第21話 文化祭当日
-文化祭当日-
結局、僕は大河原壮平くんと高崎沙也加さんのカップル、そして城ケ崎麗華さんと一緒に文化祭の出店を見て廻ることになった。
莉子には何度か、『莉子も一緒に廻らない?』とか、『適当なところで切り上げるから、その後一緒に見て廻ろうよ』とLINEでメッセージを送ったけど返信がない・・・。
「あっ、亮くん!レインボーのわたあめだって!!一緒に食べようよ~!!」
城ケ崎さんはずっとはしゃいでいるように見える。だけど僕の気は晴れない。
莉子の言葉がずっと引っかかっているからだ。
『城ケ崎さんが僕のことを好き』
実は気づいてなかったわけじゃない。
そのことはずっと考えないようにしていただけだ。
最初は勘違いしてたら恥ずかしいと躊躇する気持ちからだったけど、今はちょっと違う。
それを認めてしまうと、莉子との関係が変わってしまうかもしれない。
それが怖かったから、ずっと見ないフリをして、からかわれてるだけだって自分に言い聞かせていた。
そういった意味では、莉子が言ったとおり、僕はかなりずるくて意地悪なのかもしれない。
「亮くん、このわたあめの写真撮っていい?」
「ああ、もちろんいいよ。」
そう答えると、城ケ崎さんはニヘッと笑い、わたあめを僕に渡すとスマホを取り出した。
「じゃあ、一緒に撮ろ!、3、2、1、はい!」
城ケ崎さんは唐突に僕に頬を寄せると、そのまま手を伸ばしてスマホで自撮りした。
「あ~っ、見て見て!ちょっと亮くんが変顔になってる~。かわい~!!」
スマホを見せてもらうと満面の笑みの城ケ崎さんの横で、わたあめをもって少し戸惑った顔の僕が写っていた。
城ケ崎さんは出来栄えに満足したのか、その写真をじっと見ながらニコニコ笑っている。
こうやって見ると、城ケ崎さんは間違いなくかわいい。
こんなかわいい子が僕のことを好きだって言ってくれるなんて、これからの人生で二度とないかもしれない。だけど・・・。
「あっ、そうだ!この写真、亮くんにも送ってあげるよ!LINEのID教えてよ!」
「ああ、うん・・・。」
ポケットからスマホを取り出すと、メッセージの着信通知が届いていた。
『今日は図書室で勉強してるから・・・』
通知画面でそこまで読むと、トークルームは開かないままIDを表示して、城ケ崎さんに見せた。
「やった!じゃあ、送るね!」
通知音がした後、写真と、『よろしくね』というメッセージと、それからハート型のスタンプが続けて届いた。
そういえば、莉子とのメッセージはいつもテキストだけだったな。
「じゃあ、俺たちはちょっと二人で廻りたいから・・・。亮は城ケ崎さんと廻ったら?」
「うん、麗華のこと、よろしくね~。」
まだ一緒に廻り始めてから30分も経ってないのに、大河原くんと高崎さんはニヤニヤしながら人ごみの中に消えて行ってしまった。
えっ?困る・・・と戸惑っている僕を尻目に、城ケ崎さんも笑顔で「またね~!」なんて言いながら小さく手を振っている。
「じゃあ、亮くん!どこ行こっか?射的とか亮くんが好きそうなゲームを見て廻って、その後、私の友達のクラスでお化け屋敷やってるからそこに行って、それから最後は家庭科部の後輩が部室でカフェやってるから、そこに行かない?」
「あっ、うん・・・。」
「やった!じゃあ混んできてはぐれちゃいそうだから手をつなぐね」
城ケ崎さんは僕の返事を待たず、僕の右手を取ると、そのまま強く握って来た。
えっ!!莉子とも手をつないだことないのに・・・。
そう思いながら校舎の図書室のあたりを見上げると、少しカーテンが動いたのが見えた・・・。
◇◇
「いや~、お化け屋敷怖かったね~!あの完成度はプロ顔負けだよ。亮くん、怖くなかった?」
家庭科部の後輩が運営しているというカフェで向かいの席に座った城ケ崎さんは、頬をほんのり染めてはにかみながら、さっき一緒に行ったお化け屋敷のことを楽しそうに語っている。
でも、口では怖かったと言いながら、まったく怖がっている様子はなかった。
「うん・・・ちょっと色々驚いちゃった・・・。」
実は、お化け屋敷よりも、城ケ崎さんがキャーキャー言いながら腕を絡めてきたり、暗闇でギュッと身体を寄せてきたりした方が驚いた。正直、お化けのことはあんまり目に入ってなかったな・・・。
「そういえば、亮くん。チーズケーキ好きなんだよね。」
城ケ崎さんは、頬杖をついてニコニコしながら僕がチーズケーキを食べる様子を満足そうに見ている。
「ああ、うん。よくご存じで・・・。」
「あと、オムライスとかナポリタンも好きだよね。喫茶店が好きなのかな?」
えっ?そんなこと誰にも話したことない。驚いて見つめ返すと、彼女はヘニャッと表情を崩した。
「亮くんのことは何でも知ってるんだよ。あと・・・ほら、さっきからずっと亮くんの右側歩いてたの気づいた?亮くん、左利きだから右側に立って欲しい人だし。」
「確かにそうだけど・・・。えっ?なんでわかるの?」
いつも一緒に歩いてる莉子だってそんなの気づいてない・・・。
一体どういうこと?
「なんでなのかはひ~み~つ。だけど、亮くんが控えめで奥手なのは驚いたな。積極的で押しの強い亮くんしか知らなかったから・・・。」
「積極的で押しの強い・・・って、僕はずっとこんな感じだけど・・・。」
戸惑っていると、彼女は何がおかしかったのかクスクスと笑い出した。
「でも、今の亮くんも好きだよ。優しいし、私の話をニコニコしながらよく聞いてくれて・・・。」
「ああ、うん。城ケ崎さんの話が面白いから・・・。」
意外だったけど、城ケ崎さんと一緒に過ごすのはすごく楽しい。てっきり一方的にからかわれたりするのかと思いきやそんなことはまったくなく、しかも噂話とか悪口とか僕が不愉快になるような話題は決して選ばない。僕が好きなゲームとかアニメとかにも造詣が深く、ほのぼのした雰囲気でそういった会話をしていると、気持ちがほんわかしてきてついつい笑顔になってしまう。
莉子も、当意即妙にポンポンとシュールな冗談が飛び出して面白いけど、それとは違う意味で会話が楽しい。
誤解して敬遠してたけど、実は案外気が合うのかも・・・。
「フフフッ、じ~っ・・・・」
微笑んだ城ケ崎さんがじっと僕を見つめて来る。しかも、「じ~っ」と自分で効果音まで付けている。
「・・・どうしたの?」
「いや、早く関係を進めるのも嫌じゃなかったけどさ・・・こうやってゆっくり距離を縮めるのも趣深くていいなって思ってさ・・・。」
「えっ・・・?」
それってどういう意味?という言葉はすんでのところで飲み込んだ。
彼女は余裕な笑顔だけど、僕の顔はおそらく真っ赤になってる・・・。
きっと、昨日莉子が変なこと言ったから意識し過ぎちゃってるんだ。軽く頭を振って邪念を追い払う。
「そういえば、花火の打上げ、6時半からなんだって!早く行って場所取りしとこうよ!」
「えっ?まだ2時間くらいあるよ。」
「う~ん・・・そうだけどさ・・・亮くんと特等席で花火を見たいから。ベンチで座って話してたらすぐだよ!!」
あ~、確かにそれも悪くないかも。少し足も疲れてるし・・・。そう言おうとした瞬間だった。
「知ってる?花火の下で告白したら、ずっと一緒にいられるって伝説。どうせだったらちゃんとした場所がいいもんね。」
口を開けたまま次の言葉が出て来ない。そんな僕を見ておかしかったのか、城ケ崎さんはフフフッと優しく微笑んでから、「じゃ、行こっか」と甘い声でつぶやいた。
◇
「ちょっと日が暮れて来たね~。夕焼けキレイだね~。」
「ああ、うん。そうだね。」
僕と城ケ崎さんは銀杏の木の下のベンチをいち早く確保して花火を待っていた。
少しずつあたりが暗くなってきて、校舎に明かりも灯り始め、少し幻想的な雰囲気になって来た。
「・・・ありがとね。亮くん。」
隣に座った城ケ崎さんがポツリとつぶやいた。口元は微笑んでいるけど、目元は少し感傷的になっているようにも見える。
「正直・・・今回は何でこんなにうまくいかないんだろうって焦ってた。全然話しかけてくれないし、映画も一人で行っちゃうし・・・いつの間にか夏休みになって、そのまま放って置かれて、何の思い出も作れなくて・・・。」
いったい何の話をしてるんだろう・・・?でも、表情はすごく真剣だ。
「・・・でも、こんなロマンチックな感じが二人の始まりなんだったら、待った甲斐があったなって・・・。フフッ。」
そう言って、城ケ崎さんは僕の肩に頭をのせた。これは・・・間違いない。この後、僕が告白すればOKしてもらえる流れ。むしろ告白待ちされている。
ドキドキしながらも、肩にのせられた頭を拒否することもできず、しばし硬直していると校舎の一室にまた明かりが灯もった様子が見えた。
あそこはちょうど図書室・・・あっ!!しまった!!
「・・・城ケ崎さん、ごめん!図書室に忘れものした。」
「えっ?それ、今じゃなきゃダメなの?」
勢いよく立ち上がった僕を、少し非難のこもった目で見上げて来る。しかも僕の制服の裾をつかんでいる。
「うん・・・ごめん。これは絶対に花火の前に解決しておかなきゃいけないんだ。」
強い決意を込めて伝えると、城ケ崎さんは少しひるみ、裾を掴んだ手も緩んだ。
「ごめん!後でまた戻ってくるから!!」
僕は急いで駆け出した。図書室へ向かって・・・。
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