第5話 ハッピー襲来

第五話 ハッピー襲来

「五十嵐悠翔…あなたを迎えにきたんだよっ⭐︎」

 少女声は甘く、どこか壊れたオルゴールような雰囲気を与えた

「俺を迎えにきた?何言って…」

 問いかけようとした瞬間、少女の輪郭が揺らいだ

 消えた…と思った時にはすでに目の前にいてステッキを振り上げていた

「悠翔っ!!!!」

 ガキィィィン

 間一髪のところで夏目が俺とハッピーの間に入った

「もう〜邪魔しないでっ!私は五十嵐悠翔に用があってきただけであなたには興味ないの…邪魔するなら…」

 ハッピーが右手を夏目の腹部に押し当てる

「飛んじゃえっ⭐︎」

 夏目の腹部に強い衝撃が走る

 口と目から血が吹きだし、ものすごい勢いで後ろの壁に激突した

「ごふっ…」

「先輩っ…!!!!」

 ハッピーは俺との距離を詰める

「ねぇ五十嵐悠翔…私たちと一緒に来ないっ?君の力はきっと私たちの役にたつからっ⭐︎」

 桜が薙刀をハッピーの首元に向ける

「悠翔くんから離れてっ…離れないなら…切る」

 桜はすでに手袋を外している

「あなただぁれ?いつも五十嵐悠翔のそばにいるみたいだけど…邪魔するなら…女の子でも手加減しないよっ⭐︎」

 薙刀の刀身が凍り始める

「月影破氷刃…」

 桜は薙刀を大きく回し勢いを使ってハッピーの首元を狙う

「大氷円っ!!」

 しかし次の瞬間にハッピーの姿は消え

 桜の背後に立って背中に右手を押し付けていた

「だから邪魔しないでって…」

「桜っ!!!」

 パァン

 銃声が鳴り響く

 音のした方を振り向くと夏目が射撃したようだ

 夏目の放った弾丸はハッピーの右腕を破壊した

「桜!悠翔!そいつから離れろっ!!!」

 夏目の指示通り俺たちはハッピーと距離を取る

「はぁ…どいつもこいつも邪魔してくるやつばっかりで嫌になっちゃうね〜⭐︎」

 夏目が後ろからやってくる

 もう歩くのもやっとのようだ

「局に…連絡は…入れたな?…応援が来るまで…俺たちで持ち堪える…」

 夏目はライフルを構える

 ハッピーはポケットから黄色いリングのようなものを取り出した

「う〜ん今回殺しはしないようにって思ったけどやっぱ無理そうっ⭐︎キド〜もう出てきていいよ〜⭐︎」

 リングは大きな輪っかになり内側が黒く染まる

 その黒の中から先ほどの壊変体と同じくらいのデカさの壊変体が現れた

 丸刈りで、ボロボロになったシャツと半ズボンを着ている、顔には壊変体特有のヒビが入っていた、腕がすごい太い

ハッピーは俺の方を指さす

「キド〜、あのサングラスかけてる男の子以外全員殺しちゃっていいよっ⭐︎」

「ハッピー、俺、わかった」

 夏目が髪をかきあげ、前髪をヘアピンで止める

「これは…まずいことになったな…」

「知恵ノ王」

 キドが大きく腕を振り下ろす

「右」

 夏目は華麗にかわし銃の持ち手の部分を振り翳し一撃を入れる

 だがキドの攻撃は止まらない

「左」

 今度は左からの攻撃を銃で受け止める

「後方支援だからって…舐めてもらっちゃ困るぜ…」

 夏目はキドと少し距離を取る

「お前のコア、心臓についてるペースメーカーだろ、俺にはわかんだよ」

 素早くライフルを構えキドの胸に向かって射撃する

 この近距離での射撃、まずかわすのは不可能なはずだった

 だがライフルの玉はキドの心臓には届かず素手で掴まれる

「…は?」

 ハッピーがくすくすと笑っている

「残念でした〜キドには銃とかは通用しないよっ?

 それにしても君の能力すごいねっ!私たちのコアがバレちゃうなんて…」

 ハッピーは笑っているが目は冷たく光っている

「すっごく邪魔…」

 キドが夏目に拳を振りかざす

「右上っ」

「あ〜だめだめ〜その能力禁止ね〜」

 ハッピーは石の破片を掴むと凄まじい速度で夏目に向かって投げた、破片は夏目の髪留めを破壊した

「っ…………」

 キドの拳が夏目に直撃する

 骨が折れる音が聞こえる

 夏目はそのまま横の壁に飛ばされて体がめり込んだ

「さて邪魔者は片付いたし…五十嵐悠翔っ!まだ続ける?その後ろにいる女の子も殺しちゃうよ?⭐︎」

 俺は咄嗟に刀を構えていた

 桜だけは守らなければならない

 怖気付くな、約束した、桜だけは守らなければならない

 頭の中が恐怖と焦りでいっぱいになる

 気づくと俺の前に桜が立っていた

「ハッピー、悠翔くんは絶対に渡さない…」

 地面が凍り始める

「そっか〜じゃあ残念だけど…」

 キドが前に出る

「死んじゃえっ⭐︎」

 キドの拳が桜に襲いかかる

 桜はギリギリでかわしカウンターで突きを放った

 相手の傷は浅い

 桜は少し距離を取る

「月影破氷刃…」

 薙刀の刀身が凍りつく

「冷断っ!!」

 氷の刃がキドを襲う

 バキィン

 氷の破片が宙を舞う

 白い靄がかかってよく見えない…

 中から太い手が伸び桜の薙刀を掴んだ

「邪魔者、死ね」

 キドがもやの中から顔を出して拳を振り下ろす

「影森妹!かがめっ!」

 パシィン

 厚底のスニーカー、黒いタイツ、風で靡く紺色の髪

 キドの拳を双見の蹴りが受け止めた

「双見先輩っ!!!」

「俺の後輩に何してくれとんじゃ…と」

 双見は体を回しキドの顔面に蹴りを入れる

 キドが地面に倒れ込む

「お前ら大丈夫か?どうやら間に合ったみたい…」

 双見がボロボロの夏目を見る

「ってわけでもなさそうだな」

ハッピーが舌打ちする

「チッ…双見…また邪魔が入る…」

 キドがゆっくりと起き上がる

「俺、こいつ、殺す」

 双見がニヤニヤ笑う

「おいおい俺と戦うのか?まぁいいけど…こっちには局長もいるぞ?」

 双見が指さす方を見てみると局長が銃を構えていた

ハッピーが動揺する

「西園寺………キドっ!分が悪いわ、一旦撤退するよ!」

 キドとハッピーは先ほど出したリングの中に入っていく

「またね五十嵐悠翔っ!次は絶対君をとりに来るからっ⭐︎」

 リングは小さくなり塵となって消えていった

「いや〜あぶね〜ところだったなまさかコードネーム付き壊変体しかも鬼道藍落が2体も出るなんて…」

 桜はヘタリと座り込む

 俺は桜の元へ駆け寄る

「桜っ…怪我ない…?」

 桜は涙目になりながら夏目を指さす

「私は大丈夫だけど…先輩がっ…」

 壁にめり込んだ夏目は全身から血を流し、左腕は折れていて、微かに呼吸はあるものの明らかに危険な状態だった

双見が静かにカプセル錠を取り出す

「…東雲には申し訳ねぇが…使わせてもらうか…」

 夏目の口の中にカプセルを入れる

「夏目…噛んで飲み込め」

 夏目がカプセル錠を飲み込むと同時に出血は止まり、折れた左腕も元通りになり、呼吸も安定し、意識を取り戻した

 夏目は立ち上がり頭を掻く

「もう初任務の付き添いするのは2度とごめんっすね、トラウマになりました」

 俺たちはドン引きする

 さっきまで死にかけだった人がカプセル錠一つで今は元気に喋っている

「一体何飲ませたんだろ…」

 桜が呟くと双見が振り向く、いつもならニヤニヤしているのに今は真剣な表情だ

「まぁ、お前らもあとあと世話になると思う、世の中には知らない方がいい事情ってもんがあるんだよ」

 特制局にはまだ俺たちの知らないことがたくさん隠されているらしい

 局長が銃を収めながらやってくる

「ハッピーにキド…厄介な奴らがきたな…あいつらは五十嵐を狙っていたようだったが…何か心当たりは?」

「ありません…」

 いろいろ過去にやらかした経験はあるが今回ばかりは本当に心当たりがなかった

「そうか…とりあえずこの現場は解析班に任せよう、お前たちは初任務で疲れてるだろうからな明日は休みにしてある、今日はうちに帰ってゆっくりするといい…特に夏目は安静にしておくように」

 俺たちは局長の言葉に頷いた

「双見、帰りの車はお前が運転してやってくれ」

 双見が嬉しそうな顔をする

「よっしゃあ!久しぶりに定時で帰れそうだぜ」

 夕暮れの空が茜色に染まっている

 俺たちは車に乗り込み現場を後にした

 双見が運転する車の中俺はふと疑問に思ったことを口に出す

「さっき言ってた鬼道藍落ってのはなんなんですか」

「そういやお前らは知らなかったな、壊変体ってのは全員元は人間だったんだ、大抵のやつらは壊変体になると意識レベルが低くなり、話が通じなくなる」

 双見がバックミラー越しに俺たちをみる

「だが稀に壊変体になっても意識レベルが人間と同程度に保たれ意図的に欲異能を使ってテロや犯罪を起こす奴らがいる、そいつらが束になって俺たちと敵対してるのが欲異能犯罪組織”Re:Birth”だその中の上部組織、より強い欲や感情を持っている奴らが存在する、そいつらが鬼道藍落…超危険な壊変体だ」

 双見が俺たちをみてニヤニヤする

「だからお前ら…今日生き残れてまじでラッキーだったんだよ…夏目に感謝しな」

 夏目は任務の疲れだろうか、助手席で眠っている

 今回の任務、全く夏目の助けになれなかった、俺がもっと強ければ…夏目はあんなにボロボロにならなかったかもしれない

「まぁ、あんま気負いしないようにな!初任務なんて大体みんなそんなもんだ!それに明日は貴重な休日だからな、何するか予定とか立てとけよ!」

 双見は笑っているが俺の頭の中にはハッピーが言っていた言葉が渦巻いていた

“五十嵐悠翔…君を迎えにきたんだよ…”

 なぜ俺なのだろうか

 なぜ俺の名前を知ってる

 そして俺の何を欲している

 俺の中で疑問が渦巻く

 一体なぜどうして何が目的で…

「…翔くん…悠翔くん!」

 桜の声でハッとした

 気づけば俺は車から降りていて桜と共に帰路に着いていた

「どうしたの?考えごと〜?」

桜が俺の顔を覗き込む

「いやなんでもない…大丈夫」

「…そっか」

 桜と並んで歩くいつもの帰り道

「ねぇねぇ悠翔くん」

 桜が俺に話しかける

「明日…どっかお出かけしよっか!」


 以下特制局地下一階”第零機関”

「ハッピーにキド、2人の鬼道藍落は五十嵐を狙っているようだった…」

 西園寺が資料を見ながら話している

 夏目が階段を降りてきた

「夏目ちょうどいいところに来た…ここには今俺とお前しかいない」

西園寺が声を低くする

「見たんだろ…五十嵐と影森のモチーフを」

 夏目の声は冷静だ

「はい、桜のモチーフは渇愛、自分の心の温度を表す氷が能力として発現していました」

「悠翔のモチーフは…」

 夏目が声を落とす

「怠惰…異能は風だけではないと思います、円環のうちの1人です」

 西園寺が眼鏡を外す

「やはり円環か…まずいことになったな…」

 西園寺の目には決意の表情が現れていた

 

 

 

 

 

 

 

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