第3話私ノ計画

第三話 私ノ計画

「ーー試験開始」

 試験開始の合図と共に俺と桜は息を合わせる

「悠翔くん、最初から全力で行こう…」

「うん…」

 俺は刀を抜き、桜は手袋を外す

「「ーーRe:Burst」」

「嵐刃ノ奏手」

「久遠ノ調律者」

 周囲に風が巻き起こり気温が下がる

 双見が目を見開く

「ルーキーちゃんず!俺に怪我させる気でかかってきな!!」

「死んでも知らないですよ…」

 桜が地面に薙刀を突き立てる、地面が凍り始め双見の足を拘束する

「ふーん…」

 俺は一気に双見と距離を詰め一撃を入れる、が傘で受けられてしまう

「…この程度?」

「こっからですよ…」

 俺は一度振った刀を持ち替え切り返した

「五十嵐流刀法・反転」

「燕返し」

 双見は傘で受けたが確実に体制を崩した

「やるじゃん…」

 いける

「五十嵐流刀法・刺突」

「あまうが…」

 双見がニヤリと笑う

「だけど甘ぇ…」

 パァンパァン

 銃声が鳴り響く、横腹に鈍い痛みを感じる

「ごふっ…」

 双見は銃で足元の氷を破壊し、俺に蹴りを入れてきた

 吹っ飛ばされフェンスにぶつかる

 すかさず双見が追撃を入れようと迫ってくる

「悠翔くん!!」

 桜の氷が足元まで広がり地面から槍のように突き出し双見を囲う

「影森妹の能力はなかなか応用が効くみたいだな…だが」

 双見が氷の槍を一瞬で破壊する

「もろいところがわかりやすい」

 俺はその隙に双見と距離を取る

「やっぱりな…お前らはまだ自分の欲異能を使いこなせてねぇ…」

双見が言葉を続ける

「力ってのは出せるだけじゃダメなんだ。お前らの攻撃には強い想い…例えるなら執念も向上心も足りねぇ…自分の欲や想いを力に変えるってのは、つまり”汚れ”を抱くことだ」

 その様子を屋上の高いところから見下ろす観客たちがいる

 ーー以下観客の会話

 東雲が注射器の針をいじくりながらふと口を開く

「楠木先輩っ!最近の子達ってこんなに欲異能使える子達ばっかでしたっけ?しかもなんか普通に刀とか持ち歩いてるし〜、僕が高校生だった頃は注射器とか持ち歩いてるだけで怒られてましたよぉ」

 楠木が口を開く

「まぁ〜そういうのは局長の方が詳しいと思うけど〜、3年前の”想現大禍”から日本の法律も結構変わって〜、今では壊変体に対する護身用のために銃とか持ち歩いたりしてるわよ〜」

 楠木はジョッキを取り出し大量の氷を入れ業務用ウイスキーと炭酸水を99:1の割合で入れて飲み始めた

後ろでパソコンをいじっていた夏目が口を開く

「それに最近だと学校教育の方針とかも結構変わってたりして、今だと公民の授業中に壊変体の話とかあと欲異能が発現した時の対処法、トリガーの探し方とかも学ぶらしいっすからね〜、でも欲異能が自然発現するのって全体の1%くらいで、他は壊変体になっちゃうっぽいっすね…、あと楠木先輩そのアルコール濃度はそろそろ死にますよ…」

 東雲は悠翔たちに目を向ける

「あの2人も僕たちと同じ”実験”の被験者だったりして…」

 夏目がその言葉を遮る

「流石にないんじゃないっすかね〜、双見によると男の子の方は事故が原因で発現したっぽいし、普通に自然発現だと思いますよ…」

「ふーん…」

 東雲の目が怪しく光る

 場面は入局試験に変わる

 

 桜は静かに目を閉じ、呼吸を整えた

「……悠翔くん、次は私に合わせて…」

 その声は先ほどまでの焦りが嘘のように澄んでいた

 桜の薙刀の刀身が凍り始める

「ーー月影破氷刃」

 氷が音を立てて広がり、刃の周辺には月光のような白い光が揺らめく

 桜が一歩踏み込んだ瞬間、空気が凍りついた

「ーー冷断」

 薙刀の一閃。氷の斬撃が双見を襲う

 双見は傘を開いて受けるが斬撃の切り口から氷が吹き出し傘を固定した

「悠翔くん!!」

「わかってる…」

 すかさず双見と距離を詰める

 風で飛び上がり氷で固定されている双見目掛けて技を放つ

 次は外さない

「五十嵐流刀法・終段」

「廻嵐」

 凄まじい暴風が巻き起こり、桜の出した氷の破片と混ざり合って双見を飲み込む

「やったか?」

 白い霧の中にゆらめく影が見える

 パァン

 銃声が鳴り響き反射的に刀で急所を守る

 しかしその弾丸は俺には当たらなかった

 嫌な予感がする

 振り返ると、銃弾は後ろにいた桜の脳天に直撃していた

 頭が真っ白になった

 彼女の手から薙刀が滑り落ち、後ろに倒れた

「桜っ!!!!!!」

 霧の中から双見が現れる

「…お前ら実戦だったらもう3回は死んでるぞ…それとも何だ…」

双見の声が低くなる

「まだ…お遊びだと思ってたのか?」

「双見っ……」

 俺は刀を強く握りしめる

「まだ続けるのか?もっとも…影森妹無しのお前が最大のポテンシャルを発揮できるとは到底思えないけどね…」

 後ろから影森澄華が暴れる声がする

「双見が…桜を撃った!!!!私がっ…私が殺す…」

 黒野が必死に止める

「澄華、これ試験!!それに…朱璃世ちゃんも…いる!」

 俺は動揺を隠せなかった、また守れないまま終わるのか

 息が荒い、鼓動の音が頭の中で反響して何も聞こえない

 双見が銃口を下ろした

「どうした?五十嵐…まだ終わってねぇだろ」

 気づいたら俺は刀を構えていた

 風が渦巻く

「…双見」

 声が震える

「アンタを…絶対に許さない」

 足元のコンクリートがひび割れ風圧で砂埃が舞い上がる

双見はニヤリと笑った

「いい顔してんじゃん五十嵐…その喪失感、後悔…」

 双見が傘を構えた

「こいよ…」

 風が爆ぜた

 俺は踏み込み、一瞬で距離を詰める

 すれ違いざまに放たれた双見の銃弾は俺の頬を掠める

「五十嵐流刀法・刺突」

「天穿」

 俺の突き出した刀を双見はギリギリのところで避ける

「まだだっ!!」

「五十嵐流刀法・下段」

「昇嵐」

 俺は刀を下から振り上げ、上昇気流を起こした

 双見の体が中に浮いた

「悪くねぇ…」

 俺は風を使い双見よりさらに上に飛び上がった

 刀を上に振り上げる

「五十嵐流刀法・上段」

「降りゅ…」

 刀を振り下ろしたところを双見に掴まれた

「ご褒美だ!俺の能力…見せてやるよ…」

 双見はマスクをずらし長い舌を出した

 舌には眼球がついていた

 背筋が凍るような感覚を覚える

「Re:Burst、”創リ眼”」

 双見は地面に視線を向けた

 屋上の床から大量の双見の形をした人形がこちらに銃口を向けている

 これは…やばい

 俺は咄嗟に目を瞑る

「そこまで!!」

 西園寺の声が響く

 俺と双見は団子になったまま地面と激突する

「ぐはっ」

「ごふっ」

 背中に激痛が走る

 やっと…終わったのか

 桜は…桜は大丈夫か…

 双見が口を開く

「安心しろ…ゴム弾だ…」

 見てみると心配そうな顔でこちらを見ている

 心配したいのはこっちである

 桜がこちらに駆け寄ってきた

「悠翔くん…悠翔くんっ!!」

 半泣きである

 桜が近くに寄ってきたら安心したのか目がぼやけてきた

「桜ぁ…ごめんね…」

 また守れなかったと自分の不甲斐なさに目から涙がこぼれ落ちる

 東雲が近寄ってきた

「うぇーい!2人とも大丈夫ぅ????とりまこれ口に入れて!」

 何かカプセルのようなものを口に入れられた

「Re:Burst、血涙ノ天魔」

 背中の痛みがなくなっていく

 数秒後には無傷の状態に戻っていた

 双見が起き上がる

「まじ最後の自由落下1番痛かったわ」

 双見がニヤニヤしながらこちらに目を向ける

「まぁでも….ルーキーちゃんずにしては、結構頑張ったんじゃない?おい東雲、俺にもカプセルくれよ」

 東雲が意地悪な笑みを見せる

「東雲”先輩”ね?双見くぅん…そろそろ先輩呼びしてくれないと、僕泣いちゃうかも…」

 西園寺もこちらにやってきた

「こういう堅苦しいのはあまり得意じゃないんだがな…2人とも…合格だ、早速明日から特制局の力になってもらう」

 明日は土曜日…なるほど特制局に休みという概念は存在しないらしい…

「まじすか…」

 俺は疲れ切って床に寝転がる

 西園寺が告げる

「よしお前ら!!今から新人歓迎会に行くぞ!!夏目!!」

「わぁってますよ、いつもの店もう予約しときました」

「今日は俺が全員奢ってやる!!好きなだけ飲みやがれ!!!」

「やったぁ〜局長だぁいすき〜」

 楠木が飛び跳ねる

双見がやれやれとした表情を見せる

「ルーキーちゃんず、今日はお前らが主役だからな、準備できたら行くぞ」

「悠翔くんっ!新人歓迎会だってっ!いこっ!今すぐ行こっ!絶対行こっ!」

 桜が目を輝かせる

「え〜俺もう結構疲れてるんだけど…」

「そういわずに〜ほら立って!」

「おいルーキーちゃんず〜準備できたなら行くぞ」

 双見が手を振っている

「はぁ〜」

 俺は重い腰をあげ桜についていく

 心の中には過酷な入局試験を乗り越えたという確かな安堵があった

 ーー場面は飲み屋”八咫烏”に移り変わる

「ということで、入局試験で死にかけた新人に乾杯だ!!」

 西園寺が声をかける

「「「かんぱ〜い」」」

「ほ〜ら〜、新人ちゃんもたくさん飲んでいいのよ〜!だって今日は局長の奢りなんだから」

 楠木先輩が俺たちに酒を勧める

「いや…俺たちまだ未成年…」

「うへへ〜、未成年ちゃんずには、東雲先輩がおぅれんじじゅーすをついであげるねぇ〜」

 東雲先輩が俺のコップにオレンジジュースを汲み始めた…明らかに溢れている

「せ、先輩溢れてます…」

「ええ!?そんなことないよっ!このコップに限界などないはずっ!限界を超えろ〜!ほら!五十嵐くんもこのコップを応援してあげてっ!」

 何を言ってるんだこの人は本当に何を言ってるんだこの人は。もうすでに机の周りと俺のズボンはオレンジジュースでびしゃびしゃである

「いや、あの、もうほんとに…」

 コミュ障が出る、言いたいことがはっきりと言えない

「ん〜どうしたの五十嵐くん〜、もしかして緊張しちゃってる〜?お母さんのお胸が恋しいのかな〜」

 俺の体全体を柔らかい感触が包んだ

 楠木先輩が俺に抱きついたのだ

「五十嵐くんは〜お姉さんのお胸で〜いいこいいこしましょうね〜」

「いやっ…あのっ…」

 あっ、でも少し心地いいかもしれない…これがおっぱいパワー…………はっ…危ない…あと少しで飲み込まれるところだった…これが欲異能…

 俺は桜に助けを求める

「さ、桜…助け…」

 ゾッとした

 桜が俺のことをまるで罪を犯した下等生物を視線で殺すかのような目で俺を見ている

「悠翔くん?」

 おわった…ニコニコしているがあれは確実に怒っている

 桜は前々から自分の貧乳にコンプレックスを抱いていたが、まさかこんなところで解放されるとは、特制局…恐るべし…そしてこの俺の逃げ場のない状況を見て双見は爆笑している

「ぶはははははは五十嵐〜お前の嫁さん今ブチギレてんぞ」

 そんなことはわかっている

 これは帰りにコンビニでお高いアイス奢りパターンだろうか…

「ゔっうぅ…」

 西園寺が泣いている

「俺もおっぱいが触りたいっ!!!!!!」

 このおじさんはいったい何を言っているのだろうか

 自分が今何歳かわかっているのだろうか

「楠木〜!!!!!」

 俺と楠木先輩がじゃれあってるところに西園寺が飛び込む

「え〜みんなずるい〜僕も僕も!」

東雲先輩もやってきた、もう地獄である

 横側でお食事会を楽しんでいる人たちが羨ましい

「へ〜桜ちゃんって影森先輩の妹さんだったんですね〜」

「そうだよ…かわいいでしょ?」

 夏目と影森姉が平和に会話している

「灯ちゃんっポテト食べる?」

「食べる!」

「桜〜ついでに俺のチーズ春巻きも注文しといてくれ」

「え〜双見さん今日私にゴム弾ぶち当てたんですから自分でやってくださいよ〜」

 双見が苦笑する

「まぁ細かいことは気にすんなって〜、あと今日から双見さんじゃなく双見”先輩”と呼べっ!!」

「はいはい双見せんぱ〜い」

 双見は機嫌が良さそうだ

 俺は人間団子になり俺に覆い被さってきた人たちはみんな爆睡しているようだ

 人間の温度は暖かい….俺もだんだん眠く…


「悠翔くん!起きて〜」

 俺を呼ぶ声で目が覚める

「もうお店閉まるって!局長がお金払ってくれたからそろそろ出よ!」

 若干の眠気を持ちながら外へ出る

 店の外には今からカラオケで2次会をするという元気な大人たちが俺たちを待ち構えていた

 しかし未成年ということでなんとか釈放された

 桜と2人で帰る帰り道

「今日は散々な目にあった…」

桜はえへへと笑う

「でも、楽しかったでしょ?」

 確かに楽しかった今日のような日は久しぶりだったかもしれない

「うん、来てよかった」

 桜と談笑しながら帰っていると桜の家が見えてきた

「じゃ、またね悠翔くん」

 その途端今日の入局試験を思い出す

 このままでは桜がどこか遠いところへ行ってしまうのではないかという強い不安に襲われた

「桜っ!!」

桜がこちらを振り向く

「…?どうしたの?」

「今日の怪我…もう….大丈夫なの?」

桜は前髪をめくっておでこを見せた

「うんっ!東雲先輩の力で傷跡も残らなかったよっ!」

「そっか…」

 俺は安堵する、と共にある決意が浮かぶ

「次は絶対俺が守るから…」

 胸の内から感情が湧き起こる

「だから桜は…桜だけは…遠いところへ行かないでくれっ…」

 俺の目から涙が溢れる

 桜は優しく俺を抱きしめてきた

「大丈夫っ!私はいつでも悠翔くんの隣にいるよっ!」

 その言葉にはどこか暖かみがあり俺の気持ちが安らいだ

「じゃ、また明日ねっ!」

 桜と別れる

 もう誰も桜を傷つけさせない

 俺は強く誓った


 ーーー以下桜視点

「ただいま〜」

もう家族はみんな寝ていて起きているのは私しかいない

 私は急いで部屋に入るとドアの前にしゃがみ込んだ

 部屋には壁一面に悠翔くんの写真が貼ってある

 服の匂いを嗅ぐ

 少しだけ悠翔くんの残り香が感じられる

「今日はたくさん私のこと心配してくれたな〜…」

 ゆっくりと手袋を外す

 空気が冷たくなる

「私…愛されてる…でも足りないもっと愛されたい」

 悠翔くんのお弁当箱を取り出す、案の定トマトが残されていた、それを震える手で口へと運ぶ

「私がもっと酷い目にあえば悠翔くんはもっと心配してくれるかなぁ」

 部屋の壁が凍りつく

 氷の結晶が舞い始める

「ごめんね悠翔くん…特制局に入れば命に関わる怪我をすることが増える、そうなるとあなたはもっと私を心配してくれる…愛してくれる」

「それ以上のことってないよねっ」

 桜の瞳は希望を見据えるように白く煌めいていた

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 



 

 

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