第4話 初メテノ任務
第四話 初メテノ任務
朝の日差しがビル群を淡く染める
いつもと変わらない通学路を俺は全速力で駆け抜けていた
「やばい…まじでやばい…!」
息を切らしながら角を曲がる
約束の待ち合わせ時間を当に過ぎたスマホの時計が無情にも俺のことを責め立ててくる
駅前の銅像の前、桜はすでに待っていた。
風に吹かれ靡く髪を手で押さえながら呆れ半分、笑い半分の顔で俺のことを見る
「さすが…遅刻常習犯だね」
「ハァッ…ご、ごめん…ハァッ…目覚まし時計を止めた記憶はあるんだけど…ハァッ…そのあとがっ…ハァッ…なくて…」
「もう、しょうがないな〜、一旦呼吸しよ?」
桜はどこか楽しそうに笑った
昨日の試験での出来事が桜の精神に何も異常をきたしていないことがすごく嬉しかった
「じゃ、行こっか…特制局」
「…うん」
俺たちは並んで歩き出す
これから昨日以上の苦難が俺たちのことを待ち構えてると思うと少しだけ不安だった
「昨日お姉ちゃんから電話あったんだけど、話を聞いた感じ私たち正式に採用されたっぽいんだよね〜」
「正式ね…なんかまだあんまり実感ないかも…」
「まぁ今日制服貰えるみたいだし、それ着たら意外と実感沸くかもよ」
桜は微笑んで俺の横を軽やかに歩いた
やがてビル群の中に聳え立つ庁舎が見えてきた
中に入るといつもは誰もいない受付に今日は人がいた
「お、来たか…昨日はよく眠れたか?」
西園寺局長である
昨日の暴走っぷりが嘘のようだ
今はただかっこいいイケオジである
「今日はお前たちにプレゼントがある」
そういうと後ろから二つの紙袋を取り出した
「今日から正式にお前たちも局員だからな…特制局の制服だ、2階に更衣室があるからそこで着替えるといい…」
俺たちは言われた通り二階に上がり更衣室に入った
着慣れている学校の制服を脱ぎ、渡された制服に着替える
特制局の制服は白いシャツに、黒いネクタイ、ズボン、上着…まるで喪服のようなそれらは衣服というより覚悟を着ているというような雰囲気を与える
鏡を見てみると高校生の自分とはまた違った自分が見られる。
更衣室から出ると桜はすでに着替えて待っていた
「どう?似合ってるかなっ!」
いつものふわふわとした雰囲気とは打って変わり黒を基調としたキリッとした制服が桜の雰囲気と混ざり合っている
「ああ…よく似合ってるよ」
桜は嬉しそうに笑う
「あ〜悠翔くんネクタイ雑にやったでしょ〜直してあげるね」
軽く笑いながら俺のネクタイを直してくれる
距離が近くて少し息が詰まる
新品の制服特有の匂いと桜の髪から香るシャンプーの匂いが混ざり落ち着かない
「はいっ!これで完璧だね!」
「ありがと…」
「じゃあ行こっか!」
桜についていき特制局本部の扉を開ける
中には昨日のように全員集まってるわけではなく局長、双見、夏目がいた
「着替え終わったか….なかなか似合ってるじゃないか」
西園寺が笑っている
双見はこちらを見てニヤニヤしている
「これでルーキーちゃんずも正式に俺の後輩だな!」
双見は満足そうである
これからここでの生活が始まる…
俺は決意を固めた
「祝いたいところだがあいにく時間がなくてな、早速だが仕事だ、夏目!」
夏目が口を開く
「南区にある工場跡地で激しい騒音と黒煙が上がってるとの情報です、周辺には小規模ですが壊変体の反応がありました」
西園寺が険しい顔をする
「と、言うことだ、新人の2人にはその対処へ向かってもらう、念の為夏目も付き添ってやってくれ」
双見が少し驚いた顔をする
「え、俺じゃないんすか??」
西園寺が口を開く
「お前は俺に付き添いで昨日の壊変体が起こした被害の復旧作業を手伝いに行く、お前の能力は便利だからな」
双見が嫌そうな顔をする
「え〜まじかよ〜」
夏目がこちらへやってくる
「まじ久しぶりにパソコン業務から解放されて最高っすわ、悠翔、桜、よろしくね…」
夏目が大きく伸びをする
「現場までは俺が運転するから…とりあえず社用車乗って」
言われるがまま夏目についていく
「初任務緊張するねっ!」
桜は少し楽しそうである
「まぁ昨日の双見よりかはどうにかなるだろ…昨日のはキツ過ぎた…」
昨日の激闘が蘇る
夏目が口を開く
「でも2人の入局試験は結構ラッキーだったと思うっすよ、俺なんて入局試験局長だったんで…あ〜思い出すだけで恐ろしい…」
俺たちの入局試験も局長だったら危なかったかもしれない、昨日はあんなにふざけているおちゃらけた人だったが、あの人とはできれば戦いたくない
夏目、俺、桜の3人で社用車に乗り込む
「あ、ちなみに俺去年高校卒業と同時に車の免許とったペーパーなんで事故ったらごめんね」
縁起でもないことを言う人である
「できれば安全運転でお願いしますよ…」
車は高速道路を抜け、南区の外れへと向かっていた
窓の外を流れる景色は徐々に廃れ、街の喧騒が遠ざかるにつれ空気も淀んでいく…
「…ここほんとに東京?」
桜が窓を見ながら呟く
「”想現大禍”の復旧がある程度終わったと言っても、それは都心だけの話で実際に外れの方に行くとまだ被害が残ってたりするんだよね〜」
崩れたコンクリートの壁、錆びた鉄骨
かつてはここも大規模な工場地帯として栄えたらしいが今ではその影もなく廃れている…
「騒音と黒煙って言ってたよな…」
窓の外をみると工場跡地から黒煙がまるで生き物のように立ち上っている
「壊変体の反応は小さいけど3つかな…」
夏目は端末を操作しながら眉をひそめる
「初任務にしては結構ハードかもしんないね…」
車が停止し、俺たちは外へ出た
焦げた匂いが鼻を刺す
足元には黒く焼けたアスファルトと何かを引きずったかのような黒い跡が残されている
「私こう言うところ苦手かも…」
桜が珍しくテンション低めである
「夏目先輩…どうします?」
「とりあえず俺は後方支援担当だからな…お前らの少し後ろからついていくよ、これ耳につけて、通信は繋いでおくから、何か異常を感じたら躊躇いなく能力使っていいよ」
「わかりました」
俺は渡されたイヤホンみたいなやつを耳につける
寂れた工場の廊下を俺と桜で進む、夏目は少し離れて後ろからついてくるらしい
カランカラン…
「ひぃえぁっ!!!!」
桜がパイプの落ちる音にびっくりしている
「流石にビビり過ぎじゃない?」
「だって怖いものは怖いんだから仕方ないでしょ!悠翔くんもっと近く寄って!!」
桜のいい匂いがする
なんだか心がソワソワしてきた
「きゃああああああああああああ!!!!」
心のソワソワを女性の悲鳴がかき消した
「い、今の…私じゃないよ!!」
走る足音と激しい息づかいが聞こえる
曲がり角からちょうど同い年くらいの女の子が飛び出してきたが足がすくんで動けなくなってしまったようだ
桜が心配そうにかけよる
「ちょっと!大丈夫ですか!」
女の子がこちらに手を向ける
「た、たすけ…t…」
一瞬だった
曲がり角から出てきた鉄の塊が女の子の頭を叩き潰した
血飛沫が舞う
「え…」
桜は動揺しているようだ
現れた壊変体の両腕は鉄材を継ぎ接ぎにはっつけて巨大化されており頭には巨大なネジが刺さっており、溶接用の鉄の仮面をかぶっているため顔はよく見えない
とにかく巨体である
「ゔぉあああああああああああああああ」
巨体が雄叫びを上げた
鉄の巨体の後ろからスパナを持った修理屋のような格好をしたやつが1体、白い人形が1体の計3体が現れた
「桜…少し下がれ」
巨大な鉄の腕が俺たちに襲いかかる
ギリギリのところでかわす
「悠翔くん飛んでっ!」
桜の声に合わせて俺は宙に駆け上がる
後ろから桜の強烈な突きが出てきた
ガィィン
金属のぶつかる音がする
「え〜これ本当に倒せるの…」
無線から夏目の声がする
「悠翔、桜、一旦下がれ!」
夏目の指示通り壊変体と距離を取る
以下夏目視点
「ふぅ…いっちょやりますか」
「Re:Burst」
夏目は髪をかきあげる
「知恵ノ王」
頭の中に相手の情報が流れ込む
「悠翔!桜!今から俺の言うことをよく聞け!まずでかいやつ、モチーフは執着、コアは頭にブッ刺さってるネジだ!次スパナ持ってるやつ、モチーフは開発欲、コアは持ってるスパナだ!桜は執着を悠翔は開発欲と戦え!残った白い人形は」
スナイパーライフルを構える
「俺がぶち抜く」
視点は悠翔に戻る
パァン
後ろから銃声がする
夏目の放った弾丸は白い人形の頭部を直撃する
一撃である
「夏目先輩すご…」
「私たちも負けてらんないね!」
桜は手袋を外す
「Re:Burst、久遠ノ調律者」
地面が凍り出す
そうだ俺たちも負けていられない
俺は刀を抜く
「Re:Burst、嵐刃ノ奏手」
俺は開発欲と一気に距離を詰めた
「五十嵐流刀法・下段」
「昇嵐」
下から振り上げる斬撃が開発欲に命中した
続け様に攻撃を放つ
「五十嵐流刀法・刺突」
狙いはスパナ
「天穿」
しかしこの一撃は開発欲に掴まれ止められてしまう
「お前たち…ぼぼぼ僕の作品を、ここここ壊したな
許さない、お前もささささささ作品にしてやるるる」
刀が動かせない
開発欲はドライバーを取り出し俺の腹に数回刺した
「ぐっ…」
白いシャツに血が滲む
「目をくくくくくくりぬかせてもらうよ」
俺は刀から手を離し開発欲に回し蹴りを食らわせる
刺された腹部が痛い
俺は刀を拾う
これまでの戦いで分かった、俺の最速の技”天穿”はこの世界では通用しない
更なる速さ、力が必要だと
前々からこの戦い方はできると思っていたものを実践に移す時が来たようだ
足に風を纏わせ刀に追い風を吹かせる
「五十嵐流刀法・昇華」
「嵐舞」
見える世界が変わる
先ほどまで遅れをとっていた相手の背後にまわる
「はははははは?????」
「五十嵐流刀法・中段」
「旋風」
相手に今までとは比べ物にならないほどの速さの斬撃をいれる
これで決める
「五十嵐流刀法・刺突」
「天穿」
俺の突きは相手の持っているスパナを破壊するとともに刀の周りに巨大な渦巻きを発生させた
開発欲は塵になって消えていく
俺は地面に倒れ込んだ
なるほど”嵐舞”は通常では不可能な速さの斬撃を繰り出せるとともに、使用すると疲労がドッとくるタイプの技らしい
桜の方に目をやると執着は完全に氷漬けにされておりトドメを刺される瞬間だった
バキ
氷とともに頭に刺さっていたネジを破壊する
「あ、悠翔くんも終わったみたいだね」
桜がこちらに気づく
後ろから夏目がやってきた
「あ!夏目せんぱ〜い!こっち終わりました〜」
桜が夏目を呼ぶ
「2人とも警戒を解くな!!!何かがおかしい!!」
いつも冷静な夏目が怒鳴るのは初めてだった
俺の鼓動が早くなる
「おかしいって何が…壊変体の反応は3つでしたよね
さっき3体全部倒して…」
周りを見ると夏目の打ち抜いた白い人形だけ塵にならず残っている
「さっき俺の力で見た!俺が殺したのは壊変体じゃねえ!あと1体どこかに隠れてるはずだ!!」
俺たちは周囲を警戒する
「えいっ⭐︎」
グサッ…
嫌な音がした
夏目の方を見ると夏目の腹部から魔法のステッキのようなものが貫通している
「先輩っ!!!!」
夏目はスナイパーライフルを振り翳し背後の少女に一撃を入れようとする、しかし華麗にかわされてしまう
夏目が腹を抑える
「俺のことはいい!悠翔、桜!!急いで局に連絡入れろ…こいつは”ハッピー”…コードネーム付き壊変体だ」
血のついたステッキを持った黒髪ツインテールの少女が笑いながらこちらを見ている
「五十嵐悠翔…あなたを迎えにきたんだよっ⭐︎」
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