第2話 特制局へムカウ
第二話 特制局へムカウ
口から血の味がする、首をまだ絞められている感覚がある、頭の中では銃声と壊変体の叫び声が混ざり合っている
「おっ…意識を取り戻したみたいだね五十嵐」
目の前に紺色のツインテールをした黒マスクをつけた美少女が立っている
「……だれすか?」
桜が口を開く
「悠翔くん、この人はね特制局の双見さん!間一髪のところで私たちのこと助けてくれた恩人だよ!」
特制局…聞いたことがある、近年頻発する欲異能災害に対処すべく発足された政府直属の組織…確か桜の姉がそこで働いていたとかなんとか
「それにしてもすげぇ被害だなお前らが食い止めてなかったら本当に危なかったわ」
双見が被害の状況を確認していると壊変体が消えた場所に何かが残っている、近づいて確認してみるとそれはボールペンだった
「……なにこれ」
周りの被害とは場違いなほどに無傷のまま残された一本双見は腰を落とし眉をひそめた、欲異能の気配は感じない、拾い上げようとボールペンに触れた瞬間
ーー”誰かに見られている”
直感が警鐘を鳴らしている
背筋を這うような寒気と共に感覚が鋭く研ぎ澄まされた
「っ!!!!」
双見がマスクに手をかけ反射的に臨戦体制に入る、だがボールペンからは先ほど感じたような迫力は無くなっていた
「……気のせいか?」
とりあえず局に持ち帰ってみようと双見はボールペンをジップロックの中に保存し内ポケットにしまった
「双見さん!悠翔くんもう大丈夫みたいです!…何かありましたか?」
双見は少し間を置き
「…いや別に何も…、準備できたなら俺についてきな、少し…歩きながら話そう」
俺たちは双見についていきながら特制局へと向かった
「お、影森妹わかるかこの髪の艶が!これ最近できた新宿のお店のヘアオイル使ってるんだ!」
双見は自分のなでやかな髪を自慢げに話している
「あ!そのお店知ってます!この間友達と一緒に行きました!ヘアオイルも置いてるんですね〜…私そこのお店のシャンプーとリンス使ってるんです」
「え!やっぱ使ってるよな!俺めっちゃいい匂いするなって思ったもん!」
どうやら桜と双見はスーパー女子トークで盛り上がっているようだ俺には何のことだかさっぱりわからない
こう言う3人で歩いてる時って2人が話してると孤独を感じますよね…女子じゃない、俺は混ざれない、女子トーク、五十嵐悠翔今日の一句
「そーいえばルーキーちゃんずは結構戦い慣れてる感じだったけど、壊変体とは何度か戦ったことがあるのか?」
急に話を振られて吃る
「え!え、あ、お、え」
「悠翔くん話す準備してなかったでしょ」
桜がこっちを見てニヤニヤしてくる、はっきり言って蒸発したい
桜が変わりに口を開く
「結構学校帰りとかに遭遇してたりしました、今回のは久々でしたけど…でも今日の壊変体あんだけ攻撃しても死ななかったんですよね〜何でだろ」
双見が口を開く
「あ〜それはだな、壊変体には欲異能のエネルギーの根源となっているコアが存在する、それは壊変体の生前思いれが深かった物が多い、今回の場合は壊変体が抱いていた赤ん坊の人形だ」
双見が傘型の銃で赤ん坊の頭を撃ち抜いていたのを思い出す
「壊変体はコアが無傷で残っている限りそこから出てくるエネルギーを使って復活する、逆にコアが破壊されればエネルギーで体を保つことができなくなって、散り散りになって消えていくわけだ」
双見が少し驚いた顔をする
「もしかしてお前たち今までコアのこと知らずにずっと戦ってたのか!?じゃあ一体どうやって倒してきて…」
桜と顔を見合わせ苦笑いする
「それは…まず私の氷で拘束して、悠翔くんが顔破壊した後に2人でぶつ切りにしてたらなんか倒せちゃってました」
桜がえへへと笑い双見が顔を引き攣らせる
「これは…とんだモンスターずを連れてきちゃったのかも知れねぇな…」
双見が苦笑している
モンスターずて…しかし桜はまんざらでもないようだ、そんな中俺の中にふとある疑問が浮かぶ
「……そういえばどうして双見さんは俺と桜の名前を知ってたんですか?」
双見がきょとんとした顔をして桜の方に目を向ける
桜が口を開く
「あ〜言われると思った…実はね、前々からお姉ちゃんを通して特制局に保管されてる記録を見せてもらってたの」
「記録?」
「うん、本当は今日学校帰りにその話をしようと思ってたの、だけど壊変体が出ちゃったから…」
桜は少し目を伏せて言葉を続ける
「悠翔くん、3年前に欲異能が発現したでしょ?
“想現大禍”の時に…お母さんが亡くなってから…」
胸の奥がずきりと痛む
あの時の記憶は今でも夢に見る。崩壊する街、焼け落ちる家、泣きながら母さんのことを呼ぶ自分、目の前に佇む黒い影、瞳には宝石を握り込んでいる掌のような紋章
風を操る能力、俺の欲異能
この力が発現しなければ、俺は生きていなかったかも知れない
「悠翔くん、ずっと言ってたよね”母さんを殺した壊変体を見つける”って、それから失踪したお父さんも…」
桜は静かに言う
「だから少しでも悠翔くんの力になれたらと思って…
特制局なら”想現大禍”の記録にもアクセスできるかも知れないし……、悠翔くんの追ってる壊変体も特制局にいれば見つかるかも知れない、それで先に話を通してたの」
双見が後ろからふっと笑う
「なるほどな…だから今日澄華が”私の妹が来るっ!!”ってはしゃいでたのか…ま、筋は通ったみたいだな」
桜は気まずそうに頬をかく
「ごめんね…勝手なことしちゃって、本当はもっと相談するべきだったんだけど…」
俺は首を横に振る
「…いや、ありがとう桜。助かったよ」
自分の中の沈んだ気分が少しだけ軽くなった気がした
見上げると、ビルの谷間の向こうから特制局の建物が見えてきた…、見えてきたが…
え?ボロくね?
「え?ボロくね?」
とっさにに口を塞ぐ、流石に双見の前でそれは失礼ではないかと
しかし予想に反して双見は爆笑していた
「まぁ確かに…特制局って言ったって所詮は特殊災害対策本部の下部組織だし…金がねぇんだよ!!」
金がないのは特制局も俺も同じなようだ
「まぁ中はそこそこ綺麗にしてあるから、とりあえず俺についてきな」
言われるがまま双見についていく
1階は人がいない受付のようなフロアだった
「この建物は5階建てでな、特制局の本部は2階にあるんだ」
人がいない受付ほど意味のないものは果たしてこの世に存在するのだろうか…
そんなことを思いながら2階へと向かうとなんだかそれらしい扉が前に出てきた
双見がニヤリと笑う
「ルーキーちゃんず、ようこそ特制局へ」
扉を開けた瞬間仲にいた全員がこちらを向く、俺はこの瞬間があまり好きではない、最初に目に飛び込んできたの…
「ばぁっ!!!!!!」
「ひぃえぁあああああ!!!!!!」
背後から脅かされて桜が変な声を出しているが、残念だったな、俺は長年のホラーゲームによって驚かされるのは慣れっこなんだよ
「あれぇ〜?男の子の方は反応が薄かったなぁ〜」
「おい東雲あんまり耳元ででかい声出すなよ」
双見が耳をかきながら嫌な顔をする
「とりあえず各々紹介していくか…今後ろから驚かしてきたこの前髪が長すぎる女は東雲
「どもっ!東雲でぇーす!」
「それからあそこで済ました顔しながら紅茶を飲んでいるのが楠木
綺麗な三つ編みの女性がソファに座りながら優雅に紅茶を嗜んでいる
「もうっ!双見くん紹介がひどいよっ!全然飲んだくれなんかじゃないし今日はまだ3本しか飲んでないんだからっ!」
「そしてソファに座ってこっちのこと見てんのが影森
全員なかなか個性的だなと思っていると影森澄華と紹介された女が睨みながらこちらにやってきた
なるほど、近くで見るとなかなか迫力がある、頭に生えた鬼のツノのようなもの、よく見てみると左腕の袖は通っていない、事故か何かで欠けたのかも知れない。そう思っていると影森澄華が口を開いた
「桜、なぜ来た、特制局の仕事は遊びじゃない、今すぐ帰りなさい…」
そう言って冷たい目線を桜へと向ける、正直こういうタイプは少し苦手である、しかし桜は全く動じていない様子だった
「別に遊びに来てるわけじゃないよ!私だってしっかり目的があって特制局にきたの、それに久しぶりにお姉ちゃんに会えて私嬉しいな!」
桜がえへへと笑う
「……」
何か反論するのではないかと思ったが影森澄華は後ろを向いて部屋の隅に行って動かなくなってしまった
「…?何があったんだ?」
桜が小声で呟く
「私のお姉ちゃんああ見えて私のことめっちゃ好きだから私と話すといつもああなっちゃうの」
以下影森澄華の脳内
あああああああああああ私の妹可愛い、目がキラキラして髪もサラサラで、ウリっとしてて、頬がちょっとあからんでて、制服についてるリボンとかめちゃめちゃ似合ってて、なんか近づいたらいい匂いしたし、何あれ、この世の世界中全てのいい匂いのする花をかき集めてもあの匂いにはならないだろうという完璧な「妹臭」なんでこんなに可愛く生まれて来てしまったの!!あああああ桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜桜
「澄華、大丈夫?」
黒野灯が澄華を心配する、我に帰る澄華、こちらを振り向き
「邪魔になるようだったらすぐ帰ってもらうからね」
こちらに鋭い眼光を向ける
双見が説明を続ける
「それからあそこにいるエナドリ片手にパソコンに向かってるのがうちの情報系後方支援担当の夏目
センター分けの大学生くらいの年齢だろうか、目の下にものすごいクマができている
「あはは…その脳みそも無理やりカフェインで動かしてるんですけどね…あ、エナドリ在庫切れたんで追加で買っといてください」
「そして正面の偉そうに椅子に座ってるのがうちの局長、西園寺
40代前半だろうか?オールバックの髪の毛にメガネをかけたいかにもイケオジという感じの男がむせながら顔を赤らめた
「客人なんて久々だったからな…できるだけかっこいいところを見せようと…」
なるほど先程から飲んだくれが紅茶を飲んでいたりイケオジが普段吸わない葉巻を吸ったりしていたのはそういうことだったのか
「まぁ、これで一通り紹介は終わったな…ルーキーちゃんずも自己紹介しとけ」
自己紹介はあまり得意ではないのだが…
「五十嵐 悠翔、高3です…」
「同じく高3の影森桜です!よろしくお願いします!」
西園寺が口を開く
「ふむ…2人の活躍はすでに双見から聞いたんだが…実際に能力を見てみないことには、なんとも言えないな…
双見…少し相手をしてやってくれ」
「え〜俺っすか〜?楠木とかのがいいんじゃないっすかね〜」
楠木が口を開く
「ねぇ呼び捨て〜?一応私先輩なんだけどな〜!それと入局試験なら双見くんの能力が1番ちょうどいいって感じするな〜」
「相手してやってくれたら今月の給料かさ増ししとくぞ」
双見の目がやる気に満ち溢れる
「やりますっ!!!!」
双見がこちらを振り向く
「というわけでルーキーちゃんず…怪我しても恨まないでね」
意地悪な笑みを浮かべる
どうやら最悪の入局試験が始まってしまうらしい
「よしっ!屋上行くぞ!俺についてこいっ!」
双見の背中についていく
「あれ?悠翔くん、ちょっと緊張してる?」
桜が心配そうにこちらを見つめる
「そりゃあ、だって相手はプロで俺たちが苦戦してた壊変体を一撃で仕留めたやつだぞ?」
「大丈夫だよっ!私がついてるからね!」
桜の言葉にはどこか温かみがあり安心感があった
屋上の扉を開けると夕焼けの光が差し込んだ
双見がこちらを振り向き、ニヤリと笑う
「さぁて…ルーキーちゃんず、準備はいいか?」
「……いつでも」
俺は鞘付きの刀を構え、桜も薙刀を構えた
後ろの扉からさっき紹介された人たちがゾロゾロと出てくる、どうやら観戦しにきたようだ
「五十嵐くんたちっ!頑張ってねぇっ!」
東雲さんがひらひらと手を振っている
西園寺が口を開く
「どちらかが動けなくなった時点で試験は終了する、欲異能の使用は許可する」
心臓が高鳴り、筋肉がこわばる
「ーー試験開始」
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