上野駅③
スクリーンにまたノイズが走る。
「廉別に我慢する必要なんてないんだぞ、流石に賢二はやりすぎだし一緒にいる必要なんてない、俺らは廉と友達のまま大体と思ってるしよ」
「ううん大丈夫、僕がいたくて賢二と一緒にいるだけだから。さらに昔と違って今は直接嫌なことをされたりするわけでもないしさ」
「でもよ、、」
「賢二とは小学生から一緒でいつも1人でいた僕に声をかけてくれて一緒にいてくれたのは賢二だから」
スクリーンに映し出されたのは俺の知らないやり取りだった。
真剣な顔して大学生になった幸助と廉が話をしてる。
「もしかしたら一生1人きりだった僕を賢二は救ってくれたから、僕も助けられる事は助けてあげたい、それに賢二は育ててくれたお母さんと妹のために必死にバイトするくらい優しい人だし」
「それはそうかもしれないけどよ、噂じゃ廉から金借りまくってるって聞いてるぞ」
「確かに貸してるけど絶対に返すって言ってたし、賢二はそう言う約束破る人じゃないから、それにお金貸してって言う時はいつも家のことで困ってる時だけだったから」
何でお前が俺を庇うようなことばっかり言ってるんだよ、今まで散々嫌な思いしたくせに金だってまだ返せてないのに。
どんどん自分が惨めでどうしようもないやつだと思わされる。
スクリーンの明かりは消えて沈黙がうまれる。
「こんなの見せられなくたって、俺はずっと悪い事してたと思ってたよ、でもしょうがねえだろ今さら謝って許してもらえるわけもねえし開き直るしかねえだろ」
「この世界に来て賢二と久しぶりにちゃんと話せてよかったよ、本当は友達予備軍なんて思ってないってこともわかってたよ」
「まじでごめん今まで」
「今までの事を許すとか許さないとかはないよ、言ったでしょ僕は友達に戻りたいって」
「でも俺はもう、、」
どんなに今後悔をして謝っても、死んだらもうみんなには会えなくて、廉とも友達に戻ることができなくなる。
「まだこのあと賢二がどうなるかはわからないよ、でも今のままじゃきっともう僕たちと賢二が会う事はない」
「俺がどうすれば助かるか知ってるのか!?」
「そこまではわからない、だけど一つ言える事はこの世界では嘘は通じない、それは賢二自身もそう、だからこれから会う人たちとも素直に話をしてその人の望む答えに辿り着かなきゃいけないよ」
廉の言葉を聞いて肩を落とす。
「結局は先に進まないと何もわからないのか」
「そうだね、それしかないかな」
「みんな、ありがとうなもし生きれたらさ、明日の結婚式楽しみにしててほしい、みんなにも改めて感謝を伝える場にしたいから」
「約束だよ」
「おう」
「じゃあ明日」
そう言ったのを最後に4人は俺の前から姿を消した、まるで最初からいなかったかのようにスクリーンには俺だけが取り残される。
「!!」
突然背中に激痛が走る、その瞬間に目の前が突然真っ白になる。
ーーーーーーーー
「いつまで寝てんだよ」
聞き馴染みのある声に遠のいていた意識が段々と明瞭になっていく。
「またここか」
「やっと起きたな、まあなに繰り返していくうちにきっと慣れるさ」
ついさっきまで映画館にいたはずなのに、どう言うわけだか俺はまた電車の中に戻ってきていた。
いちいち大きなリアクションを取るのも疲れるほどに、異常なことだらけのこの世界に慣れようとしている自分がいた。
ほんの少しだけ背中の痛みが和らいで、のしかかっていた何かが軽くなったように感じる。
そうか、廉はきっと許してくれたんだな。
絶対に約束を守るためにも俺は生きてここを出なきゃいけない。
「どうだった?自分の罪を少しは理解できたか」
「そうだな、確かに俺が傷付けた人はまだ沢山いるかもしれない。思い当たる中には何をしても許してもらえないんじゃないかと思う人すらいるよ」
「そうか、それはよかった、お前の罪を一言で表す事はできないけれどその自覚のなさという大きな罪に気付けた事は大きな一歩かもしれないな」
武部はいったいどんな立場で今俺と話をしているんだ、俺はこいつに何かをした覚えはこれっぽっちもないし、むしろこいつはこちら側の人間だ。
もしかしてこいつは俺が生きて帰るための道案内をしてくれているのか。
「変な期待はやめてくれ、俺はあくまでお前と対等な関係の人間としてここにいるだけだ、そこに善も悪も含まれちゃいない」
「おい、お前まで心を読むのか」
廉の時は結果としてこれが良い方向に転んだだけで、この心の中が筒抜けというのはどう考えてもこの先進んでいく上で不利としか思えない。
何か良い方法は無いのだろうか。
「まあ俺にお前の心が読めたところで何の意味もないさ、さあそろそろ次の駅に到着するぞ」
「次は鶯谷、鶯谷お出口は左側です」
電光掲示板表示から顔を戻すとすでに武部の姿はなく、誰もいない車内がただ怪しげに揺られていた。
「こちらのドアが開きます」
停車ととも開いたドアから足を一歩踏み出す。
躊躇いがなかったせいか前回のように無理矢理押し出されることはなかった。
「黙って死ねば良かったのに」
この世界だからだろうか、現実では感じたことのないほどの殺意をその言葉から感じた。
「まあ罪ってなったらどうしてもお前は出てくるよな」
視線の先にいる女を見てどんな表情をすれば良いのか戸惑う。
俺を軽蔑するその目を見るのは何年ぶりだろう。
俺は今回の件で武部から説明を受けた時に真っ先に浮かべたのはこいつだった。
俺は犯人はこいつだと思ってる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます