戯曲 再会
春野 セイ
「再会」
場所 夜の公園。駅でばったり出会った二人。(タクミが購入した)缶コーヒーを持って近くの公園へ行きベンチに座る。男が缶コーヒーを彼女に渡すが、エリカは受け取らない。困ったタクミは二つ持ったまま正面を向く。
登場人物
タクミ 22歳
エリカ 22歳
エリカ 久しぶりだね。
タクミ あ、ああ。うん……。
エリカ コーヒーありがとう。その、ごめんね。カフェインは午後3時以降に飲んだら眠れなくなっちゃうから、飲んじゃいけないの。
タクミ あ、そうなんだ。
エリカ どうしたの? あんまりしゃべらないね。
タクミ 緊張しているんだ。久しぶりだから。
エリカ そ。
タクミ、缶コーヒーを開けて飲む。コーヒーは残しておく。
タクミ その……、きれいになったね。
エリカ え。
タクミ 最初、分かんなかった。
エリカ タクミくんは変わってないね。高校生の時のまんま。
タクミ そっか?
エリカ うん。だから、すぐに分かった。
タクミ ふう……。(緊張をほぐすように息を吐く)。
エリカ フフ。
間。
エリカ 今、わたし大学行ってるの。
タクミ あ、俺も。浪人してたから、22歳だけど二回生。
エリカ あ、わたしも。
タクミ ハハ、おんなじだ。
エリカ おんなじ……。
間。
エリカ タクミくんは別れた理由が知りたいんだよね。
タクミ えええっ? いきなり?
エリカ いきなりって、だって呼び止められて公園に誘われたらそれしか理由ないじゃん。
タクミ あ、うん。まあ、うん、そうだね。じゃあ、聞くけど、どうしてあの時俺たち、高校二年の途中で別れたのかな。
エリカ ……タクミくん、サークル入ってる?
タクミ へ? サークル? 入ってないけど。
エリカ わたし入ってる
タクミ 何のサークル?
エリカ 内緒。
タクミ ……。
エリカ バイトとかしてる?
タクミ してないけど……。
エリカ じゃあ、普段何をしているの?
タクミ 何もしてないけど……。
エリカ ……さっきさ、わたしのこときれいになったねって、言ったよね。
タクミ うん(ドキッとしたように)。
エリカ どこがきれいだと思った?
タクミ え? えっと、髪型が可愛いだろ、それと、化粧が綺麗で、後、スカートがよく似合っている。
エリカ あの頃、わたしのことどれくらい好きだった?
タクミ えええっ。そんな事、今いきなり言われてもっ。
エリカ ……。わたしのこと、好きじゃなかったのね? タクミくん、何も知らないくせに。もういいっ。
エリカ突然怒り出し、立ち上がる。タクミ、慌てて呼び止める。
タクミ ごめんっ。俺、あれから女の子と付き合ったこともなくて、どうしていいか正直分からないんだ。だから、ごめんっ。嫌な思いをさせてしまったんなら謝るよ。
エリカ、タクミを睨んでからベンチに座る。
エリカ ならいいけど……。
タクミ ほんと、ごめんね。
エリカ もういいって。
エリカが笑い出す。その笑い声がじょじょにお腹を抱えるほど大きくなっていく。タクミびっくりする。
エリカ (笑い終えて悲しそうに)あああ……。タクミくんと別れて失敗だった。
タクミ え?
エリカ ねえ(エリカ、スカートのポケットから十円玉を取り出す)。この十円玉を投げて、10円の文字が描かれてある方が裏、平等院鳳凰堂と唐草模様が描かれている方が表として、もし表が出たらわたしとキスしようか。
タクミ ちょっと待ってっ。
エリカ ん?
タクミ おかしいことばかりで混乱しているんだけど、キスはしないよ。
エリカ おかしいことって?
タクミ だからキスはしないよ。
エリカ おかしいことって何?
タクミ まず、俺と君が別れた理由についてだけど……、ああ、もういいよ。知りたくなくなってきた。
エリカ 知りたくないの?
タクミ 知らなくていい。
エリカ どうして?
タクミ どうしてって……。それが分からないようじゃ、君はおかしい。
エリカ ……。じゃあ。
エリカ、バッグの中からポケットサイズのおみくじ筒を取り出す。
エリカ じゃあ、おみくじを引くから、大吉が出たら……。
タクミ ストップ。
エリカ ……。
タクミ だんだん分かってきた。
エリカ 何が?
タクミ 君がそんな女の子だったなんて知らなかった。
エリカ 何か誤解してない?
タクミ 俺の予想を話してもいい?
エリカ どうぞ。
タクミ ああ、やっぱりやめておくよ。
エリカおみくじをかしゃかしゃさせる。何が出るか分からない。おみくじを引く。出たものを見てアドリブで台詞を言う。何が出てもキスにつなげる。
エリカ 見て。
タクミ 大凶(ホッとしている)。
エリカ キスしようか。
タクミ あのね! もう帰るよ!
エリカ 待ってっ。
エリカ、カバンをごそごそして中から紙に書かれた用紙を取り出す。はい、といいえ、が書かれ、赤い鳥居が描かれている。それをタクミに見せる。
タクミ それは……。
エリカ あなたと別れる前、こっくりさんに聞いてみたの。そしたら、「た」のつく名前の男子とは別れなさいってお告げがあった。
タクミ まさか、それが理由? 付き合うきっかけも?
エリカ そっちは相性占いだけど……。
タクミ 俺の事、好きじゃなかったの?
エリカ クラスメートで「た」のつく人はあなたしかいなかったの。
タクミ 君はどうかしている。
エリカ、それを聞いて顔を覆って泣きマネをする。
タクミ エリカ……。
エリカ こっくりさんをし過ぎて気づけば、何かに憑りつかれていたみたいなの。
タクミ それは冗談だよね。
エリカ これが冗談を言っているように見えるの? あなたには見えるの?
タクミ いや、俺ってかなり鈍感ならしいから、君の考えている事なんて全くわからないよ。
エリカ あなたと別れた後、ずっと後悔していたの。
タクミ 俺こそ、なんで気づかなかったんだろう。
エリカ 気づかれないように気をつけていたから。
タクミ じゃあ、理由が分かってよかったよ。ありがとう、さようなら。
エリカ 待って、このままじゃわたし永遠に成仏できない。
タクミ はあ?
エリカ あなたとキスしないと天国へ行けないのよ。
タクミ エリカ死んでいるの?
エリカ頷く。タクミぞっとしてベンチの端へ移動する。
エリカ キスしてくれたらいいのよ。
タクミ 嫌だ。
エリカ 怒ってるのね、別れたこと。
タクミ いや、その逆だ。君の方から別れてくれて俺は運がいいと思ってる。
エリカ 助けてくれないの?
タクミ 他の男を探してくれ。
エリカ、カバンの中からスマホを取り出して電話をかけ始める。
タクミ どこへかけているんだ。
エリカ 電話占いよ。ここは3分500円と格安なの。(電話がつながる)あ、もしもし、エリカです。はい、いつものエリカです。今日の悩みは、以前つき合っていた男性と偶然出会ったのですが、彼とつき合うべきですか? そのまま何もせず別れるべきですか? 悩んでいます。教えてください。えっ? つき合うべきですね? やっぱり! ありがとうございます!
タクミ ふざけるなっ。
エリカ ふざけていないわ。キスしてよっ。
エリカ、悲しい顔で泣き出す。タクミ、かわいそうになってエリカの肩に手を伸ばす。
タクミ 泣くなよ。
エリカ だって……。このままじゃ、わたしずっとタクミくんのことを思っているまま、死ぬこともできない。
タクミ 死んでるんだろ?
エリカ 天国へ行きたい……。
タクミ 本当にキスしたら天国へいけるの。
エリカ え?
タクミ目を閉じる。エリカそれを見てキスするのをためらう。
エリカ やっぱりやめる。
タクミ は?
エリカ、タクミの持っている缶コーヒーを指さす。
エリカ それ、もう一回、口付けて飲んでから貸して。
タクミ言われた通り飲み干してエリカに渡す。エリカは幽霊なので触れない。タクミがエリカの口に缶コーヒーの口を近づけるがエリカが避ける。口に近づけては避けるを繰り返すとタクミが怒る。
タクミ どっちなんだっ
エリカ 助けてっ。
タクミ それは俺のセリフだっ。
エリカ ありがとう。もう、十分。タクミくんを好きになってよかった。
タクミ、複雑な心境でいる。
タクミ それはどうも……。
エリカ、ベンチに座ったまま足をぶらぶらさせている。
タクミ それで、天国へいけそう?
エリカ え?
タクミ だから、成仏したいんだろ?
エリカ、バッグの中から占いの本を出す。
エリカ これ、365日の誕生日占いなの。明日は新しい出会いの予感ですって、フフ、楽しみ!
タクミ ……。
暗転
作 成瀬 理仁
戯曲 再会 春野 セイ @harunosei
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