幸、さすがだ! 俺の優秀な部下にして、未来のハーレム要員!)


 しかし、近藤が事業化について懸念事項を口にした。


「市場が小さすぎるとは思いませんか、嶺様?」


 近藤は、慎重な表情で続けた。


「東京や大阪ならば、どんどん洋風文化が広がってきているので需要はあるでしょうが、せめて名古屋か最低でも駿府(静岡市)くらいの需要がないと商売にならないのでは……」


 近藤の懸念はもっともだ。

 たしかに、この時代にいきなり大々的に売り出すのは難しいだろう。

 だが、俺にはすでに次の一手があった。


「需要がなければ、作ればいい」


 俺は、このあたりでオイルランプを作れないかと皆に問いかけた。

 その言葉に、桜の目が再びキラリと光った。

 彼女の頭の中にも、すでに新たなビジネスの青写真が描かれているのだろう。


 

 まずは相良で採取した油の成分分析が必要だ。

 これはEV車に積んである機材だけで出来そうなので、幸に頼むことにした。


 その間、俺はCADを使って簡単なオイルランプの図面を作り始めた。

 CADのデモ用に簡単な図面はすでにいくつも用意されているので、それを使って少しいじるだけで図面ができた。


 それを印刷してみんなに見せる。

 誰も専門家ではないので判断に迷う中、俺は昨日世話になった芝島ご夫婦のことを思い出した。

 彼らなら、材料や設備があればできるのではないか。


「この図面があれば、昨日お世話になった芝島ご夫婦なら、もしかしたら作れるかもしれません」


 俺の言葉に、皆の顔に再び希望が宿った。

 彼らの表情には、俺に対する絶対的な信頼が滲み出ている。


(この信頼、裏切るわけにはいかない! それに、この調子で信頼を勝ち取っていけば、桜も幸も、俺にメロメロになるはずだ!)


 様々な準備をした後、今度は桜をはじめ、全員で相良に出向くことになった。

 希望に満ちた新たな一歩を踏み出すために。

 相良の寂れた町が、俺たちの手によって、再び輝きを取り戻す日が来ることを願いながら、一行は旅立った。


(俺の童貞魔法が、この明冶の世に、光をもたらす! そして、あわよくば、俺の童貞も卒業したい! いや、それはこの際どうでもいいか!いや、やっぱりどうでもよくない!)


 俺たちの未来は、この相良油田にかかっているのだ!

 新たな旅立ちと相良への道程、そして俺たちの文明開化!


 数日後、相良への出発の日が訪れた。

 朝靄が立ち込める中、屋敷の門前には数台の人力車が待機していた。

 女性陣は鮮やかな着物に身を包み、桜を先頭に、朝露に濡れた庭石を踏みしめながら人力車に乗り込んだ。


 人力車は、まるで優雅な船のように静かに動き出し、焼津の港を目指して進んでいく。

 道中、時折すれ違う村人たちは、珍しそうに一行を見送っていた。

 彼女たちの顔には、不安よりも、新たな挑戦への期待と決意が満ち溢れていた。


(おっ、幸も桜も気合い入ってんな! 俺の『ハーレム開拓』も順調に進みそうだぜ!)


 一方、男性陣は女性たちより一時間早く屋敷を出発していた。

 夜明け前の薄暗い道を、黙々と歩みを進める。

 彼らの足元からは土埃が舞い上がり、朝日が昇り始めると、その背中を朱色に染め上げた。


 重い資料など荷物を分担して持ち、額には汗が滲む。

 しかし、彼らの表情には一切の疲労の色は見えない。

 皆、真剣な眼差しで前を見据え、一歩一歩、確実に目的地へと近づいていった。


(男たちの背中には、未来への希望が詰まっている! そして、俺の背中には、童貞魔法使いとしての使命がずっしりとのしかかっている……!)


 焼津の港に到着した時、女性陣を乗せた人力車と男性陣はほぼ同時に到着した。

 港には、すでに一行のために用意された船が停泊していた。

 帆はまだ畳まれており、静かに波に揺られている。


 男性陣は慣れた手つきで荷物を船に運び込み、女性陣もまた、人力車を降りて船へと乗り込んだ。


 船はゆっくりと港を離れ、相良の港を目指して駿河湾を進んでいく。

 広がる大海原を前に、誰もが皆、それぞれの思いを胸に抱いていた。

 桜は、幸から聞いたこの地で見た油田の夢を、俺は、未来への可能性を秘めたオイルランプの灯を、そして幸は、未知なる技術への探究心を。


 水平線の彼方に広がる新たな世界に、彼らの心は躍っていた。

(俺の童貞魔法が、今、大航海時代の幕を開ける……のか? いや、童貞は関係ねぇだろ! でも、この壮大さは、まさに俺の魔法のようだ!)


 1時間もかからずに船旅を終えて、一行はついに相良の港に到着した。

 港は焼津とは異なり、どこか寂れた雰囲気が漂っていたが、それがかえって彼らの闘志を燃え上がらせた。


 船を降りた一行は、休む間もなく、目指す相良陣屋へと歩き出した。

 かつてこの地の行政を司っていた陣屋は、明治政府によって焼津に一括管理されるようになって十年近くが経ち、その威容はだいぶ傷んではいたが、それでもなお、その存在感は失われていなかった。


 長い年月と風雨にさらされた壁は剥がれ落ち、庭は雑草に覆われていたが、それでも十分に使えないことはない。

 彼らはこの陣屋を拠点とし、相良の地で新たな事業を始めることに、確かな手応えを感じていた。


(ここを俺たちの秘密基地にするんだ!未来の技術と、俺の童貞魔法の融合で、この寂れた町を、世界に冠たる石油王国にしてやるぜ!)


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