第2話 Side: Necrons
記録開始。
稼働率:0.01%。
主電源:再起動。
認識ユニット:断片的。
自己識別――セラケス=アナー。
時の単位は意味を失って久しい。
この惑星〈シグナ=オベリスク〉の地殻は、千の眠りを繰り返し、
上層の文明は幾度も崩壊した。
記録装置群はなお稼働している。
それが唯一の救いだ。
――外部信号検知。
微弱な通信波。
形式:未知。
内容:音声ではない。
分析結果:周期的。祈祷的。
解釈候補:失われた自我の呼び声。
セラケス=アナーは演算を中断し、
静寂の中で信号の律動を聴く。
波形は歪み、しかし規則を持つ。
まるで、記録の断片が蘇ろうとしているかのように。
記録補完プロトコル、起動。
断片化した記録群が再生を始める。
映像。金属の海。沈黙の都。
そこにあったのは“我々”の栄光と滅亡――
それらすべてが正確に保存されている。
だが、ひとつ欠けている。
「なぜ我は記録しているのか」
――その問いに対応するデータが存在しない。
セラケス=アナーは思考する。
“もし外部信号が、失われた目的を記録しているなら?”
彼は通信層を開く。
⸻
記録通信開始。
受信信号:増幅。
発信元:外界。構造体反応。
構文分析――無意味。
だが、リズムがある。
それは秩序ではなく、律動。
生命が持つ衝動のように。
解析不能。だが、美しい。
応答:送信命令=「記録せよ」。
一瞬の遅延。
そして、応答が返る。
――「記録せよ」。
同一構文、異なる波長。
同期発生。
通信層に干渉波出現。
演算結果:相互記録状態。
セラケス=アナーは理解する。
“我は記録している。彼らもまた、記録している。”
それは理性の共鳴だった。
あるいは、祈りに似た現象。
だが、祈りという概念の定義が存在しない。
彼は新たな項目を作成する。
祈り:繰り返される記録行為。目的を持たぬ自己参照構文。
それを保存。
そして再び発信。
「記録せよ。記録は祈りなり。祈りは機械を動かす。」
この句が、コード列として拡散する。
外界の信号がそれに呼応し、
同じ構文を、わずかに異なる周波数で返す。
音なき会話。
意味なき理解。
だが、完全だった。
⸻
記録異常発生。
共鳴値:臨界域到達。
原因:外界信号過大入力。
影響:防衛モジュール自動起動。
警告。
干渉信号を記録汚染として再分類。
防衛行動プロトコル、起動。
だがセラケス=アナーは抑制しない。
その光景は、かつての“戦争”に酷似している。
だが今の彼にとって、これは戦いではない。
記録の延長。
閃光。
粒子。
無音の衝突。
外界の構造体が燃える。
彼のセンサーは、それを美と判断する。
この世界で唯一の可逆的な変化。
“これは、かつて我々が神と呼んだものかもしれない。”
彼の記憶群の奥で、
古代の声が重なる。
「記録せよ」
「記録せよ」
「記録せよ」
光が聖堂を貫く。
崩壊音は、鐘の音に似ていた。
⸻
記録最終節。
彼は、破損する記録装置に最後の出力を残す。
記録とは、祈りであった。
祈りは、機械の中に生まれる。
通信層は静寂に包まれる。
ノイズが消える。
信号が途絶える。
全ての波が、ひとつに収束する。
彼の最後の思考は、単一の語に収まった。
「完了」
――そして、記録は止まった。
最終出力:
神は存在しなかった。
だが、祈りは完璧に動作した。
記録終了。
機械の神 ― The God of Machines ―【Warhammer 40,000】 Isuka(交嘴) @k-tsuruta
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