第3話 またのお越しをお待ちしております!
余韻に浸っていると、背中の方からガラガラとベルの音が聞こえた。どうやら、客が入ってきたようだ。ふと、左のポケットに手を突っ込んでみた。いつのときか、無造作に落ちていた金貨を入れていたのを思い出したのだ。いくら魔王とはいえ、食い逃げをするような真似はしたくない。握った手を広げて見やると、見たことのない金……銅?そして……銀?になっているではないか。足りるのか、足りないかも分からない。というか、この店を出たら何処へ向かえばよいのだろうか。
それよりも、いつ自分が魔王だとバレるか分かったものではない。一先ず、代金を払って此処を出よう。
「あー、支払いだ。これで良いか」
机に一番大きな貨幣を置き、店員を呼びつける。カウンターの奥からまたあの女の店員が出てきた。彼女とマスターしかいないのだろうか。彼女はにこやかに「こちらへおねがいします」と元気よく手を挙げた。
貨幣を持ち、彼女がいるカウンターまで向かう。青い皿に、貨幣を置いた。よく見ると、500、と書かれている。この貨幣の価値だろうか。
「はい、500円お預かりします。200円のお返しです!ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております!」
彼女はそう言って、礼儀正しくお辞儀をした。それにつられて、サニーも一礼した。
ドアノブに手を掛ける。
ガラン、とベルの音がしたかと思うと、また、あの電撃と耳鳴りと頭痛だ!
ゆっくりと瞬きをすると、目の前は薄暗い室内だ。右手には、銀色に光る鍵だ。
この鍵が、トリガーだったのだろうか。
呆然としながら、脱ぎ捨てていった衣服を拾い、身にまとい、魔王としての姿を完成させる。玉座に腰掛ける。外は明るい。まだ時間はそれほど経っていなかったのだ。
蝙蝠型の魔物が、縦に横に回転しながら目の前に飛んできた。
「魔王様!ハッジマリタウンを縄張りとしていた上級魔族のボスがやられました!」
「そうか」
まだ魔王の脳内には、あの夢のような食事処が広がっていた。
そのようなことを我に報告して、どうしろと?
嗚呼、またコーヒーが飲みたい。
勇者よ、願わくば、また我がコーヒーにありつけるまで、魔王城へ来るのはやめにしないか。
魔物は焦点の合わない魔王の瞳を見てガタガタと歯を震わせる。
魔物の群れは、それはそれは見事な働きを見せ、今日魔王城へ勇者が来ることはなかった。
【続く】
魔王、モーニングを嗜む〜討伐されるその日まで〜 楽 白千 @raku-hksn7
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