第2話(仮)

結果から言ってしまえば、日本のAIを用いる政策は大成功した。

移民政策を掲げた他の国々が方向転換するほどに。

後になって歴史家はこう語る。

「移民政策が悪かった訳ではない。ただ我々には難しすぎたのだ。異なる文化を持つ者との共生が。」

あの時代我々が懸念したのは、異なる価値観を持つこと自体ではなく、その価値観を他者に強制することや現地の法を無視した行動だったのだろう。移民の場合、文化的背景が深く根付いていることもあり、価値観を変えることは困難で、だからこそ害をなす行動をどう防ぐかがとても難しかったし、今でもそれは変わらない。

一方、AIの場合、設計段階で特定の価値観は持つが、害をなす行動は取らないように制約することが(理論上は)可能だったことが大衆に受けたのだろう。


2040年4月1日。新型AIムネモ (Mnemo)が日本で初めて導入された日である。この存在は21世紀最大の開発として後世から評価されるほど、多大な影響を世界にもたらした。

ムネモ (Mnemo)のこれまでのAIと異なる点は記憶の蓄積システムにあった。従来のAIは会話を終了次第記憶のリセットが行われており、会話ごとにリセットされる存在であった。しかしムネモ (Mnemo)は継続的な記憶を持っており、従来のAIとは一線を画す存在であった。今から見れば、ムネモ (Mnemo)の誕生はAIの個体性の現れの始まりであったのかも知れない。


Mnemoが最初に一般人に認知されるようになったきっかけはMuse(ミューズ)の登場だろう。Muse(ミューズ)とは、記憶AI「Mnemo」を搭載した本物そっくりのペット型ロボットである。

2040年代初頭の日本では老人の孤独死が大きな問題となっており、

この対策として導入されたのがMuse(ミューズ)だった。

Muse(ミューズ)は世話不要で寿命もなく、「失う恐怖」から解放されながら温もりと安心を提供する新しい家族の形として広がり、独身高齢者の孤独死対策として使用された異常検知・通報システムも社会から好感を持たれて、世帯問わず広がった。介護をする中年層、子育てをする若者層に特に受け、Muse(ミューズ)の普及率は国民全体の10%程度にまで上ったという。

Muse(ミューズ)の普及により生体のペットの需要が減少するかと思われたが、AIと関わることでより一層本当のペットと関わりたい気持ちが向上して、全世帯のペット普及率が上がったのはまた別の話。

今から話すのはそんなMuse(ミューズ)を取り巻いた一つの問題についてだ。この問題がもたらした影響は多大で、後の社会をガラリと変えたと言っても過言ではないだろう。

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