音楽室の脚
えるん
第1話(完結)
音楽準備室に入ると私は電動ドリルをどんと鳴らし音楽室と準備室とを隔てる壁に穴を開けた。腰の高さの位置に空いた穴は片目で覗くのにぴったりの大きさで、私はそこから音楽室を見た。グランドピアノが背を向けていた。都子の脚は程なくして音楽室に入ってきた。プリーツスカートの裾と二本の白い白い脚が見えた。
彼女の脚はピアノの向こう側にちょこんと落ち着いて、優雅な音色を奏で始めた。
ふと音が途切れて彼女の脚がシャッと立った。彼女は内臓を全て吐き出そうとするかのような声をあげて鍵盤を叩き、ピアノの脚を蹴飛ばした。人形のようにキレイな彼女から匂い立つくさみに、私は恍惚となった。思いも寄らぬ宝物を掘り当てたのだ。
扉をごろごろ鳴らして別の足が入ってきた。男子の上履きを履いた足は都子の前に立つと、もじもじした。都子の足は彼の方を向いていた。彼女は拒絶する。私は知っている。知っているのだ。やがて向かい合った四つの脚の膝小僧は羞じらいながら接近してちょんと口づけた。私は自分の歯ぎしりを聞きながら穴から離れ、準備室に転がる弦楽器の弦を抜き取り、その強度を手で確かめた。
気が付くと私は音楽室にいて、足下には都子とは似ても似つかぬ物体が転がっていた。その死骸の腿の内側には絵画の上を這うハエのようなほくろがあって、私はひどく厭な気持ちになった。
ごろごろと音楽室が開かれて、先生、加奈美、と震えた声がした。都子が立っていた。ああ思い出した。これは都子を妬んでいた脚だ。違ったのだ、違ったのだ。私は都子の汚れ一つない脚を見た。深い安堵が去来した。
音楽室の脚 えるん @eln_novel_20240511
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