眉村卓風の掌編・『永劫回帰』

夢美瑠瑠

第1話

 

 午後の、サンキャッチャーがキラキラと傾きかけた陽光を乱反射している喫茶店。


 作家稼業も十年目に入っているおれは、ひとりでSF小説を書いていた。


 さっきから向かいの席にいる若い女は、美貌だがマスクをしていて、瀟洒なスカーフを巻いている。


 流行の、大所帯のボーカルグループの制服をほうふつさせるチェック柄で統一感を出していた。  北川悠理というの、おれはファンなのだが、その娘に似ていなくもなかった。


 「コーヒーを飲むと脳味噌がむくむくと働き出す」と、友人のTという作家はよくブラックをがぶ飲みしていたなあ、とか雑念がわく。

 

 雑念と戦いながら、未来世界のエイリアンと地球防衛軍のロボットの死闘、迫撃戦の描写をしていた。


 「あの…」

 ふと目を上げると、向かいの席にいた女が、すぐそばでほほ笑んでいた。


 機嫌のいい猫のように目を細めているが、やはりマスクのせいでイメージはあいまいだ。


 「Mーーーさんですか? ファンなんです。 『ねらわれた学園』とかおもしろいですよね」


 手にサイン帳とペンを持っている。


 「サインですか? かまわんよ。」そう言いながらおれも相好を崩していた。

 若いファンは大事だ。


 「女子大生? スタイルいいね~ 文学部とかですか?」


 シグネチャーをカリグラフィーしながら尋ねた。


 「日本文学専攻です。 よくわかりますね。」女は目を丸くした。


 …知的な瞳の彼女といろいろ会話を楽しんでいるうちに、自分でも童話や小説を書いていることとか、いろいろなことが分かった。


 「美貌」と思ったのは、眉の形がよくて、目も切れ長だからだが、至近では彫りも深く見えた。 相変わらずマスクはしたままだ。


 「K大学の日本文学科でね、日本のSFを専攻中なんです。 だから先生に出会えたのはドンピシャ。 『盲亀の浮木』ってとこですね。」


「あはは。 古めかしいたとえだね」





 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眉村卓風の掌編・『永劫回帰』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る