第3話:闇魔法使い、過去語る。

その後、ルシエルはセリアと共にハイリス城からセリア城へ向かった。


気まずい空気の中、ルシエルはやっとの想いで口を開く。

「セリア...本当にごめん...」

「教えてくれなかったことは正直、ショックだったわ。でも私があなたの立場だったらきっと言えなかったでしょうね...」

ルシエルもセリアも互いに自分の行動を悔いているようだった。

その気持ちを察するかのように少し開けた馬車の窓から冷たい空気が舞い込んだ。


「ルシエル、いつ自分の主属性が闇だと気づいたの?」

「...6歳の時だよ。」

そう言うとルシエルはもう隠すことも無いからか自身の過去を語りだした。


属性検査を受けたその日から、ルシエルは戦争孤児であることを理由に教会へ引き取られた。

両親を失ってから教会に引き取られるまで汚れた孤児院でいじめを受けていたルシエルにとって、教会で自身が神のように扱われていることはむしろ恐怖だった。

いつこの幸せを失ってしまうのか。幼いながらにそれが何よりも怖かったのだ。


だからこそ、ルシエルは必死に学び、魔法の修練を続けた。

そんなある夜のことだった。


宮廷魔法使の第一試験は極限魔法の可否だ。

極限魔法とは、自分の主属性でしか発動することのできない上位魔法である。


今まではどんな魔法であっても冷静にこなしてきたルシエルだったが、極限魔法の修練に入った途端、その成長はぴたりと止まった。

いくら詠唱しても、いくら鍛錬を積んでも極限魔法は発現することができない。

火も、水も、風も土も。どの属性にも反応しない。

その夜、ルシエルは初めて自分の主属性はどの属性に当てはまっていないのではないかと考えた。


闇属性の子供が生まれる確率は1年に1人がいいところだ。そのため、属性検査では水晶に何も映らない子供が闇属性であるとされる。

その頃にはすでにハイリス王国の歴史も学んでいたために、自らの主属性が闇であることはだれにも知られてはならないことは分かっていたために、ルシエルの心情は曇り切っていた。


真夜中、教会の練習場に月の光が差し込む中で、震えながら手を宙にかざした。

国立図書館にかろうじて置いてあった「闇魔法について」という本を頭の中でもう一度読み直し、極限魔法の詠唱を始める。


その刹那、周囲の光が一瞬で吸い込まれた。

それが自らの主属性が闇であると悟った瞬間であった。



「それから何度も何度も闇以外の極限魔法を練習していたら、すべての極限魔法を出せるようになったんだ。」

練習時、何度も口から血を流していたことを思い出しながら自傷の笑みを浮かべる。


「ごめんなさい。私が気づいてあげられなかったことにも責任があるわね。」

「心も休まらなかったでしょう。」

過去の話を聞いてあまりにも辛そうな顔をするセリアを見て、ルシエルはセリアの頭をそっと撫でる。


「そんなことはないよ。セリア、君と出会ったから僕は魔法を頑張れたんだ。」

「...ありがとう」


その言葉に、セリアは小さく息をのんだ。

窓からの風がふたりの間をすり抜けていく。

ルシエルの手がその美しい髪に触れた瞬間、セリアは胸の奥が熱くなるのを止められなかった。

セリアの頬が赤く染まり、俯く彼女の心の内を知る由もなく、ルシエルは顔を覗き込んだ。


「セリア、どうかしたの?もうすぐで着くみたいだ。」

「い、いいえ!」


その声が馬車の中に弾み、ふたりは思わず視線を交わした。

窓の外では、セリア城の白い尖塔が朝日に照らされて輝いていた。






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