第3話 交渉

「それでは紹介しよう。古代遺跡の専門家であり、国の癌であり、世界が自分を中心に回ってると思ってるゴミだ」


「そんな奴紹介して欲しくないんですけど」


「全くである。一体全体誰の事を言っているのだ?」


 あの後、ボロ屋(名前はルメーン・アルカナというらしい)に招待された俺は意外にも小綺麗にされている客間に通された。悲しい事に席はアリアが対面で隣がデヴィンである。臭い。


「どうぞ粗茶です」


 そう言って、いつの間にか現れた顔面全てを髪で隠したメイドさんが俺とアリアにお茶を出してくれた。


「メリィ、我輩のお茶はどこである?」


「デヴィン様、私達は貧乏なんですよ。削れる食費は削らなければなりません」


「それで真っ先に削られるの我輩!?」


 そんなメイドに舐められてるデヴィンだが、ムカついたのか俺のお茶にハナクソを入れやがった。それに気付いたメイドがデヴィンの口に無理矢理湯呑みを突っ込んだ。


「どうしたんですかデヴィン様?飲みたかったお茶ですよ」


「あつ、あがっ、ぐぼぼぼっ!?」


「それでゴミ虫、彼ショータを見て何か分かるか?」


「いまッ!?それどこ、アツ、ろじゃ、ぐぼぼぼ」


 なるほどな、お茶には湯気が出ていたし。デヴィンはきっと猫舌なのだろう。ゆっくり飲み終わるまで待っといてあげよう。


「そういえばさ、俺こいつに処遇決められるの?嫌なんだけど」


「安心しろ、あくまで意見を聞くだけだ。処遇は私が決める」


「あー、そゆこと」


 なるほど。あくまで意見、つまり俺を品定めする為の専門家の情報が欲しいだけか。よかったー、モルモットになると思ったぜ。

 さて、不安材料も無くなったし俺のこれからの行動について考えるか。勿論、目的は帰還だ。異世界ものだと元の世界に戻りたく無いやつは多いが、俺はそうは思わない。つーか、普通に家族が心配するし。

 その為にはまず俺が異世界に持ってきた数々の道具を材料にし交渉する必要があるな。おそらく、基本的文明レベルは俺の世界の方が高い。つまり、知識チートができる!さて、デヴィンのお茶も飲み終わったし話を進めるか。ていうか顔近づけるな臭い。


「ふむふむふむふむ………、ふは、フハハハハ!!!僥倖である!僥倖である!分かったぞ貴様!アリアよ、よく連れてきてくれた!低界の地テラ・インフェルナからの原住民を!」


「違う」


「なぬ?」


「コホン、どうも別の世界から来ました。石黒翔太です」


「は?はぁぁぁぁ!!!」



 ◆異世界アイテム色々紹介中〜



「これはハンドグリップって言って握力、つまり握る力を鍛える道具だ」


「ほうほうほう、実に精巧な作りだ。アリアよ、試しに握ってみよ」


 そう言ってデヴィンが127kgのハンドグリップをアリアに手渡し──


 ──カシャン


「固くていいな」


 もちろん青白いエフェクトがないので素の力だと思われる。………化け物?


「流石ゴリアである」


 ──ゴン!


 デヴィンの頭に皮下血腫が出来た。筋トレしている人間なら分かると思う、握力127kgがどれだけ凄いかを。マジで人間?俺頑張って鍛えてるけど50行くか行かないかよ。えっ、本当に人間?ていうかマジで女?


「しかし、まさかここまで超常的存在だとは。フハハハハ、やはり古代文明は計り知れない技術がある!ああ知りたい!感じたい!理解したい!」


「だから近いって」


 デヴィンの紅の瞳が俺のつま先からてっぺんまで全てを見定める。


「ほうほうほう、見た限りでは我輩らと殆ど変わらぬ。眼球の数、口の数、鼻の数、耳の数、なぜ異界の者がこれ程、同じ特徴を持つのか?もしや我輩らは共通の先祖を持ってるかも知れない。貴様が偶然にも転移したのであれば古代文明には異文化交流があったのか?いや、今までの文献には全く無かった。ならば隠されていた?分からん!分から無いが最高である!これ程の楽しい気分は久方ぶりである!フハハハハハ!!!」


 マジかよ、異世界系ってそこら辺あやふやだろ。設定普通そこまで作らんて。

 けれど、思ったよりいい反応だ。デヴィンの反応から異世界人だと完全に認められたと言ってもいい。なら、こっからは俺のターン!異世界の知識を手札に交渉を仕掛ける。

 俺は興奮するデヴィンに異世界アイテムで最後まで出さなかった物を顔面に押し付ける。


「ッ!!急に何をすッ!?」


 デヴィンの目が見開かれ驚き固まる。そう、俺が出したのは世界史の教科書だ。書物はこの時のために最後まで紹介しなかった。考古学者なら本、しかも歴史書なら一番に価値を感じるだろ。


「これは異世界の歴史が詰まった書物だ!デヴィン!お前ならこの価値が分かるよな」


 この俺の言葉にデヴィンは目を細め、俺が何が言いたいのか理解したようだった。


「ほう、我輩に対して大した度胸だ。何が望みだ?」


「話が早いな。俺の要望は元の世界への帰還協力と生活基盤を整える為の協力。悪くないだろ」


「断る。たかだか歴史書一冊で安く見られた物だ。貴様が隠してる全ての物を差し出せ」


「嫌だね。これは俺が生きて帰る為に必要な力だ。それに俺は君にこだわる理由は無い。アリア、俺に協力してくれないか?異世界人だと証明は出来た今、俺に恩を売るのは悪くないと思うんだ」


 そもそも最初からデヴィンに俺は期待してない。俺にとって彼は俺の価値を証明してくれた時点で役割は終わってる。あとはアリアを起点とし、帰還の為に必要な人物に交渉を持ちかければいい。


「すまないショータ。お前の目的を達成するにはそこのゴミ虫が必要不可欠だ」


 だが、彼女の反応は俺の予想とは違った。どういうことだ?


「え?いや、デヴィンが必要不可欠って」


「いや、それがだな」


 アリアがどうも言いにくそうな表情をする。そして、デヴィンが高らかに宣言する。


「フハハハハ!!現在生きている考古学者は我輩1人なのである!」


「………需要ないんだな可哀想に」


「グハッ!?」


 俺の言葉に傷付いたデヴィンが倒れる。一体全体何が言いたいのだろうか?古代文明の文字読むためにはコイツが必要不可欠とかなのだろうか?けど、言語に関して突っ込むと日本語喋ってるこいつらなんなのって感じなんだが……。


「………やはり貴様の世界の古代文明は今より技術力が無いな」


「えー、どういうこと?」


 立ち直りの早いデヴィンが当たり前のことを言ってきた。いや、この世界では違うか、古代文明が滅んだ後の世界だしな。


「この世界で、考古学者というのは古の歴史を解明する者という訳では無い。かつての古代技術を現世に蘇らせようとする者のことを言うのである」


「──そういうことか」


 俺は自身の認識の違いによる勘違いが分かった。俺にとって考古学者は昔の歴史を解明するという認識だが、異世界だとロストテクノロジーを解明する科学者的存在なのだ。つまり、デヴィンしか考古学者がいないという発言は………。


「気が付いたか、貴様に分かりやすく言うには技術……いや科学か、この世界はかつて失われた科学を嫌悪する世界である」


 ああ、1人しかいない発言から察しがつく。つまりこの世界は科学技術は迫害の対象なのだ。そして古代文明は科学文明が発展した世界だと確定、俺の転移の原因は魔法などの超常現象ではなくゴリゴリSFサイエンスだ。


「………アリアほんとか?」


 俺はほぼほぼ確信していながらそう聞いた。


「ああ、は現在、古代技術の研究を禁止している」


 科学知識に需要がある所か禁止レベルか。ある意味、偏見がないアリアと………デヴィンに出会えたのは運が良いと言えるが、俺が家に帰るには必ずデヴィンと協力しなければならないのが確定した。


「であるなら分かるであろう。貴様の目的を達成するには我輩が必要不可欠であると。ならば貴様の全てを我輩に差し出すがよい!」


「だが断る!俺はちゃんと聞いてた。お前はこの世界、世界と大きく物事を言ったがアリアはと限定的に言った。何か隠してるだろ。信用出来ない」


「隠してなどいない。この世界にはアルタリア王国しか存在してないだけである。信用できないのであれば調べ尽くすがよい。結果は変わらん」


「ッ、こいつ。仮に真実だとして俺達の関係は対等であるべきだ」


「フハハハハ!笑わせる。貴様の目的には我輩が必要不可欠である自覚がまだ無いのか?」


「その態度は恨みを買われる。お前はそれでいいのか?」


「構わん。我輩は死なぬ。そして貴様が裏切ろうが殺しにこようが我輩には全て分かるのである」


「小学生みたいな強がりはよせ。大人なら外面的でも良好な関係をするべきだ」


「事実である。それに良好な関係だと?笑わせる我輩を最初、低く見積もったのは貴──」


 ──ボン!!!


 アリアが机を一発で粉微塵にぶっ壊した。


「お前達、喧嘩はやめろ」


「「あ、はい」」


 その後アリアは壊した机を見てショックを受けてた。多分、完全に壊すつもりは無かったと思われる。

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テラ・インフェルナ 渡辺 @kinzyouryuiti

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