第1話 ラスボス倒したらクソゲー始まった

「世界を終わらせたいか?」


……世界を終わらせたい?

いや、こっちは終わらせたいんだが。



俺はゆっくりと剣を女狐にかざした。



「バカ言ってるんじゃねぇよ。お前がこの世界を終わらせてないのだろうが!」



女狐の眼は怪しく光る。

ゆっくりと立ち上がり、俺の目の前に歩み寄り立ち止まる。



切られてもおかしくない範囲に、動揺もせずに来るとはな……。



「…もういいつかれたのじゃ」



俺は目を点として女狐を眺めた。

それは俺達の言葉で、お前の言葉じゃない。



ふざけてんのか……?



張り詰めた空気感で俺が剣を動かした時だった。



「なんで名前…空白で埋めてるの?」



不意にルノーはそう言った。

女狐を見つめたまま固まっていた。



確かに女狐…名前が表示されていない。



「…悲しいのう。貴様らはずっと繰り返されてきた、この世界の異常さに付き合わされてる。おかしいとは思わないのか?」



“おかしい”だと……?



俺達がおかしいならお前は……なんだ?

そんな疑問が脳内を駆けた。



すると握っていた剣が、いつの間にか鞘に収まっていた。



「な、何をした……!」

「何もしておらぬ。少しばかり鞘に返しただけじゃ、なにか不満か?」



上からの言い草、小さい体に割に合わない。

正直、ムカつくが堪える。



「力の差という奴じゃな。そうじゃ、転移結晶とやらを使ってみるがよい」

「は? なんでだよ」

「見せたいのがあるのじゃ」



俺は不本意ながら言われるままに……

転移結晶をオブジェクト化した。



天にかざした……淡く光を放つ。

だが、システムは反応しなかった。



俺は冷や汗が滲み出る。

この至近距離で一体何をしたんだ……!?



「転移は通常使える。じゃが、ワシが仕向けたのではない」



何が言いたいんだ?

何をしたいんだ?



分からない、だから俺は―――。



「氷華!?」



ルノーの叫びと同時に、俺は剣を抜き放ち女狐を切り裂いた。ゆっくりと倒れる……。



ふん、死んで当然――――。



「いきなり斬りかかるとは、少し場が違うのではないかのう?」



―――――!!?



俺は背後にいる女狐に向かって、剣を振り抜いた。…どっから蘇ったんだ!?



当たりもしない、ただふわふわと床に着地。



「既にシステムは、お主らの理解を超えてるだけの話……」

「何を言ってんだよさっきから!」

「あぁ、ログアウトにも気づかなかった感じじゃな?」



俺は生唾を呑んだ……

理解できないが震えた指でウィンドを開く。

確かに、ログアウトが消えていた。



……つまりこれ普通のゲームじゃない。



さっきの女狐の蘇り、そしてシステムの異物……それが意味するログアウト不可能。



笑わせに来てるな、嫌になるこのクソゲー様はよ!!



「500回もクリア出来ずに、ワシに会いに来る一途さは呆れてるとこじゃがな」

「そいつは、褒めてんのか?」

「皮肉じゃよ」

「つれねぇな……さすが女帝様だな」



張り詰めた空気感から…

少しばかり緊張感が緩んだ。



“500回もクリア出来ずに”か……。



「決して無駄じゃなかったんだけどな?」



女狐は少し目を開く。何に対してかは分からないが……これだけは言えることがある。



「無駄に死んでなんかなかったぜ。アンタが思うような”俺”じゃない……」



女狐の雰囲気は一変した。

身体からバチバチと赤い閃光が弾ける。



「そうじゃないと困るんじゃよ? 想定を超える……それが永徳なのじゃ」



フロア全体が小刻みに揺れてる。

硝子が割れ、外壁が崩れ始めた。



「氷華!」



ルノーは何かを言いたげな顔をしてる。

ウィンドウには、多くの数値が表示されているのが見えた。俺は理解した。



なるほど……ようやくか。



「ルノー、悪いが……あとは頼んでいいか?」

「え? それはどういう意味?」

「終われない始まりが―――起きる」

「それって……!?」

「だから、俺はここまでだ。次で終止符を打てるはずだ」



俺はルノーに特殊な転移結晶を、無理やり渡した。



「氷華!? ちょっと話と違うよ!!」

「わりぃな、最後は――俺で終わりたい」

「氷華――――!!」



俺は天に昇る光の道筋を見上げた。



あとは次の俺がどう導くか……だな。



「貴様だけでも、殺してやる!」

「あぁ、最初からそのつもりだぜ?」

「小癪なぁ!!」



女狐の皮膚に亀裂が入る。その姿を俺は見上げて、ただ静かに笑みを浮かべた。



500回も負けても、やっぱ認めるのは嫌だな。



「次こそこのクソゲーを攻略してやる」

「出来るのかァ? デキルモノナノカァァァァ!! サセヌ! サセヌゾォォォ――!!」



――空間が乱れ始めた。



俺は静かに目を閉じた。死を悟る。



再び目を開くと、一瞬だけ時間の流れが止まった。……ある少女が一人泣いていた。



“また失敗しちゃった…ごめん”



――その声に俺は胸が締め付けられた。



初めて見るはずなのに…

どうしてか俺は――君の声だけは、忘れちゃいけない気がした。



―――次の俺が、きっと君を救う。



その子の名を口にした瞬間――

歪んだ空間はノイズを走らせ戻る。



俺は女狐に腹部を貫かれた。

激痛を伴い、やがてゆっくりと意識が遠のいていく――――。



次の俺、任せた……ぞ。



ビリビリと電撃が画面を横切る――

空間に亀裂が入り砕け散った。




―――システムログ


NPC死亡者…不明。


メインクエストに影響…あり。


システムトラブル…不回避…。


外部からのアクセス集中…。


………


……



該当のデータが消去されました。


……



――再起動します。



“フェアリーナイトオンライン”



―――501回目の世界へようこそ―――

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